第26話 新たなる力

 『スカーが奇襲を仕掛けてきた』


 その緊急連絡は、すぐさま王都中へ広まった。

 要人には緊急連絡網により、住民には緊急事態を知らせる鐘の音により。

 結果、王都は大混乱におちいる。


「「「きゃあああああああああっ!」」」


 寝静まっていた王都が、一気に飛び起きたのだ。

 戦力を持たない住民は、王都の中心から遠ざかるように逃げ惑う。

 彼らを指示するのは王都騎士団だ。


「みなさん、とにかく南へ!」

「王都から離れてください!」

「小さな子の手は握っていてください!」


 だが、先導している彼らも何が起こったを理解しきれていない。


(((どうして急に……!)))


 それほどに“スカー”の奇襲は予測できなかったのだ。

 そんな中、家の屋根を伝い、逃げる人々とは逆行する者たちがいる。


「団長!」

「ビルゴ教頭!」


 騎士団副団長セリア、生徒会長レオネだ。


 しかし、その表情は焦りに焦っている。

 二人は緊急連絡網から、より詳細な連絡を受けていたからだ。


『現在、シュヴァ団長とビルゴ教頭が応戦中です。敵の数は把握し切れません!』


 それを聞き、偶然一緒にいた二人はすぐさま駆け出した。


 セリアが団長の身を案じるのは当然。

 だが、バチバチしていたレオネも、なんだかんだで教頭を心配だったのだ。

 共に学院を引っ張ってきた者として、これからも共に引っ張っていく者として、ここで倒れられるわけにはいかない。


 しかし──


「待ちなさい」

「「……!」」


 目の前にスタっと現れた者に、二人はとっさに足を止める。

 姿を見せたのは、ジュラだ。


「ジュラ、そこをどいてくれ!」

「わたし達は急いでるんだよ!」


 だが、ジュラは真っ直ぐな目で二人を止める。


「だからこそよ、話を聞きなさい」


「「……!」」


 声色はいつものように甘くない。

 ジュラは頼れるお姉さんの声で話を続けた。


「奇襲が来た方向、目撃情報などから、おおよその教団の拠点を推測したわ」

「「……!」」

「私達はそこに向かうべきよ」


 それでも、セリアとレオネは反射的に言葉が出る。


「では、団長を放っておけと!?」

「教頭もだよ!」

「──本陣はこれじゃない。お姉さんがこの一週間で調査した結果だよ」


 だが、その言葉には二人も息を呑む。


「相手が奇襲を仕掛けてきたのなら、本陣周りも手薄のはず。だったら、少数精鋭で、先にそこを叩くべき」

「「……っ」」

「シュヴァ団長とビルゴ教頭に報いるなら、それが最善だよ」


 お姉さんに諭され、冷静さを取り戻すセリアとレオネ。

 今の二人ならば、ジュラが正しい事を言ってるのが理解出来た。


 そんな彼女らの元に、もう一押しするように少年が姿を見せる。


「行ってください、副団長」

「……!」


 白銀の装備を身に付けた、王都騎士団の少年だ。

 彼はエルタと戦った団員──上位騎士アジル。


「ここは、団長と俺達で死守してみてます。なんたって──」


 アジルは胸に拳をドンっと立てた。


「我々は王都騎士団ですから」

「アジル! ……わかった」

 

 セリアがうなずき、レオネも続く。

 これで三人の意思はそろった。

 加えて、ギリギリ駆けつけた者が声を上げる。


「私も連れて行って下さい!」

「ティナちゃん……!」


 近くでお勉強会をしていたティナだ。

 友達は戦場から遠ざけた彼女だが、急いで中心部へ向かうところだったよう。

 ティナには少し心配の目を向ける周りだが、ジュラだけは信頼したように一歩前へ出た。


「行くってことは、もう使える・・・んだね」

「はい!」

「わかった。じゃあ一緒に行こう」


 ジュラとティナだけに共通する隠し玉があるようだ。

 そうして、改めて四人の意思は固まる。


「じゃあお姉さん達は、本陣を叩くよ」

「「「はい!」」」


 その意思と共に、四人には共通する想いがある。


(エル君……!)

(エルタ……!)

(エル……!)

(お兄ちゃん……!)


 いつも守られるばかりではないと。

 自分たちも出来ることがあるんだと。

 そんな決意を固めて、四人は動き出した。


 しかし、そんな時に限って邪魔は入る。


「お? そこのガキは」

「……!」


 本陣へと近付く中、ドスンと音を立ててゴツい男が姿を現した。

 その男に、ティナが目を見開く。


「久々のティナちゃんじゃねえか」

「あなたは……!」


 元Aランク探索者のゴレアだ。

 ティナにとっては因縁があり、二度と関わりたくない者である。

 

「それに周りも上玉だなあ、へっへっへ。こりゃ、あの力を試すのにちょうど良いか?」

「……」


 それでも、あの時のティナとは違う。

 何も出来ず、ただ兄の姿に頼るだけだったティナとは。


 ティナは新たなる力を手にしたのだ──。


「そこをどいてもらいます……!」







 一方その頃、学院と騎士団の中間地点。


「「「うおおおおおおおおおおっ!」」」


 両機関は、近い場所に位置している。

 最初に襲撃を受けたこともあり、ここ一帯の戦況は、時間が経つにつれて激化していた。

 そんな中、二人の男女が背中を合わせる。


「随分と苦戦してるんじゃないか? 教頭」

「そちらこそ、栄光ある団長さん」


 騎士団団長シュヴァと、学院教頭ビルゴだ。

 同世代の二人は互いに面識がある。

 しかし、両者の関係はそれだけではない。


「まさか、手を取る時が来るとはな」

「こちらのセリフよ」


 王都を代表する両機関において、二人はトップに経つ教育者だ。

 そのため、お互いの活動を少なからず意識していたようだ。

 どちらも王都を良くしようとするがゆえである。


 しかし、今は王都を守り合う仲間同士だ。


「受け取っているのだろう? 例の物・・・を」

「ええ、ここが使い時かしらね」


 軽く言葉を交わすと、二人は既存の物とは違った武器を取り出す。

 それは、ジュラより預かりし新たなる力だ。


「ほう、これは手に馴染む」

「さすが魔装の探索者ね」


 ジュラが言っていた専用武器保持者は、この二人のようだ。

 もちろん実力を考えての人選ではある。

 だが同時に、ジュラは外堀を埋めよう・・・・・・・としていたのだ。


『いつもうちの・・・エルがお世話になっております。魔装を送らせていただきたく存じますので、ご要望をお伝えくださいませ』


 そんな手紙をよこされ、二人は詳細に要望を伝えた。

 そうして出来上がったのが──この武器だ。


「ようやく全力で振り回せる……!」


 団長シュヴァの要望は──

 『とにかくデカいものを』。


 この要望通り、シュヴァは今までよりさらに巨大な“大剣”を手にした。

 刀身の長さは、自分自身をも凌駕りょうがし、王都一の大きさを誇るだろう。

 全力を出せば一振りで剣が折れてしまうシュヴァにとって、これ以上ない武器である。


「──『大剣マンモス』!!」


 そして、教頭ビルゴも武器を取り出す。


「ようやく理想の私になれる……!」


 教頭ビルゴの要望は──

 『とにかく若いものを』。


 あまりに予想外の要望に、ジュラはかなり頭を悩ませたが、なんとか答えにたどり着いた。

 ビルゴの愛武器であるむちの形態はそのままに、機能を追加させたのだ。

 その機能とは、とある“おとぎ話”に出てくるヒーローに変身・・できるというもの。


「見た目は大人、こころは十八歳!」

「「「……!?」」」


 謎のうたい文句と共に、ビルゴはまばゆい光を放ち、格好が変わっていく。

 また、有名なおとぎ話のそれに、周りは敵味方関係なくドン引きしていた。


(((う、うわあ……)))


 それでもビルゴは止まらない。

 幼き頃に憧れたその姿は、魔装という新たなる力を以て、“三十路みそじ魔法少女”としてここに実現したのだ。


「魔法少女ビルリン! 王都に代わってお仕置きするわよ!」





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すみません、ビルゴの暴走は作者ですら止められませんでした。

“いつまでも若く”という彼女の願望を、どうか温かく見守ってあげてください。

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