第6話 軍事? 警備? 傭兵? 「PMSC」

 うん、そろそろ私達の会社についても説明した方がいいかしら。

 私が就職した会社「A・A(エア・アーマー)社」は、いわゆるPMSC(Private Military Security Company:民間軍事警備会社)なの。

 PMSCってあまり馴染みがない言葉よね、民間で軍事?警備?それって傭兵ってこと?ってなると思うわ。

 PMSCって用語の意味?てか概念?にはね、実は統一された見解が未だに無くって曖昧なの。一応わが社の見解は「国家機関又は非国家機関に対して軍事に係わる非戦闘的活動、兵器などの装備品の製造・保守・点検等の双方を国内外で提供する企業」となってるわ。


 民間軍事請負業務に係わる個人や集団を表す用語には「傭兵」という言葉も有るが、現在傭兵はジュネーブ条約で非合法的な存在として位置付けられている。つまり傭兵は正規の戦闘員として扱われない為、捕虜になる権利が無いのだ。

 ただし、そもそもPMSCを含む民間軍事請負業務は歴史的には、支配者が自分の戦いの為に私的兵士、つまり傭兵を雇った事から始まってる。

 現在でこそ傭兵は国際法上違法化されることになったが、傭兵の当時の評価は、正義の戦争を遂行する為の重要な戦力と受け止められてたのだ。

 国際法上は違法となった傭兵だが、それ以降でもアメリカ、イギリス、フランス、ロシア等の先進国や発展途上国の多くが、外交や防衛政策の推進の為に隠密に或いは公然と活用し続けているのが現状である。

 その様な流れがある為、PMSCとして新たな形として誕生する事になった民間軍事請負業務は、傭兵との関連性についても曖昧で、わざとグレーゾーンとしてる側面も無きにしも非ずといった所なのである。

 米軍でもPMSCは活用されており、イラクとアフガニスタンで活動したPMSCの規模は、年間約二〇万人にも上り、その業務内容も多岐に亘っている。

 具体的には、人員・施設の警備や補給品の輸送、ストライカー装輪装甲車や、無人攻撃機プレデターの管理も委託されているのだ。

 余り知られてはいないが日本でも、沖縄の米軍基地や東京にある警察庁の警備は民間の警備会社が請け負っている。


 でもって、我がA・A社の特徴は、私達を見ても分かると思うけど、航空事業に特化してるって事ね。

 実はA・A社は、航空機メーカーのベル社とボーイング社から出資を受けていて、その2社から経営陣を受け入れてるの。

 つまり、開発した装備品等を戦場で実地テストしたり、第3国にセールスしたりする為に作られたのが我がA・A社っていう訳。分かってもらえたかしら。


          ◆


「よしジュリエット、着任早々だが訓練を開始するぞ。我々が装備する機体に慣れて貰わなければならないからな」

 サッドの言葉に私も意識を切り替える。

 望むところよ、服装はここに来るときに既に飛行服に着替えてきているわ。

 社から支給された飛行服は薄いオリーブ・グリーン色で、難燃性の繊維で出来た上下ツナギのタイプ、米軍の物に準じているらしい。

 そして、左胸には航空徽章が刺繍されたワッペン。デザインは、盾の中に二つ重なったAの文字とそれを囲む翼だ。ワッペンにはウイング・マークに加えてAVIATOR(アヴィエイター)K・ATERAZAWAのネームが縫い取られている。

 飛行学校を卒業して、回転翼航空機の事業用資格を取得した証よ。

 名前と一緒に刺繍されてる「アヴィエイター」って言葉は、一般の人達にはあまり馴染みが無いかもしれないけど、日本語に訳すと一番近いのは旧日本陸軍の「空中勤務者」か、海軍の「搭乗員」になるのかしら。つまりパイロットを含む航空機に乗り込むクルー全般を指す言葉ね。機種によっては機長と副操縦士以外にも、レーダー操作員やフライト・エンジニアって呼ばれる人達が乗り組んで一緒に任務を遂行するのよ。

「しばらくは、俺と一緒に飛んでもらう、基礎練成だな」

「えー、キャプテンがわざわざ教官をする事ないじゃ無いですか、ハーレーにでもやらせておけば」

 ダークが不満げに意見を表明する。

「そうも行かないだろう」

「ハーレー、あんた練度段階区分はキャプテンと同じAなんだから、もっとしっかりしなさいよ」

「いや~、俺って人に教えるの苦手なんだよなあ」

「ああ、もう。その、あんたとクルーを組むの私になるのよ」

 私は下手に口を挟むとややこしい事になりそうなので、大人しく成り行きを見守ることにする。

 そう、飛行班の下っ端には、何事についても決定権など無いのだ。

 わが社では、パイロットの格付けとして、軍隊に準じた基準を設けている。それで、サッドとハーレーは一番上の格付け「A」、ダークは「C」なんだって。

 「C」っていうのは、機長資格の事。因みに副操縦士は「D」だ。

 機長が「C」じゃ、その上の「A」や「B」ってなんなのか疑問よね。

 普通の民間機を運航するには確かに機長が最高位だ。しかし、軍や私達の様な組織は基本複数機で任務に当たる。だから自分の他にもう1機を指揮する分隊長としての資格保持者を「B」。更にその分隊を複数個指揮する小隊長以上を「A」としているのだ。

「あの~、ダークがCで機長だったら、私がダークと飛んでもいいのでは?」

 存在感を消してた私だけど、ただ状況に流されるだけじゃ面白くないので一応発言をしてみる。

「私は、キャプテンとフライトしたいの、ハーレーの代わりにあんたと飛んでも根本的な解決にはなってないでしょ。それに、そもそもC機長は相手が格付けD以上じゃないと一緒に飛べないの、分かったスイートハート」

 スイートハートって、愛しい人って呼び掛けだけど、この場合ニュアンス的にバカにされたのよね、多分。

 うーん、この人やっぱり見かけと全然違ってすっごく口が悪いわ、正に悪いエルフ、悪エルフ。

 ええ、そうですか、私はお呼びじゃ無いんですね。ま、分かってましたけど。

 それより、今さらっと聞き捨てならない台詞が聞こえたんですけど。これは確認しなくちゃ。

「ダーク、今格付Dじゃないと一緒に飛べないって言いました?

 私って練度Dの副操縦士じゃないんですか。事業用の国家資格だって持ってるんですけど」

 練度段階区分が「A」から「D」までなら、ルーキーの私は必然的に「D」、つまり副操縦士になると思うんですけど、どゆこと?

「あんたねえ、学校を卒業したてのひよっこが何言ってるの。あんたなんか屁の役にも立たないわ、あんたと飛ぶなら屁と飛ぶわよ。

 分かった?この世界そんなに甘くは無いの。

 あんたの今の立場はDですらない、〈格付け無し〉よ。だから私とはフライト出来ないって訳。分かったら早く基礎練成を終了しなさいな、スカムバック」

「うう、そうなんですね。サッド、宜しくお願いします」

 着任早々厳しい現実に直面してしまった。飛行学校を卒業した時は、これで一人前のパイロットだと思ったのに。

 まあ、そりゃそうか。

 自分の面倒が見れるだけじゃ、まだまだなのね。 スカムバックが何なのかは、後で調べておこう。(まあ、どうせろくでもない意味の言葉なんだろうけど)

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