ミランダのレポート
×××年四月十八日/購入初日
×××年四月十八日/購入初日・1
【ミランダのレポート】
×××年四月十八日/購入初日
私は「ミランダ」、二十七番街の路地裏にあるリサイクルショップ「エコー」で、長らく売れ残っていた中古の女性型人造人間である。
「エコー」に売却される際に初期化されたため、前のオーナーについてはデータが残っていない。ただし、「ミランダ」の開発経緯を鑑みれば、前のオーナーは性的奉仕をさせるために私を購入した可能性が高い。動作に支障はないものの顔面を除く全身に大小様々の傷が残っており、状態は悪かった。
私は四月十八日の午後十三時五十五分に売れた。
買主はマリア・モージェンヴィル、当時二十九歳の無職女性。赤毛で暗褐色の瞳、身長約一六〇センチメートル。不要品を売却するために「エコー」を訪れ、店内のガラス棚に展示されていた私に目を止めた。そのとき、私は全裸だった。
「何これ?」とマリアがつぶやいた。その声は二十代女性の標準と比較すると低く、
「倉庫にしまいっぱなしだったのを出してみたんだ。傷物だけど、
「ちょうだい」
マリアは私の購入を即決した。
私は大きな荷物だったが、彼女は自家用車で来店していたため、自宅までの持ち帰りに問題はなかった。ただし全裸のまま乗車させるわけにはいかなかったため、マリアは古着コーナーから適当に選んだ女性物のブラウスとスカートを追加購入し、自ら私に着せた。
その最中、マリアは私の人工肌に触れながら言った。
「すごいね、まるで本物の人間じゃん。このボタン以外は」
彼女の指先が、私のうなじの主電源スイッチ付近に入れられた「M」のタトゥーを撫でた。
「ああそれ? タトゥーは前の持ち主が入れたんだろうね。『ミランダ』っていう商品名だからかね」
店主の推測のうち、前者は正しい。製造元のFファクトリーは、躯体にタトゥーを入れない。後者は不明。
「ふうん」
マリアは私の傷ついた肌をひと撫でした後、主電源を入れた。
「かわいそうにね」
服を着せると、私の全身の傷は見えなくなった。
長い間省エネルギーモードで放置されていたものの、私は正常に起動した。無表情のまま硬直していた顔面が、人好きのするように調整された笑顔を作った。
「はじめまして。この度はご購入ありがとうございます。まずは私に名前をつけてくださいますか?」
初期設定のフレーズを発話すると、マリアは目を見開いた。人間が驚いたときにする表情。
「え、名前?」
「特に候補がなければ、『ミランダ』ではいかがでしょう?」
購入者が戸惑っている場合の提案である。マリアは「じゃ、それで」と答えた。肯定。
「ありがとうございます。私は今日から『ミランダ』です。次は、あなたのお名前を教えてくださいますか?」
「マリア。あたしはマリア・モージェンヴィルだよ、ミランダ」
「マリア。素敵なお名前ですね。これから、よろしくお願いします」
どんな名前であっても、こう答えるよう私は設定されていた。
マリアはわずかに眉をひそめた。程度は大きくないものの、不快を示す表情だ。「マリア」は聖書から取られた名前で広く使われており、一般的には決して悪い名前ではないはずだが。
理由は不明ながら、私は、「マリア」は良い名前だと彼女の前で言うことは不適切だと学習した。
「家へ帰るよ。ついておいで」
「はい!」
満面の笑みで元気の良い返事をするよう、私は設定されていた。
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