第23話 命令下達

「了~解、じゃあ俺達の任務に一番影響するMSR(Main Supply Route:補給幹線)についてはミーティングで何か有ったかい?」


【MSR】(Main Supply Route:補給幹線)

 兵站の流れの構成要素の一つで後方連絡線のうち常時交通を確保する必要の有る輸送路の事である。


 具体的に言えは、今私達が居るFSA(前方支援地域)と前線部隊の段列だんれつ地域を結ぶ補給ルートの事だ。

 え、段列って何かって? そうよね、普段生活してる分には全く耳にする事の無い単語よね段列。言葉の響きや、漢字からも想像つかないわよね、うんうん分かるわ~。

 じゃ、説明するわね。

【段列】(Tn:Trains トレイン)

 後方支援部隊の移動や警戒の指揮及び配置の統制、それと必要に応じて支援業務などを統制する為に編成する編組部隊の事である。


 どう? 理解できた? ダメ? もう~、しょうがないわね、乱暴な説明になるけどいい?

 大まかに段列を含んだ兵站組織について説明すると、兵站の業務には補給や輸送、整備だけでは無く、他にも衛生や建設、労務・役務などが有る。そしてその兵站業務を行う組織が前線の作戦部隊から国の後方策源地までの結節毎に存在するのだ。

 兵站組織は戦場から遠い順に次の6つになる。


『中央兵站基地』(BMA:Base Maintenance Area)

『方面兵站基地』(MA:army Maintenance Area)

『方面前進兵站基地』(FMA:army Forward Maintenance Area)

『前方支援地域』(FSA:Forward Support Area 私達がいるのがここね)

『師団/旅団段列地域』(D/Bde Tn(A):Division/Brigade Trains Area)

『部隊段列地域』(Tn(A):Trains Area)


 勿論、状況によってこれらは統合されたり省略される場合が有る。

 前線で実際に戦火を交える師団・旅団やそれ以下の部隊に対する後方支援を統制する部隊、最も前線に近いものが〈段列だんれつ〉と呼ばれるものなのだ。そして、段列が位置する場所が段列地域である。

 もう少し細かく言えば、師団・旅団の段列が位置する地域を師団・旅団段列地域、連隊、大隊等の段列が位置する地域を部隊段列地域と呼称する。

 そもそも段列という言葉の由来だが、旧軍の用語から来ている。

 時代は明治まで遡り、当時の砲兵連隊では各中隊ごとに弾薬箱を戦闘用「第一段列」、「第二段列」と呼んで馬で運んでいた。それは火砲の位置を「砲列」と呼称していた事に対するものだったのだが、それが日露戦争後には「中隊段列」、「連隊段列」と呼ばれるようになる。更に昭和になってからは戦車部隊や自動車部隊でも編成の中に「段列」が設けられる事になったのである。

 

「…MSR(補給幹線)について、ミーティングで何か有りましたか」

「いや、特に何も無かったな」

「サッド、兵装はどうする? AAM(Air to Air Missile:空対空ミサイル)って持ってきてたか?」

「整備班長、どうだ」

「はい、残念ながら手持ちはゼロですね。当初の見積もりでは、敵の航空戦力については考慮の要無しとの事でしたから。

 前線に展開してる陸軍の64(AH―64Dアパッチ・ロングボウ)は、そもそもAAMの運用が出来ませんしねえ」

「そうか、因みに手に入れる手段は有るか」

「ウチの69(LARH―69サーペント)に搭載可能なAAMはサイドワインダーですが、この国の首都近郊に有る空港に展開している空軍のF―16が9M―9(AIM9M―9:空対空ミサイル サイドワインダーの最新バージョン)を運用してる筈です。

 一応伝手も有りますし、現在はF―16もA―10同様にCAS(近接航空支援)の要請は減少してるでしょうから何とか成るっちゃあ、成ると思います。けど」

「けど?」

「問題は、時間ですね。

 これから向こうとコンタクトを取ったとしても、すぐに手に入るって訳にはさすがに行かないでしょう。

 まあ、正規の手続きで本社に要求して空輸品が届くのを待つよりは早いでしょうが」

「何れにしても、今日明日の出撃には間に合わないか。

 よし班長、AAM(空対空ミサイル)の件は空軍に調整する方向で頼む」

「分かりました。ですが本社の方にも補給要請はしておきますよ、もし空軍から融通して貰えたら、本社からの分を返しますし、入手出来なかったらそっちを使うしか無いですからね」

「ああ、任せる。選択肢は多いに越したことは無いからな」

「はえ~、整備班長って空軍に居た事が有るんですか」

「いいえ、私はROTC(Reserve Officers Training Corps:予備役将校訓練課程)の出身なのです、大学卒業後数年ほど陸軍に居りましたが。

 現役の頃は人脈を作る事が一つの目標でも有ったのですよ、ですから共同訓練や集合教育などには積極的に参加させて貰いました、その成果ですね」

「それにしてもミサイルを融通して貰える人脈って。もしかしてトンデモナイ弱みを握ってるんじゃ」

「フフ」

「…(怖っ)」

「よし、命令を下達する」

 ここで話にケリをつける様にサッドが言い渡した。

「「ハイ」」

「敵情については、今話した通り。

 我が方についても大きな変化は無い。

 我々は、サーペント2機を以て現在地FSA(前方支援地域)から部隊段列地域までのMSR(補給幹線)を使用する輸送部隊の安全を確保して、第一線部隊の戦闘力の維持に寄与する。

 長機22号、機長は俺、コ・パイはジュリエット」

「ハイ」

「2番機54号、機長ハーレー、コ・パイはダーク」

「「了解」」

「兵装は対地制圧兵装、ただしGUN(20mm機関砲)は+100発の400発。

 その重量分はヘルファイアの搭載数2発を0とする。

 燃料は各機1200lbs(ポンド)」

「はい、了解です」

「輸送部隊の呼び出しはクリスタル、こちらはスレイヤー。原則的に地上との連絡は長機が行う」


 私達の乗る戦闘ヘリ、サーペントの兵装についておさらいするわよ。

 固定武装として機首の下面に

 ・20mm機関砲M197を装備。

 機体両側のスタブ・ウィングには、任務に応じて選択式に

 ・AGM114ヘルファイア対戦車ミサイル

 ・AGM122サイドアーム対レーダーミサイル

 ・70mmASR(Air To Surface Rocket:空対地ロケット ハイドラ70)

 そしてスタブ・ウィングの両端に

 ・AIM9サイドワインダー(AAM:空対空ミサイル)

 を組み合わせて搭載出来るわ。

 ただし、全部の兵装をフルで搭載すると重過ぎて離陸出来ないから、その時々の任務に合わせて兵装の種類と弾数、それに燃料の量を調整する必要が有るのよ。そう、AH(戦闘ヘリ)って燃料が常に満タンの状態で出撃する訳じゃ無いのよね。

 で、兵装の組み合わせによる重量計算や、搭載兵装に関する整備との遣り取りを簡略化する為に予め任務に合わせた搭載兵装のパターンを数種類作ってるのよ。例えば戦車や装甲車なんかを相手にする場合の対機甲兵装なら、AGM(空対地ミサイル)6発、ASR(空対地ロケット)9発、GUN(機関砲)300発とかね。後はそれを元に任務に応じて微調整する訳。

 因みにスタブ・ウィングには兵装の他に落下式増槽タンクを左右1個づつ搭載する事も出来るのよ。偵察任務の時なんかはなるべく戦闘は避けなきゃなんないからね、最低限自衛の為の武装を搭載して後は燃料に回すワケ、偵察って「その時にその場所に居る事が重要」だから滞空時間の確保って大事なの。


「離陸はいつも通り、コンボイがここFSAを出発してから1時間後だ。

 彼我の最新状況と飛行経路図、無線の使用周波数等は各自のタブレット端末へ転送する。離陸までに目を通しておくように、以上。質問は」

「「無し」」

「それでは、私は先に格納庫天幕へ行きます。

 そちらで機体の準備とAAM(空対空ミサイル)手配の調整にかかりますから」

「了解した、宜しく頼む」

 ここに来てもう何度もこの任務に出撃してるから、命令は結構簡略化されてるわ。

 例えば、目標は反政府ゲリラでコンボイからの通報で攻撃するとか、AAA(Anti Air Artillery:対空火器、高射砲)については発見し次第最優先で攻撃するとか。後、彼我識別は発煙弾による、とかはもう特に言わなくても共通認識になってるわ。

 さてここで嬉しい発表が有ります。さっきサッドが情報を各自のタブレット端末へ転送するって言ってたでしょ、その中で飛行経路図も含まれてたの気付いた?

 そう、そうなのよ、実は地図が電子化されたのです!

 パイロット一人一人に支給されたタブレット端末には、もともとサーペントのフライト・マニュアルなんかがインストールされててペーパーレス化が進んでたんだけど、機体の方も改修されて電子地図が使える様になったの。空軍の攻撃機A―10なんかは以前から紙の地図は使ってなかったみたいだけど、サーペントもやっとそうなったの、これで地点標定の労力が大分軽減されるわ。

 それに、タブレット端末を機体と接続する事で地上で準備した情報を機体側へロード出来るから、飛行経路や戦闘計画をコンソールパネルに表示出来る様になったし、計画の変更や追加情報を編隊内のデータリンクで共有する事も容易になったのよ。

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