ラブコメ世界に男は邪魔なので、空気になって百合を愛でていたら男の娘にされました〜女友達も、美少女も、幼馴染もいる。なのに何かを間違えたラブコメ
第20話 主人公以上に、ヒロインは胸の大きさを気にしている
第20話 主人公以上に、ヒロインは胸の大きさを気にしている
「もしもし!……うん。いま舞凛ちゃんの家で遊んでるんだけど、良かったら琴莉ちゃんも……うん……ほんと! うん……は〜い、待ってるね〜」
どうやら千城は琴莉に電話をかけたらしい。たしかにこの2人、最近ちょっと百合の匂いが香るもんな。仲良きことは喜ばしいことだ。
……ところで、好きな人にメイド服見られるのものすご〜〜〜〜く嫌なんですけど。ワンピースも恥ずかしかったけど、メイド服はまた次元が違う。どうか勘弁して欲しい。
「琴莉ちゃん来てくれるって!」
「おう、それは……良かったな」
俺はまったく良くないけどな。普通に琴莉と人生ゲームがしたかったよ……。
※
しばらくの間、千城と来緒根が野球盤で暇を潰していると、彼女はやって来た。
「お邪魔しまーす」
──今日の琴莉は一段と可愛かった。めちゃくちゃに可愛かった。信じられないくらい可愛かった。
薄桃色のブラウスに、クリーム色のロングスカート。そして白いリボンを髪に付けている。
最近は制服の琴莉しか見てなかったけど、久しぶりの私服の琴莉は、昔よりずっと大人っぽくなっていて……ドキドキが止まらない。
「来てくれてありがとう、島柄長さん」
「ありがと〜琴里ちゃん。急に呼んでごめんね」
「いえ! むしろ誘っていただきありがとうございます。うさぎさん、来緒根さん。それに歩夢ちゃ……歩夢くんも」
いま言い直したよね!
まあけど実際、ロングヘアで胸もあってメイド服を着た俺は、たしかに女にしか見えないし、琴莉の私服が可愛すぎるので許すことにした。可愛ければ大抵のことは許される。可愛いは正義なのだ。
すると、琴莉はメイド服の俺を上から下までじっくり観察し始めた。
「歩夢くんのメイド服、すごく似合ってます!」
「それは──あまり嬉しくないかも」
「スカートがふわっとしているところとか、胸の部分のフリル、と、か……」
どうしてか、琴莉は急に黙り込み、笑顔も萎んでいってしまった。その表情は怒っているようにも、悲しんでいるようにも見える。
あれ、俺なんか変なことした?
「えっと──琴莉?」
すると、彼女はぼそりと一言。
「……私より胸、大きいです」
あ、そういう。
──なるほど、たしかに千城も来緒根も立派なものをお持ちだ。彼女なりに思うものがあるのかもしれない。女の子は悩み多き生き物だっておばあちゃんも言ってたし。
でも安心して欲しい! 俺の胸は模造品だから! 偽物だから!
「それじゃあ、もう一回戦始めましょうか!」
琴莉の胸中を知ってか知らずか、来緒根はやや重たくなった空気を割くように、人生ゲーム第2回戦の開幕を宣言した。
そして次なる戦いでも当然のように、俺は開拓地に送り込まれたのだった。
億万長者になりたい……。
※
「楽しかったですね!」
「そうだね琴莉ちゃん。あゆくんは人生ゲーム弱すぎ〜」
「……ほぼルーレットで決まる運ゲーに、強いも弱いもあるか」
「い〜や、これは人生経験の差だね。なんてったって人生ゲームなんだから」
「おい、誰が妹じゃ」
今日も来緒根の家で働き終え、俺は千城と琴莉と一緒に、くだらない話をしながら帰っていた。
……俺が弱いのは認めざるを得ないが、それにしても2戦とも圧倒的1位の来緒根は強すぎないか? 人生ゲームって実力が介在する余地ないと思うんだけど。やはり持って生まれた人間は運まで味方につけるのか……。
「私、あまりボードゲームってやったことないので、すごく新鮮でした!」
「ふふ、またやろうね琴莉ちゃん」
「はい!」
千城と琴莉は互いに顔を見合わせながら微笑っている。いや〜百合は尊いね。永遠に見ていたい。
が、残念ながらお別れの時間が近づいていた。
「それじゃ、あたしはここで曲がるけど……琴莉ちゃんは家どっちだっけ?」
「私はここをまっすぐ行ったところです」
「あれ、あゆくんと同じ方向だね」
「はい。歩夢くんのお隣に住んでいます」
「……えっ?」
千城はその場で固まり、いつも陽気な千城の表情が死んでいる。どうしたんだろ。
「千城大丈夫か?」
「えっと……あゆくんって一人暮らしだよね?」
「ああ、う、うん」
「つつつまり、じじ、実質同棲的な感じ!?」
「いやいやなんでそうなるんだよ。アパートの隣の部屋なだけだろ」
「い、妹の分際で生意気な」
「妹関係ないだろ。てか妹言うな」
何をそんなに動揺してるんだ千城は。
たしかに距離は近いけど、一緒に住んでるわけじゃあるまいし、やましいことなんて何もないぞ。
「そそそ、それじゃあ。ま、また明日ね2人とも」
「お、おう。また明日」
「気をつけて帰ってくださいね」
こうして、千城はそそくさと走り去ってしまった。なんだったんだ……。
「どうしたんでしょうか、うさぎさん」
「さぁ……とりあえず帰ろうか」
「そうですね」
そして翌日。
俺たちはこの帰路が原因で、またも小さな事件に巻き込まれることになる──。
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