第27話 絆の連携

 (え、ふざけてる?)


 戦場にいる誰もがそう思った。

 敵味方は関係ない。

 三十代を超えたおば──お姉さんが、魔法少女などという格好をしているからだ。


「魔法少女ビルリン! 王都に代わってお仕置きするわよ!」


 全身黒スーツから一転、ビルゴは全体的に白い制服姿へと変身した。

 胸元には大きなリボン、下半身は短めフリフリスカートも加えてである。

 その姿は、イタイを通り越して、キツイものとなっていた。


(((う、うわあ……)))


 周りはドン引きした目で見ている。 

 しかし、その視線すらもビルゴは想定済み・・・・


(もっとさげすんだ目で見なさい……!)


 ビルゴは自分のしたい格好をして、満たされる。

 周りがキツイと思ったら、M気質が満たされる。

 ビルゴはもはや無敵状態に入っていたのだ。


「いっくよ~!」


 そして、何より厄介なのは、この魔装がちゃんと強いことだ。

 

「それそれ〜っ」

「「「ぐわあああああッ!」」」


 ビルゴは、え置きのむちを振り回す。

 すると、ハートやら星といった、なんともラブリーな攻撃が飛び出てくるのだ。

 近・中距離で無類の強さを誇る鞭に、遠距離攻撃が追加された。


 今のビルゴを止める術はない(色んな意味で)。


「みんなマジカルになっちゃえ〜!」

「「「ぎゃあああああッ!」」」


 “スカー”は、遠距離攻撃を持つことで有利に立っていた。

 だが、魔法少女ビルリンにより、形成は一気に逆転する。


「お仕置きしちゃうぞっ!☆彡」

(((キツイけど、強え! ……めっちゃキツいけど!)))


 視線、力、この戦場全てをビルゴが支配している。

 “スカー”側にとっても、王都側にとっても、まさかすぎる切り札だったのだ。


「あははははっ!」


 こうなれば戦況がどちらに傾くかは、火を見るより明らかだ。

 一人だけ悲しい者がいたとすれば、それは団長シュヴァだろう。


(俺の出番は? ……キッツ)


 こうして、奇襲を受けた学院と騎士団であったが、主に二人の功績によって、後に戦場は収められたという──。







「そこをどいてもらいます……!」


 声を上げたティナが、杖を取り出す。

 ティナを含む少数精鋭は、先に“スカー”の本陣を叩こうという作戦の最中だ。

 彼女らを阻むのは──元Aランク探索者のゴレア。


「お、なんだ? その武器は」


 ゴレアは、ティナにとっては因縁の相手である。

 彼は地上に帰還したエルタにぶっ飛ばされることとなったが、ティナはその時のことをずっと悔しがっていた。

 どうしてあの時、自分で解決できなかったのだろうと。


「ティナちゃん、今なら俺の仲間になってもいいぜ?」

「……っ!」


 そのゴツゴツの体には、まだ若干の恐怖がある。

 それでも、ティナは真っ直ぐに立ち向かった。


「嫌です!」

「ほう」


 その返事は、すなわち開戦の合図だ。


「──じゃあ死ね」

「……!」

 

 次の瞬間、ゴレアの拳がティナに迫った。

 普通の人間ではありえないスピードだ。

 だが、今のティナならば、それをかわせる。


「そう来ると思いました!」

「なに!?」

 

 ティナがひょいっと体をひねり、ゴレアの拳が空を切る。

 加えて、ティナは一人じゃない。


「はッ!」

「ぐぅあっ!」


 セリアが取り出した氷剣で、ゴレアを斬る。

 しかし、容赦をしたつもりはないが、胴体に傷が入るのみとなった。


「……堅いな」

「おーおー、あっぶねえなあ」


 スピード、パワー、そしてタフさが異常に上がっている。

 そんなゴレアには、ジュラが口を開いた。


「融合してるね」

「がっはっは、やはり情報を掴んでいるか! ああ、正解だ」


 教団“スカー”の非人道的な行為──魔物融合。

 人と魔物を融合させることで、大きな力・異形を獲得する技術である。

 この裏には、多くの実験被害者、実験魔物、犠牲が存在する。


 しかし、ゴレアはうまく適合した成功者だ。


「俺はAランク魔物の“トッシンイノシシ”と融合しているのだ!」

「どおりで、だね」


 ゴレアの力の秘密は、魔物融合によるもの。

 “トッシンイノシシ”の特徴は、身体能力の高さだ。

 中でも“突進”においては、既知の魔物では右に出る者はいない。


 一見すごいように思えるが、ティナは拳を見事にかわした。


「あなたは、必ず右拳から入りますから!」

「チッ、ガキが!」


 ゴレアがエルタを攻撃しようとした時の事を、しっかりと覚えていたのだ。

 これでゴレアは絶好の機会を失うと共に、最後の言葉となった。


「では、終わりです」

「あ?」


 ティナは取り出した杖に力を込める。

 すると、周りをいやすような黄緑色の光があふれだす。

 それにはセリア・レオネが目を見開いた。


「これは……!」

「力があふれてくる……!」


 ティナがジュラから授かった専用武器の効果だ。


 兄に専用武器のことを聞かれた時、ティナは「考えている事がある」と言った。

 その先に導いた答えが、この武器には表れている。


(私に三人みんなのような力はない)


 決して諦めたわけではないが、現状セリア・レオネ・ジュラには劣る。

 それを自覚するティナは、それでも何か力になりたいと願った。

 だったら今は、兄を、みんなを支えたいと思ったのだ。


「私の専用武器は、みんなに力を与える!」


 ティナの専用武器──『フェアリーパピヨン』。

 周りに癒しを与え、力を与える蝶々から作られた杖だ。


 癒しの蝶々“フェアリーパピヨン”、その力の根源は不明だ。

 しかし、一説には『想う力』だと言われている。

 周りを想い、周りに力を与えたいと願うほど、その影響力は増すという。


 孤児院時代から、年少のティナは守られてばかりだった。

 だが、偉大な先輩達の背中を見ているだけでなく、自分も力になりたいと思った。

 その想いの強さは、誰にも負けない。


「すごい力だ……!」

「ティナちゃん……!」


 セリア・レオネは、自らの力が信じられないといった表情を浮かべる。

 それほどティナの強化バフの量が大きいのだろう。

 早く力を使いたかったのか、二人はチラリとゴレアへ視線を移した。


 次の瞬間、セリアの剣がフッと消えたように振られる。


「──はッ!」

「んなっ!?」


 ティナの強化バフをもらったセリアが、目にも止まらぬ速さで四連撃を放ったのだ。

 その剣が生み出す氷により、ゴレアの四肢は固定された。


 そこを、風に乗ったレオネが追撃する。


「とうっ!」

「がはっ……!」


 レオネの速さはさらに磨きがかかり、音速の斬撃となる。

 ゴレアががくっと膝を付いたところで、セリアとレオネは振り返った。


「ジュラ!」

「ジュラ姉!」


 二丁拳銃を構えていたジュラの方に。

 もちろんジュラも、ティナの強化バフを受けている。


「……ふふっ」


 ジュラの標準が一瞬にして定まる。

 だが、その刹那で、彼女はティナとの会話が頭を巡った。


────


「ティナちゃん、本当にサポート型で良いの?」


 お姉さんのジュラは面倒見が良い。

 ティナが自分達に追いつこうとしている事にも、前から気づいていたようだ。

 それでも、ティナは首を縦に振った。


「いいんです。私は何よりみんなの役に立ちたい」

「わかったわ」

「でも、ジュラさん」

「うん?」


 しかし、あくまで目標は忘れることなく。


「必ずみんなに追いつきますから……!」

「ええ、楽しみにしてるわ」


────


 一瞬の回想を終え、ジュラはチラリとティナへ目を向ける。


(自分の弱さを自覚するのは簡単なことじゃない)


 それから、銃へ存分の力を銃に込めた。

 ティナからもらった強化の分まで一緒に。


(それができるだけで、あなたはすでに強いわ……!)


 そして、渾身の弾を一気に放つ。


「食らいなさい!」

「ひぃっ!」


 セリアとレオネが道を大げさに開ける。

 ジュラが込めた弾の威力を、ぞっとするほど直感したからだ。


「ぐわあああああああっ!」

 

 ジュラはティナとも幼馴染である。

 その想いの乗った力を糧に、周囲を吹き飛ばすほどの火力を放った。

 ゴレアが立っていられるはずもない。

 

「「「やったー!」」」


 見事な絆の連携が決まり、四人それぞれが声を上げる。

 明らかに幹部クラスのゴレアを倒したのだ。

 これならば、作戦を遂行できると思ったようだ。 


 ──その冷たい声が聞こえるまでは。


「騒がしいので来てみたが」

「「「……ッ!」」」


 決して大きな声ではないが、妙に耳に、頭に響く声だ。

 四人がドクンと心臓は跳ねさせて、その方向をゆっくりと振り返る。


「誰だ、我が行く手を阻む者は」


 そこからは、宙に浮く“スカー”のボスが、四人を見下げていた──。





───────────────────────

ヒロイン達の前にスカーのボスが現れました!

王都防衛戦は、さらに激しさを増していきます!

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