出ていけと言われても

 その後、朱那おばさんからこう説明してもらった。

 まず、先代の当主だったのはわたしのおじいちゃん。その娘として、長女のあかね――わたしの母さんと、次女の朱那しゅなおばさんが生まれた。

 当然、次の当主候補は母さんになるわけだけど、母さんはそれを嫌がって家を飛び出し、その先で父さんと出会って、わたしが生まれた。

 一方母さんが飛び出してから少しして、わたしのおじいちゃんが亡くなった。

 その時には母さんは赤崎家から見て行方不明状態。

 でも死んではいない以上、あくまで当主は母さん。朱那おばさんは当主代理。

 もちろんそれはまずいので、朱那おばさんは必死で母さんを探す。

 しかしそこに届いたのは、母さんが死んだという知らせだった。


 ――つまり、名目上でも母さんが当主だった以上、その娘のわたしが一番の当主候補、ということになる。朱那おばさんではなく。

「そうだったんですか……」

 説明はされた。けど、納得はいかない。

 当主のイメージは湧いてないけど、わたしがなれるとは、とても思えない。

「その、当主というのは、何をすればいいのですか?」

「すずめさんは小学生ですから、大人たちの話し合いの場に出ろとか、お金の管理をしろだとかは言いません。すずめさんには、自らの謎解きの力を発揮してほしい」

「そんなこと……」

「そのために、鷹と隼にすずめさんをテストしてもらったのです。当主にふさわしい能力があるかどうか」

「そうそう。そしてすずめなら大丈夫」

「鷹、あんまり気楽に言うなよ。まあ、すずめに力があるのは間違いないけど」

 鷹くん隼くんは、朱那おばさんの隣でうんうんとうなずいている。

 やっぱりあの2人も、朱那おばさんと同じ。わたしを赤崎家の当主にしたいようだ。

「でも、無理です」

 わたしは、朱那おばさんの視線に押されつつも、何とか言葉を出す。

「どうしてです?」

「わたしなんかに当主なんて……」

 当主というのが、家の代表を指すというのは、わたしだってわかる。

 そんなものになったら、どうしても目立ってしまうじゃないか。

 出しゃばるようなことになったら、また……

「そうですか。しかしこちらとしても、すずめさんが当主にならないというのなら、この家に置いておく必要がありません」

「えっ」

「嫌だというのなら、ここから出ていってもらっても構わないのです。その場合、正式にわたしが当主に、という話になるのでしょうが」

 出ていけ、ってこと?

「待てよ母さん!」

「それはいくらなんでもやりすぎだ」

 鷹くんと隼くんが声を上げるが、朱那おばさんは続ける。

「しかし、すずめさんは当主にするため引き取ったのです。それを拒否するようなら、この家に居場所はない」

 わたしを厳しい視線でにらむ朱那おばさん。

 やっぱり朱那おばさんの中で、わたしが当主になることは決定事項なのだ。

「別にそこまでしなくてもいいだろ!」

 鷹くんが立ち上がった。明らかに怒っている。

「母さん、すずめに力があるのは確かだ。当主じゃなくても、この家にいてもらって損は無いんじゃないか」

 鷹くんをなだめつつも声を上げる隼くん。

「じゃあ2人は良いの? 当主に最もなるべきなのはすずめさんだって、わかってるでしょう」

「そうだけどさ、これですずめに嫌われるのは母さんも嫌だろ」

「それにすずめだって、いきなり言われて『はいわかりました』なんて言えないさ。母さんは結論を急ぎ過ぎなんだ」


「まあ、それもそうね……」

 鷹くん隼くんにいっぺんに言われて、朱那おばさんは大きなため息。

「すずめさん。あなたはこの海老川の街にも、新しい学校にも慣れなければいけない。だから少し時間を与えます。ゴールデンウィークまでに、当主になることを約束してほしい」

 今は4月に入ったばかりだから、1ヶ月以内に返事をくれ、ということになる。

「もしその約束が果たされないならば、すずめさんをどうするかは我々だけで決めさせてもらいます」

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