第3話 ステータス

 トワは痛みに耐えてしばらく休んだ後、地面に寝転がりつつ、改めて魔力的な何かについて考える。


 その使い方はよくわからないのだが、体中に温かい空気をまとっているような感覚はある。



「……これをどうにかすれば、魔法とかが使えそうな気がするんだけどな」



 トワはまだこの世界のことをほぼ何も知らない。宿主である少女の記憶を読みとれればそれも幾分かわかるのだろうが、そういう力はない。ただ、一部の知識は受け継げるようで、この世界の言葉は使えている。



「ま、人の記憶を覗き見るのは趣味が悪いか。まだ十歳児くらいだとしても、他人には見せたくない部分だってあるよね」



 少女の記憶を読みとれないのなら、自分で考えるしかない。



「……火を起こすなら、火のイメージを持てばそれでいい? 呪文の詠唱が必要とか言われたら困るよ……」



 トワは左手を上に伸ばし、人差し指を立て、そこに火が灯る様をイメージする。


 すると、案外あっさりと指先に小さな火がついた。



「おおっ、すごいすごい。こんなにあっさり魔法が使えるんだ。これを大きくすることは……?」



 森の中であることを考え、いきなり大火力にはしない。ライターの火サイズだったものを、手のひらサイズの火にしてみる。



「へぇ、サイズは変わった。けど……これ以上は無理か。最大で直径五センチってところかな……」



 いくらでも炎を大きくできるわけではなかったが、魔法は案外簡単に使えるらしい。


 トワは、次に他の属性の魔法も試してみた。


 水をイメージすればコップ一杯分の水が生まれた。


 風をイメージすれば扇風機で起こす程度の風が生まれた。


 土を動かすイメージをすれば、地面の土がモコモコと動いた。


 雷をイメージすればバチバチと音がする程度の電撃が生まれた。



「……魔法を使うのは簡単だけど、威力がない。これはわたしの能力の問題か、この女の子の能力の問題か、あるいはどっちもか……」



 わからないことだらけで、まだまだ確認が必要だ。



「やっぱりステータスを見たいな。この感じだと、あっさり見られる……?」



 トワはステータスと念じてみる。


 すると。



 名前:天音トワ

 種族:暴食の食人花グラトニー・フラワー

 年齢:5歳

 レベル:18

 戦闘力:20,850

 魔力量:30,760

 スキル:食人、食魔、寄生、共生、休眠、エナジードレイン、魔力吸収、養分吸収、養分供給、分割、光合成、魔の目、誘引の香り、異臭、毒、結実、繁殖、開花

 ユニークスキル:才能開花、悪食


 宿主

 名前:チィ

 種族:人族

 年齢:11歳

 レベル:7

 戦闘力:520

 魔力量:1,820

 スキル:風魔法

 素質:火魔法、水魔法、雷魔法、土魔法、光魔法、闇魔法、氷魔法、回復魔法、空間魔法、重力魔法、飛行魔法、付与魔法、結界魔法、強化魔法、弱化魔法


 

「……この子はチィっていうのか。わたしは暴食の食人花グラトニー・フラワー? 不穏な種族……。ステータスが頭に浮かぶのは便利だけど、これだけだとよくわからないものも色々……」



 もう少し詳しく知りたいと思ったら、それについても答えが浮かんだ。



 食人:人間を食い、生命力、魔力、養分を得て、自分が成長するための糧とする。レベルに関係なくステータスが上昇する。


 食魔:魔物や魔族を食い、生命力、魔力、養分を得て、自分が成長するための糧とする。レベルに関係なくステータスが上昇する。


 寄生:人間、魔物、魔族、動物を問わず寄生し、その体を意のままに操る。ただし、相手の魔力量が多い場合、失敗することもある。


 共生:人間、魔物、魔族、動物を問わず体内に入り込み、共生する。ただし、相手の魔力量が多い場合、失敗することもある。


 休眠:宿主に肉体の主導権を渡す。自分の意識を残すことも、完全に眠ることもできる。 


 エナジードレイン:人、魔物、動物、植物などを問わず、触れた相手から生命力を奪い取る。生命力を奪うと体に活力が満ち、傷などがあればある程度回復する。その生命力は自分のためにも宿主のためにも利用できる。ステータスの上昇はない。


 魔力吸収:人、魔物、動物、植物、鉱物などを問わず、触れた相手から魔力を奪い取る。その魔力は自分のためにも宿主のためにも利用できる。ステータスの上昇はない。


 養分吸収:人、魔物、動物、植物などを問わず、根を刺した相手から養分を奪い取る。その養分は自分のためにも宿主のためにも利用できる。ステータスの上昇はない。


 養分供給:蓄えた養分を宿主に供給する。


 分割:自身の体を分割できる。その分身を操ることも可能。


 光合成:水、土、光から養分を作り出す。


 魔の目:魔力の流れで周囲の状況を知覚する。


 誘引の香り:人間や魔物を引き寄せる匂いを発する。


 異臭:人間や魔物を遠ざける匂いを発する。


 毒:多様な毒を作り出す。


 結実:食用の実を付ける。特別な効果を付与することも可能。


 繁殖:種子を作り、新しい個体を生み出す。その個体には独立した自我が宿り、親の命令にある程度従うが、完全な制御はできない。


 開花:花を咲かせることで能力を飛躍させる。


 ユニークスキル:その種族が稀に身につける非常に珍しいスキル。


 才能開花:宿主の眠っている才能(素質)を引き出す。


 悪食:どんなものでも糧とする。このユニークスキルを持つと、本来人間だけを養分とする食人花が、人間以外のものも養分にすることができ、人間以外にも寄生、共生できるようになる。


 素質:まだ顕在化していない才能。一生顕在化しない可能性も高い。


 戦闘力:総合的な戦闘能力。



「なるほどなるほど……。わたし単体だと派手な魔法をドーンとぶちかますようなことはできないけど、宿主次第で色々できるってことかな……。それに、才能開花って結構すごいんじゃない? チィって子も、わたしが宿る前は風魔法しか使えなかったんでしょ? それが、わたしが宿っていることで他の属性の魔法も使えるようになってる」



 この世界において、普通の人間が扱える魔法属性の数は不明。もしかしたら、意外と全属性を使えるのが一般的なのかもしれない。


 しかし、一属性が普通であれば、他の属性の魔法も扱えるようになったのはかなりのメリットだ。



「今のチィは、すごい魔法使いなのかも。……そして、休眠ってスキルもあるのか。これを使えば、チィの意識が戻ってくる……?」



 トワは、チィの意識を起こすつもりで休眠を使おうとする。


 しかし、上手くいかなかった。



「……ダメか。なんだか、チィが目覚めることを拒んでる感じ……。まぁ、こんな森の中に一人で倒れていたくらいだし、何かしら事情があるのかな。しばらく眠らせておいてあげよう。えっと、とにかく、回復魔法が使えるなら、傷も治せる……? 流石に欠損までは無理……?」



 トワはまず、右腕に回復魔法をかけてみる。


 浅い傷はそれで治るのだが、欠損が治る気配は微塵もない。



「ええっと……開花ってのがあったね。能力を飛躍させるって……」



 トワは、スキル開花を使ってみる。すると、体中から茎が伸び始め、すぐにジャスミンのような白い小花が咲き乱れる。


 その状態で、トワは再度回復魔法を使った。



「お、おお? 普通に腕が再生してく……。これはすごい……。けど……」



 トワは、傷が治っていくのと同時に、自分の体がどんどん弱っていくのを感じてしまう。



「あー、これ、たぶん体内の栄養が足りなくなってる感じだ……。新しい腕を作るのに、栄養を消費しすぎてる……。だとすると、そこの熊で栄養補給しないといけないか……」



 トワは蔓を伸ばし、歪な花園となった熊と接触。既に熊の体内を侵していた体の一部とも結びつき、養分を補給する。



「ここは、食魔を使えばいいのかな……やってみよう……んっ!? な、何これ、気持ちいい……かも?」



 熊の体内から、トワは生命力、魔力、養分を吸い上げる。それがトワの体内に入ってくると、どこか淫猥ですらある快感を覚えてしまった。



「あ……すごっ……これ、いい……。あふっ……病みつきになりそう……」



 快感を覚えているのはトワ本体なのか、チィの肉体なのか。トワが人間の肉体に宿っているからこそ感じられる感覚のようにも思うが、詳細はわからない。とにかく気持ちいい。



「……んくっ……あはぁ……!」



 思わず、誰にも聞かせられないような喘ぎを漏らしてしまった。羞恥で頬が染まる。


 ともあれ、トワは体力を取り戻した。



「あー……自分が食人花だってこと、実感するなぁ。こういうことに快感を覚えるなんて……。まぁ、気持ちいいのは別にしても、他人を糧にして、自分の体を修復できるのは便利だ……。けど、結構えげつない力だよね……」



 トワは食人花としての力とチィの力を併用し、失った手足を復活させた。動かしてみても全く違和感がない。



「良かったぁ……。わたしのためにも、チィって子のためにも」



 トワは起き上がり、手足の感触を再度確認しつつ、死体となった熊を見る。



「……夢中だったから気にしてなかったけど、生き物を殺しちゃったんだ。まぁ、こっちが生き残るためだから仕方ない。あとは……できる限り食べておこう」



 トワは限界まで食魔を行使。再びの快感に身を捩らせた。


 最終的に熊の体は二割程萎み、宿す魔力は空になっていた。その一方で、チィの体は艶々して、活力に満ちていた。内股を伝う何かについては、早々に拭っておいた。

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