第1章 異世界への転生編
第1話 アラサー異世界に転生する
「また熊か」
「グルル・・」
奏は魔物に手を向かって手を突き出し、魔力を込める。
この魔物は強さの割に換金率が低く、思ったよりも稼げない。
「飛んでけ」
奏がそう言うと風の刃が放たれ、熊の魔物を切り裂いた。
異世界に転生して半年、魔物の住まう森でただひたすらに魔物を狩る毎日。
「いったいいつになったらこの生活から抜け出せるんだ・・・」
そうつぶやき、熊を魔法で宙に浮かせながら住処に向かった。
カタカタ、カタカタとなるキーボードの音。
時計は夜の8時を指しており、終わりそうにない仕事を片付けている。
窓の外はすっかりクリスマスムードに包まれており、カップルやら家族ずれやらで賑わっていた。
「はぁ・・・あのクソ上司、どんだけ仕事残してんだよ」
昔からこうだ。俺は昔から人より少し、いやかなり運が悪いと思う。
でなければわざわざクリスマスの日にまで上司に押し付けられた仕事をするはめにはなっていないだろう。
両親は俺が小さいころに離婚したためその後は母親と2人で暮らしていた。
だが母親は俺が10歳の頃に過労で倒れてしまい、そのまま亡くなってしまった。
その後俺をどこが引き取るかで散々もめて、結局母の実家である祖父母の家に預けられた。
だが祖父の家はなかなか昭和を風物とさせる厳格な家で門限は厳しい。
破れば平気で殴られるため、おかげでまともに友達を作ることもできなかった。
それに母は父と駆け落ちするように家を出たせいで、祖父母の俺に対する態度はかなり酷かったと思う。
そんな祖父母も俺が高校を卒業し、今のブラック企業に入って少ししてから亡くなったため若くして天涯孤独の身となったわけだ
「あれ・・」
突然視界が揺らぎ、意識が遠のいていく。
「はぁ・・・またかよ」
以前にも働きすぎてぶっ倒れたことがあり、その時は気が付くと病院のベットの上だった。
今回も病院で目覚めるのだろうと思っていたら、目を開けるとなぜか暗い洞窟の中にいた。
「は?」
あまりに突然の出来事で呆気にとられていると、洞窟の奥から大型の狼が近づいてきた。
「グルルルル!!」
「ひ!」
俺は急いで立ち上がり、洞窟の中を駆け抜けた。
「グルルルル!!!」
「まだ追って来てんのかよ!」
あれからかれこれ10分は走り続けているが、それでも狼は追ってきている。
その後も走り続けていると、外の光が洞窟内に漏れ出ているためか、かなり明るい道が続いていた。
「出口だ!」
その後ようやく洞窟の出口が見え始め、俺は最後の力を振り絞って走り抜けた。
「ようやく・・・ハァ、ハァ・・・出れた」
しばらく息を整えた後、洞窟から外に出ると草木が生い茂り、どこまでも高い木がいくつもそびえたっている密林が広がっていた。
「嘘だろ?やっと洞窟から出たのに・・・そうだ!狼は?」
後ろを確認すると、狼は入り口付近まで来た後になぜか洞窟の奥へ引き返していった。
ひとまず安堵するが、状況がよくなったわけではない。
「こういう時、まずは水と食料の確保をしないとな・・・」
昔見たサバイバル特番の内容を思い出し、密林を探索することにした。
しばらく探索していると、近くから川の水が流れている音が聞こえる。
近づくと透き通った水が流れており、魚も何匹か確認できた。
その時自身の姿が水面に映り、叫び声をあげた。
「なんじゃこらぁぁぁ!?」
そこには白髪で緑色の目をした幼い美少女が写っていた。
「・・・これでよしと」
俺は近くにあった竹を折って皿を作り、川の水をすくった。
あれからこの姿になった原因をいろいろと考えたが、今はひとまず後回しだ。
「確かそのまま飲むと微生物とかのせいでお腹壊すんだよな」
そうなればますます水分を失い危険な状態になってしまう。
そこで煮沸消毒をする必要があるのだが・・・
「火がないんだよな、なんかファンタジーな世界っぽいし魔法とかで出せないかな?」
指先に火の魔法がでるように力を籠めたり、イメージをしたりしたが何も起こらない。
さっき竹を折った際に、こんな幼児の細腕でまるで枝のようにぽきりと折ることが出来たため、もしかしたら魔法的な力が宿っているかと思ったがそうではないらしい。
「地道にやるか」
幸い雨が降っていなかったのか、辺りには乾いた枯れ木がそこら中に落ちている。
その日は結局原始的な方法で火をおこし、ようやく飲める水を確保したところで体力が尽きたため、そのまま眠ってしまった。
目が覚めると日が昇っており、昨日起こしたあれだけ苦労してつけた火はとっくに消えていた。
「そういえば全然空腹を感じないな・・・」
不思議なことにこの体になって昨日から何も食べていないのだが、一度も空腹を感じていない。
それどころか水を飲んだ際に、少しお腹が膨れたような感覚がした。
いまいちこの体の仕組みがよく分からない。
ただこの状態は好都合だ。食料をとる必要がないため、このサバイバル生活はかなり楽になるだろう。
次の日もあたりの散策に時間を費やした。
すると川上で小さな集落を見つけた。
「グギャ・・」
どうやらあの人型の生き物の住処らしく、ざっと見ただけでも数十匹は住んでいるようだった。
「見た目は完全にファンタジー定番のゴブリンだな」
「それに、あれって」
しばらく観察していると、ゴブリンに連れられている人間の少女達を発見した。
少女たちは鎖に繋がれていて身動きが取れないでいる。
そのままゴブリン達に連れられ、集落の奥にある小屋に閉じ込められた。
「うわ・・・あれ小説とかでよく見る奴じゃん」
この後あの少女達がゴブリンに何をされるのかは想像がつく。
「何とか助けたいけど、さすがに無理だよな」
力はいくらか強くなっていても、所詮一人の幼女だ。
それに前世は格闘技なんて無縁の人生だったため、まともに戦えない素人が数十匹のゴブリンが集まっている集落に正面から行って何ができるのだろう。
「せめてあの子達が逃げ出せるように、あいつらから気配を消せれば・・・」
俺はしばらく作戦を考えているとある一つの妙案を思いついた。
「よし、この作戦なら・・・」
俺はさっそく作戦を実行することにした。
この作戦を行ったことで、俺はこの世界で運命の出会いをすることになる。
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