第18話 ヒロインは主人公にだけ、素の自分を見せられる
【うさぎの後悔】
「千城さんは悩みとか無さそうでいいね!」
昔からそんな風に言われて、あたしは育ってきた。細かいことにクヨクヨしない、お気楽な生き方。それが千城うさぎだ。
……なのにどうして、恋愛にはこんなにも不器用で、臆病なんだろう。
前の交際も失敗した。
尽くしすぎて、飽きられて、捨てられる。想いが伝わらないのはきっと、それが『愛』じゃなくて、『依存』だったから。信頼の糸を紡ぐやり方を、あたしは知らないのだ。
あたしには向いてないのかな、恋愛は。
────彼があの子といるようになってから、どうしてか時々、胸がチクリとするようになった。
それが苦しくてつい、目を逸らしてしまうんだよね。
ううん、本当は気づいてるの。
彼はあの子といる時、すごく楽しそうで。そんな彼を見てあたしは──いまさらこんなの後出しジャンケンだね。
はぁ。ほんとに醜いな、あたし……。
〜〜〜〜〜
制服デートの翌日。
登校すると、なぜだか教室がざわついていた。
……どうせまた俺の悪口だろ。人は一度嫌われると、些細なことで批判されるようになるからね。他者への攻撃は楽しいから仕方ないよ。
と、心の中で軽く皮肉ったのだが、今日は何やら少し事情が違うらしい。というのも、俺を見る者は誰もおらず、すべての注目は来緒根ただ一人にのみ集まっていたから──。
俺は状況を知るため、とりあえず来緒根に群がる取り巻きの言葉に耳を傾けた。
「舞凛様。昨日、どなたかとお出かけなさったのですか?」
「……学校の外で誰といようと、私の勝手でしょ」
「そ、それはもちろんですわ。でも──」
「放っておいてくださる? 迷惑よ」
「──!? は、はい。すみません」
冷た過ぎる来緒根の態度に、取り巻きたちは明らかに動揺していた。
……あれ。昨日舞凛様とお出かけなさったのって、ワテクシでは? ということはつまり……教室のやばい空気、やっぱり俺のせいじゃねえか!
まあでも。
あの人たちは学園のマドンナの懐に入るために、取り巻きしてるんだろうし。来緒根との距離感は自身のアイデンティティに関わる重要な問題だ。参謀ポジを他人に取られるのは焦るよな。来緒根もあそこまで冷たくしなくてもいいのに。
「なんだかすごいことになってるね」
他人事のように言いながら、千城が俺のところにやってきた。慣れた空気に少しほっとする。
「そうらしいな」
こうやって、ちょっとしたことで
「……あたしも、一緒に遊びたいな」
千城が来緒根の方を見て、ふと言葉を漏らした。
意外だな。そんな顔するなんて。千城のコミュ力なら、来緒根ともすぐに仲良くなれそうなものなのに。
「俺から来緒根に聞いてみようか? 今度、一緒に家に行っていいか」
「いいの?」
「構わんぞ」
むしろ一人だと何をされるかわからないから、誰かいた方がいくらかは安心だ。それに、たぶん来緒根だって、遊び相手が増えるのは大歓迎だろう。ああ見えて寂しがりやだからな。俺へのいじりが増えそうなことだけ、やや不安だけど。
「ありがと〜我が妹よ〜」
「……俺に姉はいねえよ」
何度も言うけど、そもそも俺の方が誕生日早いからね?
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