第12話 相談
「ねぇ、ナターシャ。わたしなら、あの花の力を借りて、ネイの足を治してあげられるんだ。誰にも見つからずに、回復魔法をかけてあげられないかな……」
ナターシャが狩りから帰ってきたのは夕方。そして、トワはナターシャと二人で夕食を摂りながら、ネイのことを相談した。
「……あたしとしても、ネイのことは助けてあげたい。トワが色々な魔法を使えるっていうのは、まぁバレても大きな問題にはならない。けど、例の花のことは、やっぱりバレると村の人たちを不安にさせると思う」
「だよね……」
「回復魔法の他に、何かできることはない?」
「うーん……」
「あ、そういえば、あの花の実、強化の力を付与することもできたよね? それに、回復効果を付与するとか、できない?」
「あ、できるかも」
トワ本体には、結実というスキルがある。食用の実をつけるスキルで、特別な効果も付与できる。何の効果を付与しなくても甘くて美味しい実を作れるのだが、試しに強化の効果を付与した実を作ったことがある。
軽い付与だったが、それでもナターシャの戦闘力は一時的に一割程上昇した。もっと魔力を込めれば、さらなる上昇も見込めるだろう。
実はとんでもないスキルではないかとも思っていたが、どうしても使わなければいけないものでもなく、あまり使っていなかった。たまに甘味を味わう程度。
「わたしが回復効果を持つ実を作れば、ネイを助けてあげられるかもしれない……。でも、それをどこで手に入れたのか、って話になるよね……」
「うーん……あたしが森の奥地でたまたま見つけたとか言っておけば、誤魔化せると思う」
「そう? なら、とにかくやってみる」
トワは結実スキルで回復効果を持つ実を作り出した。形は桃に似ているが、色は白。
トワとナターシャで試しに食べてみたところ、甘くて非常に美味しい果実だった。そして、ナターシャが負っていた軽い擦り傷などはすぐに治った。
「……これがネイに効いてくれればいいんだけど」
「どこまでの効果があるかは、試してみるしかない。ダメ元で、とにかく勧めてみるよ」
「うん」
トワは同じ実をさらに五つ作った。目一杯魔力を込めたので、欠損だって治ることだろう。
それから。
「ちなみにだけど、トワはネイのこと、どう思ってる?」
夜、ベッドに並んで横になっているときに、ナターシャが少しばかり楽しげに尋ねてきた。
トワは一瞬きょとんとしてしまったが、これは恋バナという奴だと理解するのにそう時間はかからなかった。
(ナターシャもそういう話に興味あるんだ。強くなることにしか興味がないと思ってた)
「……それって、わたしがネイを異性としてどう思うかって話?」
「まぁ、そういうこと」
「うーん、かっこいい子だとは思うよ」
ネイはなかなかの美少年。さらに可愛らしい猫耳と尻尾もついて、随分とお得である。年齢も高校生くらいで、トワの精神年齢から見ても丁度良い相手。
しかし、トワはネイに深い関心を持っていなかった。ネイのことはよく知らないし、かっこよさで言えばネイよりもナターシャの方が勝る。
「かっこいいとは思うって、男の子としては興味ないってこと?」
「……うん」
「そっか。気になる子とか、いないの?」
「うーん……身近にとってもかっこよくて素敵な女の子がいるから、他の男の子は見劣りしちゃうなぁ……」
トワとしては、半ば冗談のつもりだったのだけれど。
「あ、そ、それって……あたしの、こと……?」
ナターシャが珍しく動揺している。
(おやおや? ナターシャは、もしかして男の子より女の子に興味があるのかな?)
「……身近なとってもかっこよくて素敵な女の子っていったら、ナターシャしかいないよ」
「そ、そう……へぇ……。あたしから見て、トワは、博識だけど変に偉ぶらない謙虚さがあるし、優しくもあるし、可愛いし……理想の女の子って感じもあるかなぁ……」
「そんなに褒められると恥ずかしくなっちゃうなぁ……」
若干頬が熱くなる。暗くて良かったと、トワは密かに思った。
「トワは……えっと……その……」
ナターシャが言いよどむ。いつもはきはきとしているので、その様子は新鮮だ。
まるで、恋する乙女のようでもある。
トワが続きの言葉を待っていたのだが。
「や、やっぱりなんでもない! もう寝る! ネイ、元気になるといいね!」
「……うん。そうだね」
ナターシャはトワに背を向けて、静かになる。
(……ナターシャ、わたしのこと、どう思ってるのかな? わたしをどう思っているかというより、わたしに好意を向けられていると思って、戸惑ってるのかな?
大人びて見えるけど、ナターシャも多感な女の子なんだなぁ……。もし、ナターシャがわたしに特別な好意を持っていたとしても、ナターシャだったらいいかもって、思っちゃうなぁ……なんて)
トワは、あえてナターシャにぴたりと身を寄せて眠りにつく。
夏で、夜も暑かったのだけれど、ナターシャはトワに離れろとは言わなかった。
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