第14話 騎士団見学(合法デート)

「これがうちの騎士団だ」


 拠点の入口を開けたセリアが、奥へ手を広げた。

 その瞬間、中からは一気に気迫が伝わってくる。


「次だ!」

「はい!」


「立ち上がれ!」

「はい!」


「こんなものでは王都は守れんぞ!」

「はい!」


 拠点の中は広く、至るところで鍛錬たんれんが行われているようだ。

 気合いも乗っており、その厳しさが伝わってくる。

 そんな様子に、エルタは口をあんぐり開けた。


「すーんごい」

「ふふっ、そうだろう」


 エルタが学院講師になってから、約二週間。

 彼の休日に、セリアが『騎士団を見に来ませんか』と手紙を届けていたのだ。

 騎士団見学という名目で、“合法デート”をするために。


 学院にも少しずつ慣れ、暇だったエルタはすぐに応じた。

 というのも、元より一度は訪れたいと思っていたようだ。


「前から見たかったんだよね、セリアが頑張ってるところ」

「……! そ、そうなのか」

「うん。学院でも、副団長は幼馴染なんだぞって自慢してるんだから」

「~~~っ!」


 真っ直ぐなエルタは嘘をつかない。

 そんな言葉に、赤面した顔を思わずそむけてしまうセリアだった。


「と、とにかく、今日は好きにしていいからな。お腹が空いたら、あちらの棟でご飯も食べると良い。もちろん無料だ」

「やったあ!」


 セリアが手を向けると、エルタは少年のように目を輝かせた。

 “ご飯”というツボを押さえているあたり、やはりセリアも幼馴染である。


 そうして、二人は合法デート──否、騎士団見学を始めた。





「ほんと、すっごいなあ」


 ギャラリーから下を眺めるエルタが、感服したように口にする。

 語彙ごい力がとぼしく、さっきから「すごい」しか言っていないが、その表情は楽しんでいるみたいだ。


「セリア、あれは何してるの?」

「……! ど、どれだ?」

「あれだよ」


 エルタが再度指を差すと、セリアはあわてて目を向ける。


「あ、あー! あれは対魔物けいだな!」

「へえ! ていうか大丈夫? さっきからボーっとしてるけど」

「……っ!」


 エルタは心配そうにセリアを覗き見る。

 今日は何度もセリアが聞き返す場面があるようだ。

 しっかりした彼女にしては珍しいことである。


 対して、セリアは背を向けて心の中で叫ぶ。


(ついエル君ばかり見てしまう……!)


 セリアにとって、騎士団見学は会うための名目。

 つまり、彼女の中では“デート”中である。

 それを意識しすぎて、中々会話に集中できずにいたのだ。


(顔が自然にゆるんでしまっているな……)


 最近会えてなかったということもあり、セリアは完全に浮かれていた。

 ──だが、そんなところに一人の男がやってくる。


「おい、お前」

「ん?」


 同年代ぐらいの男は、エルタへ話しかけた。

 胸に刻まれているのは“上流騎士”の印だ。

 これは副団長の次に高い位である。


「どういうつもりだよ、副団長に付きまとって」

「え?」


 その声色から分かる。

 どうやらエルタを敵対視しているようだ。

 だが、そんな男を放っておくわけもなく、セリアが止めに入った。


「アジル、彼は客人だ。ここはワタシに任せて戻るんだ」


 男の名は『アジル』。

 騎士団の中でも五指・・に入る実力者だ。

 そんなアジルは、セリアの命令にも引かない。


「すみません副団長。ですが、この男に話があるんです」

「──聞くよ」

 

 すると、エルタがセリアの前に出た。

 本当は優しいセリアをあまり怒らせたくないのだろう。


「僕に話って?」

「まずは聞くぞ。お前は副団長のなんなんだよ!」

「なにって、ただの幼馴染だけど……」

「なわけねえだろ!」


 アジルは怒りのままに、カンっと地面へ剣を突き立てた。

 それから、最近思っていた感情をエルタへぶつける。


「副団長は冷徹れいてつで努力家で、自分にも厳しく、一切笑わないお方なんだよ!」

「うん?」


 この時点で首を傾げたくなるが、アジルの言葉は止まらない。


「その上、よこしまな考えを持っておられず、他人には全く興味を示さず、ただあるがままに剣の道を突き進む、そんなお方なんだよ!」

「うーん?」


 やはりちょくちょく引っ掛かる部分がある。

 しかし、セリアが騎士団で見せている姿は、彼の言う通りなのかもしれない。

 また、それを隣で聞いているセリアはずっと視線を逸らしていた。


(アジル、すまない……)


 おそらくアジルも好意から言ってくれているのだ。

 そのため、冷徹な態度はつくろったものであり、エルタのためだけに騎士団に入り、今日もデートの口実だとは、とても言い出せない。


 対して、アジルは感情のままに続けた。


「そんなお方を、こんな浮かれた表情にするなんて……たぶらかすんじゃねえ!」

「た、たぶらか!?」

「そうだろ! あんたが来るまで副団長はこんな惚気のろけた表情をしなかった! 俺はクールで誰にも振り向かない副団長に憧れたんだよ!」


 もはやセリアは天を仰いでいる。


(本当に悪かったから。だからもう許してくれ……)


 そんな彼女の真意は知る由もなく、アジルは声を上げた。


「だからここは男らしく、これで決着だ!」

「……!」


 そうして、アジルはエルタへ剣を向けた。

 

「俺が勝ったら、今後一切副団長には近づくんじゃねえ」

「え、それはちょっと……」

「いいな。闘技場で待っているからな」


 エルタが戸惑っている内に、勝負が決まってしまった。

 ここでも彼の巻き込まれ体質が発揮したようだ。

 エルタは頭を手を当てながら、ちらりとセリアへ目を向けた。

 

「ごめん、なんかすごいことになっちゃった」

「いや、こちらこそすまない。完全にワタシの指導不足だ」

「ううん。でもあの人には謝っておいて」

「え、謝る?」


 首を傾げるセリアに、エルタはこくりとうなずく。


「セリアと会えないのは寂しいからさ」

「……!」

「ここは勝ちたいんだ」

 

 そうして浮かべている表情は、やる気に満ちていた。





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団員にすごく慕われているセリアですが、彼女は何よりエルタが大切だったみたいです(;・∀・)

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