第29話 すでに決まっていた戦い

 「僕の大切な人達なんだ」


 地上へ帰還してティナを助けた時のように。

 エルタは、追い詰められた少女達の前に現れた。


「エル君!」

「エルタ!」

「エル!」

「お兄ちゃん!」


 少女達は、それぞれの呼び方で声を上げる。

 自分達でやり切ると決意はしたが、やはり心のどこかでエルタのことを考えていたようだ。


 それから、エルタはみんなに声をかけた。


「ここから離れてて。また標的になっちゃうよ」

「でも、そんなの!」

「みんなのおかげで間に合ったんだ。そろそろ僕にも活躍させてよ」


 エルタの本心からの言葉だ。


「大丈夫、僕が勝つから」

「……っ!」


 ティナを含め、少女達は不甲斐なさを感じる。

 だが、それ以上にエルタに安心感を覚えた。

 最後はエルタを信頼して、四人は了承したようだ。


 そんな彼らの様子を、シュマは空から見下げていた。


「……ふむ」


 いま放ったのは、少女達を確実に殺すべく威力を高めたエネルギー弾だ。

 シュマの中でも必殺技クラスと言える。


 しかし、エルタはそれを遠くからの風圧だけで相殺した。

 ようやく参謀のカルムが言っていたことが分かったようだ。


『むしろこっちの方が注意が必要だろう』


「ふっ」


 シュマはようやく無表情な顔を崩す。

 初めてニヤリと口角を上げたのだ。

 少女達を遠ざける隙を与えたのも、エルタとの一対一に興味を持ったからである。


「おもしろい」


 対して、エルタは屈伸をしながら、じーっとシュマを見つめていた。


「うーん……違うかな。まあいいや」


 何かを考えているが、まだ確信が持てないようだ。

 そんな中で、エルタが目の色を変えた。


「とにかく君を倒すよ」

「来るがいい」


 お互い準備は整っている。

 どちらから仕掛けるか、様子をうかがっているところだ。


 だが、周りも含めて考えている事があった。


(((どうやって戦うの……?)))


 エルタは武器を持っていない。

 宙に浮くシュマへの攻撃手段がないように思えたのだ。

 だが、それは杞憂きゆうに終わる。


「トカゲはたくさん狩ってきたからね」

「……ッ!」


 早速、エルタから仕掛けたのだ。

 屈指の態勢のまま、ぐっと足に力を込めると、エルタは飛び立った。


「うおおおおおおおっ!」


 高く跳んだかと思えば、さらに空中で足踏みをして上へと昇って行く。

 どうやった戦うか考えたのも馬鹿らしい、あまりにも脳筋すぎる解決方法だ。


 しかし、それにもシュマは笑みを浮かべた。


「ふはは、そうこなくてはな!」

「うわっ!」


 髪一本ずつに細かなエネルギーを溜め、一気に放出する。

 髪の数だけある“拡散光線”だ。

 ただ上に進むだけでは、確実に当たってしまう。


 だが、やはりエルタはエルタだった。


「せいっ! とうっ!」

「……っ!」


 足踏みで上へと進むだけではなく、空中でステップを踏み始めたのだ。

 その軽快さは、地上となんらそんしょくがない。


「「「えぇ……」」」


 じゃあもうなんでもアリじゃん。

 少女達がそう思ったのは内緒である。


 さらに驚くべきなのは、エルタの自由奔放な動きだ。


(この距離で全く当たらないだと……!?)


 拡散光線は、髪の分だけ放たれている。

 数にして、およそ十万以上。


 その多大なレーザートラップを、エルタは見事にかわしていく。

 どんどん至近距離になるにもかかわらず。


「とりゃっ!」

「……ッ!」


 どんな小さなスペースでも、まるで楽しむように入り込む。

 その野生すぎる動きに、シュマは恐怖すら覚えた。

 ならばと、シュマが初めて下がったのだ。


「ちぃっ!」


 引き続き拡散光線は出しつつも、自身はさらに上へと移動する。

 それでも、エルタはどこまでも追ってきた。


「待て待てー!」

「……っ!」


 光線を躱しながら、確実に距離を詰めてくる。

 魔物界でもトップを誇る“白龍”のスピードに。


(なんなんだ、こいつは……!)


 Sランク魔物を融合しているシュマに、純人間のエルタが勝る。

 そんな戦況を見つめる少女達も、今までとは一線を画すエルタに驚きを隠せない。


「エル君……」

「すごいとは思ってたけど……」

「一体どこまで……?」


 だが、これこそがエルタの本質である。

 エルタは相手が強ければ強いほど、体が十年間の体験を思い出して動きが良くなる。

 その天井は、アステラダンジョン最下層レベルはるか遠くだ。


 そうして、一定の距離まで近づいたエルタは、ぐっと拳を構えた、


「もう届くかな」

「……!?」


 同時に、エルタからとてつもないオーラがあふれ出た。

 それにはシュマの身の毛がよだつ。


 そして、一瞬空いたレーザートラップの隙間を見逃さず、エルタの姿が消えた・・・・・


最強種族トモダチシリーズ、そのいち──【神狼の爪ひっかく】」

「ぐはっ……!?」


 目に追えない神速の攻撃を放ったのだ。

 正面からもろに食らったシュマは、空高くから急転直下する。

 勢いを抑えられず、ドゴオっと地面に叩きつけられた。


「バカな……」


 ガラガラと瓦礫がれきを落としながら姿を見せるが、今のは面を食らったようだ。

 シュマの顔が今までになく困惑している。


 対してエルタは、どうだと胸を張った。


「やっと一発!」

「……ぐっ」


 だが、シュマには不思議でならない。


「なぜだ……」

「ん?」

「なぜ、お前はこんなにも……!」


 Sランク魔物の討伐記録は、未だにない。

 ならば、それを融合して地上に出れば、確実に王都をとせると思っていたのだ。


 しかし、予想外の答えが帰ってくる。


「なんか知ってたんだよね」

「なに?」

「君の攻撃が、昔遊んでたペットの一匹に似ててね」

「……!?」


 シュマはぞわりと背筋を凍らせた。

 同時に、先ほどのオーラの恐怖を思い返す。

 すると、したくもない想像が頭を過ってしまう。


(まさか、白龍の主は……!)


 白龍は誰かに仕え、ダンジョンの奥深くを出入りするというSランク魔物。

 この国ではまだ知られていないが、その主は戦う度に更新される。

 今までの主よりさらに強い者が現れれば、主はより強い者へ移るのだ。


 そうして、最後に主となっていたのが──エルタだった。


最下層そこにいたとでも言うのか……?)


 そんな真実は知る由もないが、シュマは戦慄した。

 融合した白龍とも、恐怖を共鳴させたのかもしれない。


「それだったら本当に許さないけど」

「……っ!」

「とにかく、終わらせるよ」


 そして、エルタがぐっと腰を落とし、拳を引いた。

 再び現れる強大なオーラに、シュマは察知してしまった。


(これが、さっきの正体か……!?)


 シュマの必殺技は、ただの風圧にかき消された。

 それが、今から飛び出す技なのだと直感する。


最強種族トモダチシリーズ、その二──【鬼神の拳パンチ】」」

「……っ!」


 いつもなら、なるべく自分から攻撃をしないエルタ。

 だが、少女達を追い詰めたシュマに対しては、容赦を捨てていた。

 その結果が、このあっけなさである。


(我もここまでか)

 

 シュマが敗北した原因は一つ。

 エルタを本気にさせてしまったことだけだ。

 その時点で、すでに勝敗は決まっていた。


(これが、本物の“化け物”なのだな。我には早すぎた……)


 降りかかる風圧に体を潰され、シュマは抵抗をやめた。

 ──だが、突如として横から何か・・が伸びてくる。


「なんだ!?」


 魔物の舌のようなそれはシュマを捉え、彼の中から“白龍”の部分を引きはがす。

 まるで能力だけ・・を奪い取ったかのように。


「ご苦労さん」

「……!?」


 舌が伸びた方向からは、そんな声が聞こえてきた。

 

「やっぱりこうなったか」

「……えっ」


 そちらを振り返ると、エルタは思わず目を見開いてしまう。

 白龍の能力を奪い取ったことよりも、ずっと驚いていることがあった。

 下から薄っすらと見えている顔が、よく知っているものだったのだ。


「よお、エルタ」

「カ、カルムなの……?」


 “スカー”のボス、シュマから能力を奪い取った者は、幼馴染カルム。

 エルタにとっては、急すぎる再会であった──。





───────────────────────

少女達四人を追い詰めたシュマでさえ、本気を出したエルタ君にとっては格下に過ぎませんでしたね(;゚∀゚)

ただ、勝負はまだ終わらない様で……?

ついに最後の幼馴染と再会です!

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