第50話 出立
探してみると、例の三人は意外と早く見つかった。
兵士の一人に確認したところ、有事の際の避難場所があるとのことでそこに行ってみたら、三人ともいた。
三人とも捕まえて、殺した。
生きていることを後悔するくらいに痛めつけて、殺した。
その後、トワたちは捕まっていた者たちを解放。
当初はなんの希望もないような表情をしていたのだが、トワたちが化け物退治をしている間にそれが変わったらしい。人間らしい表情を見せるようになっていた。
「あいつらを殺してくれてありがとう」
爽やかな笑顔で礼を述べてくる者もいて、トワは少し複雑な気持ちだった。
復讐や報復なんてろくなものではないけれど、それを必要としてしまう者もいるのだ。
さておき、行く当てがないという者たちは、リクーク村に連れて行くことにした。トワたちはもう戻るつもりはないけれど、村の生き残りが暮らしているので、そう悪いことにはならないはずだ。
その他の事後処理として、トワたちは領主の屋敷の北にある離れを破壊した。気持ちとしては屋敷全部を壊してしまいたいところだったが、こんな場所でもまっとうに働いていた者たちもいるはずなので、全ては壊さない。
全てを破壊する代わりに、書き置きを残した。
『今後、理不尽な重税を課したり、誰かを虐げたりした場合には、この屋敷全部、もしくは町全部を破壊する』
今後町を統治する者が、誰も理不尽に傷つけないことを、トワたちは願った。
また、トワはユーベルト伯爵の親族を全て殺した方が良いのかもしれないと少し考えたが、それは一旦止めておいた。ただ、もしそのせいでチィの家族やシラド村に悪いことが起きるなら、やるべきことをしなければならないとも考えている。
トワたちがシラド村に戻ったのは、出発してから七日後のことだった。
トワたちはチィの家族と二日を過ごしたが、ユーベルト伯爵の顛末については語らなかった。もう大丈夫、大丈夫じゃなかったとしてもなんとかする、とだけ伝えている。
そして、トワたちは、シラド村を出立するときがくる。
まだ暑い夏の日。日差しの強さが、別れの寂しさを少しばかり緩和してくれていた。
トワは、村の出入り口まで見送りに来てくれたチィの家族に向けて、ペコリと頭を下げる。
「……短い間だったけど、一緒に過ごせて良かった。またここには帰ってくるけど、勝手に家を出ていく決断をしてしまって、ごめんなさい」
チィの家族は名残惜しそうにして、特に姉キィナと妹ミィは最後までトワに抱きついていた。
「……本当に、ちゃんと帰ってきなさいよ」
「もうこのまま会えないなんて、絶対嫌だからね!」
「わかってる。ちゃんと帰ってくる」
(できることなら、そのときにはちゃんとチィに会わせてあげたい。チィ、いつまで寝てるつもりなの?)
トワはもう一度チィに声をかけてみるが、返事はなかった。
チィを起こすのは諦めて、トワは二人と離れる。
「チィのことは、あたしがちゃんと面倒を見ていく。心配ない。ちゃんとまたここにも連れてくる」
ナターシャが宣言して、キィナがナターシャの前に立つ。
「……しばらく、チィをあんたに預ける。だからって、チィをあんたにあげるとかじゃないからね!」
「……もらうとかじゃないけど、チィはあたしと一緒にいることを望んでいるから、チィはずっとあたしと一緒」
「もう! あんたたち、一体なんなの!?」
キィナは最後まで納得していない様子だったが、無理に引き留めることはしなかった。
「……行ってくるね、皆」
トワはなるべく綺麗な笑顔を残し、ナターシャと共にシラド村を出立する。
旅の目的は、楽しいものではない。不幸な状況にいる者たちを助けることと、そして、自分たちの罪に対する償いをすること。特に償いについては、本来なら楽しんでもいけない。
でも、隣にナターシャがいるのなら、きっと悪い旅にはならないのだろう。
そして、ナターシャも、トワと同じことを考えているのだろう。
「……わたしたち、クズだよね」
トワがポツリとこぼす。
「そうだね。これは、クズ二人の旅」
「わたしたちはクズだけど……きっと、化け物では、ないよね」
「どうかなぁ……。わからない……」
「そっか」
「あたしは、化け物でもいいよ。トワの幸せを願うことが、許されるなら」
「そうだね。ナターシャの幸せを願うことが、許されるなら」
トワとナターシャは固く手を繋ぎ、ゆっくりと森の中を歩いた。
食人花に転生したけど、とある少女に宿って獣人たちと楽しく過ごす! ……つもりだったのに、村を滅ぼされた復讐で大虐殺しちゃった。ごめんね? 春一 @natsuame
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