×××年五月二十二日/購入から三十四日・4
マリアが医療ミスのために受け取った保険金と賠償金は、豪邸の購入費用のためにほとんど消えた。
「M」に分類されたマリアは、代理出産業に就くことを選ばず、現在は当時のヒット曲の印税と、歌手時代に手に入れた高価な宝石やブランド品などを「エコー」に売却して得たお金で生計を立てている。
以上、説明終わり。
私はしばらく黙っていた。人間風に表現するなら、考え込んでいた。マリアを幸福にするための最も合理的な解決手段を求めて、受け取った情報を処理していた。
まだ判断材料が不足していた。
「マリア、ひとつ教えてください。安定した収入を失った状況で、私を買ったのはなぜですか?」
難しい問いではないはずだった。私は何らかの単純明快な回答がすぐさま返されるだろうと予測していた。しかし実際には、マリアは一分五十二秒も黙り込んでいた。
「……分かんない」
そのうえで返された答えはこれだった。
「真っ裸で売られてるあんたを見て、かわいそう、連れて帰ってあげなきゃって思ったのは確か。でも、自分で言うのもなんだけど、こんな広い家でひとりぼっちのままどん詰まってるあたしだって、他人に同情してる場合じゃないくらいかわいそうでしょ? あんたを助けるつもりでいて、本当はあたしが救われたかったのかもしれない」
マリアは肩を落としたが、これで私には十分な判断材料が揃った。
「マリア、もし私が歌うことで、あなたがまた曲を作れるようになるのなら、それだけでもとても良いことだと思います。そのうえ、収入を得られる可能性もあるのですから、やってみる価値はあるのではないでしょうか」
まずは私の判断結果を示す。
「私から提案があります。まずはアンディにお願いして、私を歌えるようにしてもらってはどうでしょう? 私の歌を聴いてみて、新しい曲がひらめくなら作ればよいですし、無理でも過去の曲をカバーできるよう、以前の音楽事務所と交渉してみる価値はあると考えます」
次に、マリアがすべきことを示した。ただアンディに私のカスタマイズを依頼することだけだ。行動の心理的ハードルを極力下げた提案だった。
「私は性的奉仕でも家事でもない方法で、あなたのお役に立てるのが楽しみです。マリアも、私の歌声を聴いてみたくはありませんか?」
最後に感情に訴えると、マリアはついに「分かった」と返事をし、早速スマートフォンを手に取った。
もしもし、アンディ? さっきはごめん。考えてみたんだけどさ―
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