「マンゴーを囓る」

何処へでも行こうとしてた君の背で風にふくらむシャツ 君は船


空しさはどんな場所にも溶けていて目を開くたび佇んでいる


風音が激しく唸る一瞬のあとの睡魔を愛しく思う


言葉にはできないという言葉ではとても足りない パンケーキ焼く


おもむろに四つ葉の一枚かじりとり幸せひとつなくす夕暮れ


窓辺には君の愛した花だけが今日も下界を見下ろしている


「どーなっちゅ! どーなっちゅー!」と呼ぶ声はパパに抱かれて遠ざかりゆく


辞書というものが存在しないのか 苦みばしったパフェをぱくつく


日常をばらばらにして掬いとりパッチワークにして眺めやる


好きですと告げた声からぼろぼろと枯れ落ちていくだけの薄明


七月の紫陽花を見て陽光を嫌う理由をまた一つ得る


炎天下ふわりこぼれる髪のをこの夏のよすがとして歩く


デジタルに身を焦がしては幾月を過ごしたはずの私の短歌


日曜のパン屋の客に配られる図形パズルのようなクルンジ


薬品の匂いのしたるマンゴーを囓る深夜のダイニングテーブル


狼とピストルの形は似ている 月に向かって腕を構える


ふとサイドミラーを見れば白兎潜り込みたるセンターライン


風船を開いてみれば鶴、やっこ、あやめの花の形跡がある


一つずつ釦を閉じてゆくほどに こころをぎゅっと抱きしめている


一度目を閉じたら僕はもういない ラッパの響く朝焼けの街

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