「マジシャンだったら全部よけれる」

巨大化を果たせば特撮ヒーローにやられる権利を得そうなあけび


部屋の隅 狂ってしまえなにもかも 白いこの手がまだ白いうち


こんにゃくはお椀でちぎるものだっておばあちゃんが頑なに言う


これが正あれが不正で日が暮れる 黄色い葉っぱは枯れてるんじゃない


檻を出て初めて立った草原に吹く風ゆらす髪や部屋着や


店奥に並んだ青い眼球をわずに指を瞳に置きぬ


携帯を鈍器のように握り締めいざとなったら人を殺せる


紙箱にお菓子をつめたかばんだけあればこの子は生き延びられる


アスファルト一片ひとひら剥がれて鳥になり横切ってゆくフロントガラス


じりじりと焦げつくバターに甘さなど存在しない 雪が降ってる


チョコレイト以外は存在しない気がバニラを食べる最中してる


レモンならきいろでいいよレモンイエローの絵の具は夏蜜柑に塗る


いくつもの穴があいてて光射すマジシャンだったら全部よけれる


苺なら校舎の裏に生えてるよ。きっと酸っぱいけど食べますか?


泥濘でいねいにきみの足跡のこってて君がいたのはそれしかなくて


冬空は意外とあかるい 広大な雲は高速移動している


さみしさの理由をわけてくださいと言われることもさみしさなのです


蝋燭の火は灯されず手つかずのストライプ冷たく膜のなか


ほんとうにほんとうにちゃちなガラス玉 眠る握って君を想って


心臓の場所には一個星があり今日をかぎりと燃えさかってる

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