「鯉の棲む水」

茱萸の木が庭に植わったあの家はもしや幻なのかもしれず


何軒かパン屋を梯子したけれどフルーツサンドが見つからなくて


ほの甘い躑躅つつじの蜜を吸っていた私はぎりぎり昭和の子ども


三択で選べというがこの中に人の気持ちの正解こたえはあるの


濃紺というには青く紺青というには黒く鯉の棲む水


薄碧うすあおの目玉をなくした双頭のイルカわたしの友達でいて


耳塞ぎ流し込む音イヤホンで閉じ込めた音飽和してゆく


点々を書いてないのに書き足されるそこ濁らないと何度言ったら


うどんよりきしめんが好き冷や麦が素麺よりも好きです何故か


本当は知らないけれど独断で決めつけている金木犀の香


今日もいるこないだもいた「もう少し可愛いほうが」と言うおじさんが


風邪ひいた時だけ舐めるのど飴が申し訳ないくらいに余る


じりじりと灼けつく夜の光さえ冷たいと決めて歩いていた


拾ってた誰かが投げた水底に沈んで光る一円玉を


予約だけしたけどやっぱり高いよと脳内会議がまだ終わらない


楓蜜みたいに舐めたら甘いのと期待していた まさかヤニとは


スケッチを何枚も描いたはず山ばっかり描いた記憶しかない


マジシャンのように神経衰弱で無双ができるほどの年月


この子とは分かり合えないだろう例えば蝶々の結び方とか


誰だっておなじ体と思ってた目も耳も手も足のほくろも

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