第11話 夏
リクーク村での生活は、穏やかで心地良いものだった。
トワは自分の仕事にもすぐ慣れて、さらには頭脳が優秀すぎると村長に呆れられた。トワとしては普通のことをしているつもりだったが、この世界の水準だと天才の部類になってしまった。色々と任される仕事も増えたし、助言を求められることもあった。
村人たちは、トワに親切に接してくれた。余所者で、時に獣人を虐げる人族であるにも関わらず、それを気にした様子もない。人族という見方ではなく、トワをトワとして見てくれていた。
「獣人にだって、良い奴も悪い奴もいる。トワが敵じゃないことは、見ていればすぐにわかる。トワはもう、この村の一員だよ」
そんな風に言ってくれる人もいた。
トワは村長の手伝いで財政関係の計算をするだけじゃなく、他の仕事も積極的に手伝ってみた。実力を隠したまま狩りをすることは難しいので、畑仕事や家畜の世話などにも挑戦してみた。学校の勉強とは全く勝手が違い、戸惑うことばかりだったけれど、トワはそれらが新鮮で楽しかった。
ちなみにだが、この世界の者たちは日焼けしにくいらしいと、トワは気づいた。おそらく体内に宿る魔力のおかげで、自然と日差しから体が守られている。露出の多い状態で一日中日差しを浴びても日焼けしないので、間違いないだろう。
また、トワは先生の真似事のようなこともやってみた。子供たちを集め、読み書き計算を教えたのだ。
村の大人たちからはあまり期待されていない教育だったけれど、子供たちの学習能力は案外高かった。簡単な計算はすぐにできるようになったし、文字も覚えていった。
村長にも、村の人たちにも、大層驚かれた。しかし、日本での識字率などを知っているトワからすると、普通のことだった。
そうするうち、トワは、村の人たちからお礼を言われることも増えた。少し照れくさかったが、もちろん悪い気はしなかった。
ゆったりした日々を過ごしながら、トワは魔法の訓練もした。獣人の中にも魔法を得意とする者はいて、その人に魔法を使うコツを教えてもらった。
この世界の魔法は、スキルがあれイメージするだけでも発動できる。詠唱などは必要ない。
しかし、それだけでは高い威力を発揮することはない。威力を上げるためには、体内の魔力を上手く操作し、魔力を凝縮したり一気に放出したりする訓練が必要。無詠唱が普通だが、魔力操作の時間がかかるので、即座に魔法を撃てるのはすごいことらしい。
それを聞いて、トワは魔力の操作を重点的に行った。チィの持つ魔力は少なめだが、トワの魔力は多いので、魔力操作を覚えると魔法の威力は格段に上がった。
そもそも、この世界で魔法を使えるのは人口の四割程度。さらに、戦闘などに利用できるだけの威力を発揮できるのは、そのうちの半数。つまり、二割程度の人が、魔法を戦闘に利用している。それ以外の人は、生活に役立てるとか、魔法以外のスキルに魔力を利用する。
そして、魔力量は、一般的な大人の魔法使いが一万程度。三万を越えるのは一流で、かなり希有な存在。トワの魔力は三万を越えているので、かなり高い。
トワはナターシャに剣も習ったのだが、どうもこちらに突出した才能はないらしい。ダメではないが、ごく平凡。トワは魔法使いの道を選ぶことにした。
充実した日々を過ごすうち、あっという間に二ヶ月が過ぎた。
そして、夏の盛りに、ちょっとした事件が起きた。
猫半獣人の少年ネイが、魔物との戦いで両足を失ってしまったのだ。
ネイと一緒に狩りをしていた者がネイを助け、村に運び込んだため、ネイの命は助かった。しかし、ネイが狩人として生きるのは困難になってしまった。村に回復魔法を使える者はいたのだが、欠損を治す程の力はない。
ネイが運び込まれる様子を、トワは畑仕事を手伝いながら見ていた。皆が慌てている様子も、ネイが意気消沈している様子も。
(……わたしなら、ネイの傷を治せる)
トワが開花スキルと共に回復魔法を使えば、欠損さえも回復させられる。
しかし、人前で食人花としての姿をさらすのは良くない。それに、風魔法以外にも色々な魔法が使えると知られるのも避けたかった。
トワはどうするべきか迷い、ナターシャに相談してみることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます