第19話 出世した幼馴染たち

 「「「わああああああああっ!」」」


 大きな会場で、歓声がわき上がる。


 ここは、王都エトワール学院『第一闘技場』。

 エルタとビルゴ教頭が対決した時と同じ、学院で一番大きな闘技場だ。

 歓声に耳を傾けると、それぞれ言っていることが聞こえてくる。


「なんだこの豪華メンバーは!?」

「前代未聞の勝負だろ!」

「どうなっちまうんだ!?」


 彼らが目を向けているのは、三つどもえの少女達だ。


「わざわざこんな場所を用意したのか」


 栄光ある王都騎士団、副団長──セリア。

 綺麗な金髪をなびかせながらも、堂々とした様だ。

 キッとした目は、“氷の騎士”と呼ぶにふさわしい。


「わたしの権限でね」


 王都エトワール学院、生徒会長──レオネ。

 彼女だけの特別な銀髪に、背中には学院代表のマントを背負う。

 三人の中では一番年下でも、オーラは決して負けていない。


「お姉さん、緊張しちゃうな」 


 Sランク探索者──ジュラ。

 赤とピンクが混じる髪に、魅惑的なボディを持ったお姉さんだ。

 強さ、そして新たなる分野の第一人者として、“魔装の探索者”と呼ばれている。


 まさに国を代表するような三人が、一同に会していたのだ。


「「「わああああああああっ!」」」


 突発的な勝負にもかかわらず、どこからか聞きつけて人々が勝手に来てしまう。

 この異常なほどの人気が、三人の地位を物語っていた。

 しかも、みな幼馴染だという彼女たちに、観客は動揺を隠せない。

 

「三人が幼馴染ってまじかよ……」

「その噂って本当だったのか」

「あ、ありえねえ……」

「てかに幼馴染っているのかな」

「だとしたら相当やべえ奴だな」


 そんな話を横耳に、観衆から少し離れたところで少年は会場を見ていた。


「人気すんげ……」


 口をあんぐりさせたエルタだ。

 みんなが出世したことは分かっていたが、あまりの歓声に、それを改めて実感していた。


 エルタには、隣でぴったりくっ付くティナも同意する。


「ね、みんなすごい人達なんだよ」

「う、うん。よく分かったよ」

 

 だが同時に、ティナは少し悔しげな表情でボソっとつぶやく。


「私もあれぐらいになれたらな……」

「ティナ?」

「ううん、何でもない!」


 しかし、その悔しさはそっと胸にしまった。 

 とある決意と共に。


(絶対みんなに追いついてみせるんだから!)


 ティナはそう気持ちを切り替えるも……今だけはエルタの腕にからむ。


「おいおい、近いって」

「いいじゃん、たまには!」

「んー、まあいっか」


 最近では少なくなった、兄を独占できる場だったからだろう。

 対して、なんだかんだエルタも妹には甘い。

 そんな二人の視線の先で、いよいよ勝負が始まろうとしていた。



 闘技場内。


「さすが生徒会長さんだねぇ」

「そうでしょ」


 ジュラの言葉に、レオネはふふんと胸を張る。

 きゅうきょ決まった勝負だが、レオネの一言ですぐに闘技場を貸し切ったようだ。


 だが、ジュラはいたずらっぽく尋ねる。

 

「でもいいのかな、レオネ」

「どういう意味?」

「学院生が多いのに、私に負ける姿を見せることになって」

「……もう、ジュラは心配性だなあ」


 ふふっと微笑んだジュラに対して、レオネは強い目で応えた。


「わたしが勝つから安心して」

「そっかあ、お姉さん楽しみにしてる」


 普段は大の仲良しだが、どちらも勝負に燃えている。

 エルタのために鍛えた十年間を、ここで勝つことで証明したいのだ。


 そんな中、セリアは目をつぶり、一人で呼吸を整えていた。

 騎士たる落ち着いた風貌ふうぼうだ。


(エル君)


 セリアもエルタを助け出すために十年間、己を磨いた。

 結果的にエルタは帰還したが、この期間を無駄だったとは全く思っていない。

 むしろ、この姿を見てもらえる機会を得たことが嬉しかった。


「ワタシが勝つ」


 その意気を持って、再び目を開く。


「お姉さんは準備オッケーだよ」

「わたしも!」


 三人とも準備が整ったところで、それぞれ構えを取る。

 手にしているのは、魔装による専用武器。

 だが、実はジュラが人に専用武器を作ったのはこれが初めてだ。


 つまり、これは三人勝負の場であると共に、魔装のお披露目の場でもある。


「じゃあ、はじめっ!」


 ジュラが声をかけ、勝負が始まった。

 一番に動いたのは──セリアだ。


「ふぅ」


 ここに来る前、少し剣を振ってみたが、ほとんどぶっつけ本番である。

 それでも、セリアの手にはしっかり馴染なじんでいる。

 彼女の愛剣を基に、重量や長さを調節しているからだ。


「ジュラ、ありがとう」


 セリアはすーっと上段へ剣を構えた。

 今から大技を出すかのように。


「これでワタシは、また次のステージに行ける。 ──はッ!」


 それを目にも止まらぬ速さで振り下ろす。

 騎士団で磨かれた達人の一筋である。


「「「おおおおおおおっ!?」」」


 すると、会場が一気に湧き上がる。

 セリアの一振りによって、前方に大きな“氷山”が出来上がったのだ。

 普通の武器では決して見られない光景に、セリア自身も目を見開いた。


「これが新時代の武器、魔装か……!」


 ──氷剣『ニブルヘイム』。

 氷を操るドラゴンから作成されている。


 この剣は振りの威力に応じて・・・・・・・・・、氷を生み出す。


 毎日重たい剣を振り、毎日己を磨いてきたセリア。

 この武器は、努力の結晶である彼女の一振りに、氷の力という形で応えてくれる。

 まさに“氷の騎士”セリアにぴったりの武器だ。


 確かな威力を実感し、セリアは再び前方へ目を向ける。


(二人は……)


 氷山は闘技場の大半をおおっている。

 しかし、氷山の中には誰もいない。

 代わりに、すぐ近くに気配を感じた。


「──もらった」

「……ッ!」


 音もなく、真上・・から人が現れたのだ。


「くうっ!」


 咄嗟とっさに剣でガードするも、セリアは後ずさる。

 タっと前方に降り立ったのは──レオネだ。


(まるで足音が聞こえなかった……!)


 セリアがそう思うのも無理はない。

 レオネは宙を舞って・・・・・接近したのだ。


「おっしいなあ」

 

 ──双剣『グリフォン』。

 風を操る怪鳥から作成されている。


 剣を振るうことで風を発生させ、自在な移動が可能となる。

 この『グリフォン』を以て、レオネは空中戦を手に入れた。


「この武器すごい……!」


 しかし、“空”という場で自由に動くことは、人間には想像以上に難しい。


 これを瞬時に使いこなせることからも、レオネの力量がうかがえる。

 学院での学問は全て頭に入っており、実践でも右に並ぶ者はいない。

 文武両道のレオネだからこそ扱える武器だ。


「フッ、早速使いこなしているようだな」

「セリアもね」


 対峙した二人は軽く会話を交わすと、次の瞬間にはぶつかり合う。


「「……ッ!」」


 セリアは達人の足取り、レオネは後方へ剣を振るうことで。

 ここに二人の退けない戦いが突如始まる。


「生徒会長をなめないでよね!」

「──くっ!」


 レオネの猛攻に、セリアは横に移動しながら対処する。


 レオネの『グリフォン』は空中戦だけでなく、風による速さも彼女にもたらした。

 加えて、両手にそれぞれ持つ短剣スタイルのため、接近戦はレオネに分があるようだ。


「そちらこそ、副団長をナメるな!」

「……!」


 対して、セリアは距離を取りつつ氷を生成していく。

 威力に応じて大きく生成されるため、小振りであれば氷のとげとなって、レオネに牙を向くのだ。


「「「うおおおおおおおおっ!」」」


 両者一歩も退かないぶつかり合いに、観客も大歓声を上げる。

 ただでさえハイレベルな戦いの上、魔物の能力が飛び交っているのだ。

 興奮するのも当然だろう。


 また、それは本人同士も感じている。


「さすがだな、レオネ!」

「セリアもやっぱり強いね!」


 二人も互いに高め合う者として、よく剣を交えていた。

 だが最近では、忙しさからこんな機会も中々なかったようだ。

 懐かしい日々を思い出して、よりアツくなる。


 しかし、そんなところに──


「常に周りに気を配るのは基本だよ」

「「……!」」


 ボオっと豪炎の一閃が走る。

 

 セリアとレオネは、共に剣で防ぐ。

 同時に、豪炎が通った道の氷山は溶け、もう一人が姿を見せた。

 もちろん──ジュラだ。


「お姉さんのことも忘れないでね」


 余裕の微笑みは、レオネとセリアの戦いを見ても、全く崩れていなかった。





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ヒロイン達も、人気と強さを兼ね備えているみたいですね!

“魔装”も相まって迫力抜群です!

次回、ヒロインバトル後半戦!

何かが起こるみたいですが、果たして……?

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