第13話 デート回は主人公にとって不本意な形で始まる

「これはさすがに……まずいのでは」


 メイド服のまま外に出てはさすがに目立って仕方がないので、俺は再び着替えさせられていた。来緒根が用意したのは、俺にとって最も馴染み深く、同時に最も縁のない衣服……。

 大きな襟と赤いリボンがついた白い上着。そしてひだの入った紺色のスカート。──我が校の制服である。


 不思議な感覚だった。

 入学以来、毎日目にしながらも、決して触れる機会のなかったセーラー服。それを俺は今、、身につけてしまっている。

 スカートは下半身が心許なくてやっぱり慣れないし……。はぁ、ズボンが恋しい。


「問題ないわ。どっからどう見ても、うちの学校の生徒にしか思えないもの」

「えぇっと、そういう問題ではなくてですね……」


 うちの学校の女子生徒に見えるのまずいんです。

 たしかにメイド服で出かけるよりは遥かに目立たないと思いますよ? けど休日に自校の女子生徒に変装する男子なんてどう考えても変&態。

 これをクラスメイトに知られなんてしてみろ。自慢じゃないがしっかり嫌われている俺のことだ。即学校バレからの校長呼び出しからの退学まであるぞ。


 それと、そもそもの部分でも疑問がある。


「どうして来緒根様は学校指定の制服を2着お持ちなんですかね」


 制服なんて安い買い物じゃないし、そう何着も購入するものではないだろう。

 すると来緒根は、至極当然といった風に答えた。


「自分で作ったのよ。私そういうの好きだから」

「え、えぇ」 


 来緒根舞凛の執念、恐るべし。

 だがなるほど。言われてみればたしかに、既存の制服と素材が少し違うようにも見える。遠目には絶対気がつかないレベルだけどね。もしかしてこの人、メイド服も自分で作ったりしてるのかな……?


「それじゃあ歩夢ちゃん。さっそく制服デートよ!」

「でででデート⁉」

「イヨンに行ってみたかったのよね〜」

「無理無理無理無理!!! どんだけうちの生徒いると思ってるんだよ」


 来緒根の畳み掛けに脳の処理が追いつけていない。 

 ツッコミどころはいろいろあるけど、一番の問題はやっぱりイヨンよ。

 お金のない高校生にとって、大型ショッピングモールはとりあえず暇を潰すのに最適。つまりは同級生とのエンカウント率が非常に高いのだ。これは危険すぎる。


「やっぱり少し問題あるかしらね」

おおありだよ……」

「歩夢ちゃんの可愛さがばれちゃうもの」

 

 う〜ん、懸念事項がずれてるなぁ。

 俺の可愛さなんざどうだっていいのよ。こっちは退学がかかってるの! 絶対身バレできないの!!!


「とりあえず暗くなる前に行きましょうね」

「うぅ……」


 どうせ俺に拒否権などないんだもんな。まあ今の時代、女子が制服でスラックスを選択するのは珍しくないし、であれば逆もおかしくな……いやおかしいだろ! なんで放課後にわざわざ学校指定のセーラー服着て外歩かなきゃいけないんだよ。


 あぁ、どうか何事もありませんように。


※※※


 大型ショッピングモール、イヨン。暇をもて余し高校生が集いし場所である。


 例に漏れず俺もちょくちょく来ているけど、普段学校帰りに寄り道する時の感覚とはまったく違っている。

 髪の毛の厚さ、スカートの心許なさ、そして胸の重さ……それらすべてが、俺の知らないもので……。女子高生として、しかもとして外を歩くのは、どうしたって恥ずかしい。


「歩夢ちゃん、もっと胸を張って歩きなさい」

「いや、でも――」

「今のあなたは可愛い女の子なの。自信持って」


 ……これが自己評価の低すぎる内気な女の子を勇気づける台詞ならとても良い、というか大好物なんですけどね。その言葉をいやいや女装している男に向けられるのは、推しが汚された気持ちで大変遺憾です。

 

「ところで何食べるか決まってるんですか?」

「うん! ここよ」

「……まじすか」


 ショッピングモールに来た時点で察しはついてたけどさぁ。どうせなら俺は、来緒根の金でちょっとお高い夕食が食べたかったよ。何もこんな高校生御用達の店を選ばんでもいいじゃん。


「それじゃあ入りましょうか」

「はぃ、」


 というわけで我々は、藤ヶ崎学園の生徒が跋扈ばっこする、某イタリアンチェーン店の奥地へ向かって行った── 

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