「残骸の夢」

パンジーを心密かに「ひげおやじ」と呼んでる僕をどうかゆるして


こんなにも弱者と呼ばれる者たちが闊歩している強者となって


音もなく流れる涙 白桃の柔肌に歯をたてるがごとし


紫陽花を打つ雨水をすくいとり紫陽花いろの絵の具をとかす


読む前になくしてしまった説明書 世界を左右できなくなった


三分で辿り着くはずないあかり 優しい人になどなりたくない


違う世界に行ける装置があるのならそれはきっとジャングルジム


電灯に集まる虫はまだ高く星空にでも行ってしまえよ


指先で撫でる誰かの推薦文 引き出しの中しまっておいた


水槽がすべて砕けて散るような予感覚える薄暗い部屋


夏の日に葡萄になりし飴玉をちぎって梅に戻す一手間


気が付けば指先までも翻る 僕にもあなたを裏切れるって


ぼくにだけ歌ってくれたカナリヤはプラスチックの黄色をしてた


一滴を待っているのだ雨垂れの車窓を伝うその一滴を


やなものは読み込まなくっていいここはぼくの箱庭きみはいなくて


ほんとうのことは昔に擦り切れていま牙を剥く残骸の夢


唇に滲む鮮血 紅させばこんな風かと鏡眺むる


だって月は僕を責めないからぼくが何をしたって気にしないから


気に入りの丘の上のパン屋は夢のなかにしかないこと思い出す


死に神の死んだ朝に手は冷たくて非常扉の鍵は開かず

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