第16話 ヒロインだけで楽しく過ごせるなら、いよいよ主人公いらなくない?

 恐れていたことが起きてしまった。


 友達と幼馴染に、女装してクラスメイトと遊んでるのがばれるなんて……。2人とも一度俺の女装を見てるから言い訳できないし。うう、どうして千城と琴莉がここにいるんだよぉ。 

 

「気づいてなかったの?」


 動揺する俺に、来緒根は意外そうに尋ねた。

 いやお前は気づいていたのかよ。なら隠れるなりしてくれよ。なんで制服デート続行するんだよ。


「やっほー、あゆくん、舞凛ちゃん」


 俺の気持ちなどつゆ知らず、千城は陽気に手を振りながらこちらに駆け寄ってきた。

 そして後ろから、琴莉も控えめについてくる。他の女の子と遊んでいるのを好きな人に見られるだけでも悲しいのに、よりによってこんな姿で……この世の終わりだ。


「こんにちは、千城さん。と、、、、、、、、」

「島柄長琴莉です」

「そう! 島柄長さんね」


 絶望する俺をよそに、来緒根はしっかり挨拶している。だが琴莉の名前は覚えていなかったらしい。 

 まあまだ4月だし、クラスメイト全員の名前が頭に入っている方が珍しいよな。俺も来緒根の取り巻きの名前知らんし。


 ところで。

 どんなに辛く苦しい時であろうとも、俺は百合を応援する系ラブコメ主人公として、絶対に確認しなければならないことがある。

 俺はセーラー服の羞恥に耐えながら、2人に尋ねた。


「あ、あのさ」

「ん? どした妹」

「千城と琴莉って、仲が良かった……ノネ」

「うん。最近よく話すんだよね〜」

「仲良くしていただいています」


 最高だ!!!!!!!

 まさか俺の知らないところで、こんな百合が芽生えていたなんて……! けっこう一緒にいたのに全然気がつかなかったぜ。まだまだ世界も捨てたもんじゃないな。


「それじゃあ、どういう関係なんですか?」


 琴里はさらっと俺たちに聞き返した。

 声は優しいのに、その目は来緒根の瞳をまっすぐに捉えていて、絶対に逃さないという強い意志を感じる。心なしか、来緒根も少し怯んだように見えた。


「そうねぇ……私のお手伝い、といったところかしら」


 言葉を濁す来緒根。

 そらそうするしかないよな。己の性癖のためにクラスの男子に女装させてるなんて、口が裂けても言えるはずがない。俺もできればばれたくないし。


「もしかして、前に歩夢くんが言ってたバイトですか?」

「えっと……ええ」


 いや〜、ズバリ正解しちゃうあたり、さすがは俺の幼馴染だな〜。勘が鋭いですわ。芯を食った質問をばしばしとぶつけてくるもんね〜。そういえば昔から俺、琴莉に隠し事をできたためしがなかったじゃんよ〜。は、はは、ははははは……笑えん。


「琴莉ちゃんね。最近歩夢くんが何かコソコソやってるみたいって心配してたんだよ」

「うさぎさん!? それは内緒にって──」

「あ、ごめん琴莉ちゃん。つい」

「もう……いいですけど」

 

 琴莉が俺を心配……! それはとっても嬉しい。 嬉しすぎるよ。そんなに俺のことを気にかけてくれてたのね。

 千城さんはさっきからずっとニヤニヤ俺を見ていたので、正直かなり腹がたってたけど、良いこと教えてくれたので許してあげます。それに、この2人は名前で呼び合うくらい仲を深めてたんですね。喜ばしい限りです。百合の花園よ永遠に!。


「でも私。今日、歩夢くんが楽しそうなのを見て安心しました」

「楽しそう……?」

「はい。来緒根さんと一緒にいる歩夢くん、とっても活き活きしてましたよ!」


 琴莉はキラキラで純粋な笑顔を俺に向けた。

 ……まじか。来緒根との関係を誤解されちゃったよ。俺が好きなのは島柄長琴莉ただ一人なのに。

 けどそもそも、俺と来緒根が遊んでるのを見てもこんなにいい表情をしている時点で、琴梨は最初から俺のこと眼中にないんだよな。はぁ。


「──それに今日の歩夢くん、とっても可愛いですよ?」


 不意に発せられた琴莉の言葉に、一瞬で俺の顔は耳まで真っ赤になってしまった。

 ……やっぱり琴莉はずるいよ。


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