第19話 メイド服はどのキャラが着ても盛り上がるよね、

「いや〜ひろいねぇ。舞凛ちゃんのお家」


 来緒根の部屋にお邪魔した千城は、まずは感嘆の声を上げた。

 俺も初めてここに来た時は、まったく同じこと思ったっけ。下手したら学校より広いからな、この屋敷。


 学校で千城の気持ちを聞いた後。

 俺が改めて確認を取ったところ、来緒根は千城が来ることを喜んで了承してくれた。今朝の取り巻きへの冷たい態度のおかげで少し不安だっただけに、あっさりしすぎてなんだか拍子抜けだ。


 さて、千城はぐるりと部屋を見渡すと、最後は俺に視線を向けた。そして一言。


「ほ〜、あなたがメイドの歩夢ちゃんかぁ」

「……あんま見んな」


 ニヤニヤした千城の顔。腹立つなぁ。俺がメイド服着てるのがそんなにおかしいかよ。おかしいわ。


「あら、私の大切なお友達にけっこうな口の聞き方ね」

 

 俺の発言を、これまた嬉しそうな屋敷のあるじが咎めた。いや、だってこいつが──と言いかけたが、逆らったら何をされるかわからない。仕方ないので、俺は反省のポーズだけ取った。シュン。


「けっこうだよ歩夢ちゃん」


 ご機嫌な千城が俺の肩をポンポンと叩く。くそっ、調子に乗りやがって。 わかったよ、丁寧に言えば良いんだろ。後で、覚えとけよ。


「……あまり見ないでくださいまし」


 するとシーンとなる場の空気。やっちまった、と思ったが数秒後。


「「可愛すぎるぅぅぅぅ!!!」」


 2人から褒められたのに、自分でもびっくりするくらいまったく嬉しくない。可愛すぎるわけあるか。こいつらの目どうなってるんだよ。


「……あたしもこんなお洋服着てみたいな」


 またも本音が漏れる千城。

 そんな彼女を見て、来緒根は提案した。


「千城さんも着てみる?」

「え、いいの!?」

「もちろんよ。ついてきて」


 そのまま、千城と来緒根は俺を残して別室に移動していった。

 千城もやっぱり可愛いものに憧れるんだな。そしてそれに応える来緒根。百合ガチ勢としては、これほどまでに心ときめく展開はない。男の娘なんて忘れて、こういうのもっとやって欲しい。


 ……というかさ、ちゃんと他に使える部屋あるんじゃん。なんで俺はいまだに来緒根の前で着替えさせられてるんだよ。シリコンパッドの付け方もバッチリなのに。

 はぁ、今のうちに逃げようかな。


※※※


 10分後。

 逃げようにも屋敷が広すぎて出口がわからないので、大人しく部屋で来緒根と千城の百合を妄想していると、いきなりドアがバーンと開いた。


「おかえりなさいましたよ、うさぎ様が!」


 再登場したメイド服の千城うさぎ。 

 可愛らしいながらもやや露出の多い服装が、彼女のスラッとした脚と、豊かな胸を強調していて、俺の比ではない色っぽさがある。……そもそも俺に色っぽさがあるわけないけど。


「自分で言うなよ」


 大切な俺のセリフがなくなるでしょうが。おかえりなさいするのが、俺の数少ない仕事の一つなのに。


「とってもお似合いよ、千城さん」


 続けて戻ってきた来緒根も、千城を褒め称える。俺の時より反応がやや薄いのが気になるけど。

 そういえば来緒根はメイド服着ないのかな。この際、千城と来緒根のお揃いメイドを拝んで、百合成分を摂取したいんだけど。まあ、来緒根は使用人よりも意地悪女主人がぴったりだから無理か。


「気分も上がったところで、早速遊びましょう」


 すると来緒根はいつものように、押し入れに身体を入れた。俺もいつものように、目を瞑ってラッキースケベを回避する。

 そして目を開けた時、彼女が抱えていたのは。


 おなじみ、人生ゲームだ!


 ……人生ゲームってかなり残酷だと思うんだよな。だって金で順位が決まるんだもん。すなわち、人生の勝敗を分けるのはやはりマネーなのだ。幸せは金で買えないというのは綺麗事。金こそ正義、金こそ至高! 

 けど1位でも独身だと、試合に勝って勝負に負けた気がするのがこのゲームの難しいところ。祝儀を渡すだけ渡して自分は貰えないのはやはり悲しい。


「一度でいいからやってみたかったのよね」

 

 そこを強調するということは……これも一人で遊んできたんですね。まあルーレット回すだけだし、できないことはないか。結婚イベントは自分に祝儀を送るのかな。渡すのも貰うのもできてハッピーじゃん。


「お、いいね〜。負けないよ〜」

 

 千城もかなり乗り気だ。

 よく考えて見れば、人生ゲームなら来緒根を札束で殴れるのか。これは貴重すぎる機械だ。

 よし。この勝負、絶対勝つぞ。


※※※


「あがりだわ!」

「あたしもあがり〜」


 負けた。

 ルーレットを回すたびに金を失い、気がつけば借金だらけ。そしてギャンブルに全てを賭けたものの全てを失い、最後には開拓地に……ゲームくらい金持ちになりたかったよ。


「やっぱり楽しいわね。もう一回やらない?」

「お、いいな」


 ゲームなら人生はやり直せる。人生はクソゲーでも人生ゲームは神ゲーだ。次こそ億万長者になってやる。


「それならさ。あたしもう一人呼びたい人がいるんだけどいいかな?」


 次なる戦いに燃える俺たちに、千城が提案した。

 呼びたい人……誰だろう。


 

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