第11話

出雲D専は普通の学校ではない。

探索者育成に重きを置き創設した学校である。

高等部となると本格的にダンジョン探索念頭に置いたものとなり、実地訓練と言う名の探索が行われる。

然も軍隊式と言った感じの訓練が執り行われる。

中等部もそれは変わらない。

勿論、義務教育下と言うことで多少は一般の中学校と同じ部分はあるが、ほんの一部で、軍隊の養成校の様な風潮がある。

テストも一般的な学力よりも脳筋系学校らしく体力測定の部分に重きを置く為、テスト結果はその測定結果に依存すると言える。

その結果、小学生の内から鍛えに鍛え捲られている震災孤児の子供たちは成績上位を占める結果となった。


「はははは~色々俺達に言っていたけど、成績は案外大したことないな」

「な!!何だと!!」


震災孤児の子供たちと教団の子供たちがまたしても言い争う。

前回の事を考えるとありそうな話ではあるが、露骨に挑発する震災孤児の子供たちが今回は悪い。

しかし、その挑発に簡単に乗る彼らも如何なものであろうか?


「お、お前らがデカい顔が出来るのも今の内だけだ」

「ははははは~負け惜しみか?」

「いや、お前たちは、去年まではここの小学部で扱かれていたんだろ?」


事実ではあるが、「親も無く」と言う言葉が鼻につく。

態と言っているのだから鼻につくのは当たり前だ。

勿論、これは売り言葉に買い言葉である。

相手の嫌味に嫌味で返しただけであろうが、「親も無く」という言葉は戦災孤児の子供たちにとってはタブーのワードの一つである。

事実ではあるが、他人に言われると特に腹立たしいワードなのである。


「それがなんだ?」

「俺達の親からダンジョンについて色々ノウハウとか聞けるからな~その内追いつき、追い越すさ」

「う、何だと?」

「いや、な~に、うちの親は現役で探索者しているしな~最新情報も得られるだろうしな~」

「う・・・」

「あ!すまんすまん、お前たちの親にはだったな~」

「お前!!」

「ん?何か文句ある?」


こうしていがみ合いの連鎖は広がる。

同じ様な事がそこかしこで起こり、益々それぞれに対しての不満や恨みが蓄積して行くのであった。

気が付けば2018年も終わりを迎えようとしていた。

出雲D専は全寮制の学校であるが、夏休みや冬休みは一応はある。

夏休みは夏合宿と言う名のサファイバル訓練と臨海学校と言う名の海上・海中の訓練が行われ、課外授業と言う名の訓練が目白押しだ。

しかし、冬休みは本当の休みな為、親元に帰省する生徒が殆どである。

だが、例外もある。

震災孤児の子供たちはそもそも帰る場所がない、また、元不良の生徒たちも親から捨てられた子供たちで、手紙等で「帰って来るな」と言う内容のメッセージが本人宛に届き、帰る宛が無い者も多い為、この子供たちはそのまま寮に留まる事となる。

事情が思い当たらなかった者が何気ない言葉の刃でその者の心を切り裂いた。


「あれ?帰省しないのか?」

「ああ・・・」

「まぁ帰省は自由だしな、じゃあ俺は帰省するからまた年明け~」

「お、おう・・・」


一応は帰省を了承された者はその開放感から、相手の事を思いやる心の余裕はなかった。

また、言われた者も自分の立場を相手に知られたくないことや、嬉しそうに帰省する者に理由を述べて水を差すことを嫌い話さなかったことで、心のすれ違いが生れる。

そして、これをチャンスと捉えた者たちが居た。


「お!お前、帰省しないなら暇なんだな?」

「はぁ~?暇だっと?」

「え?違うのかよ」

「ち、が、・・・違わない・・・」

「そうか、まぁ家庭で色々あるんだろうけど、それなら家来るか?」

「え?」


人は弱っている時に優しくされるとその者を信じてしまったりする者である。

そして、その者は戻って来た時には立派な信者となって戻って来ると言うことをこの時知る者は声を掛けた者位なのかもしれない。

勿論、全ての者がこの毒牙に掛かった訳ではない。


「おい!ここで宗教勧誘とかするなよ!!」

「はぁ~?お前らには関係無いだろ?」

「いや、関係ある!」


前者・旧教団の生徒と後者・震災孤児の生徒が睨み合い勧誘を受けた生徒を挟み火花を散らす。

睨み合いの途中ではあるが、震災孤児の生徒はその勧誘を受けた生徒に向かって声を掛ける。


「おい、俺たちと訓練するって言ってたじゃんか~忘れたのかよ?」」

「お、おう!そうだった、そうだった!!」


勧誘を受けた生徒は旧教団の生徒に断りの文句を述べる。


「悪い、誘われていたの忘れていた。俺は訓練予定だから悪いな」

「けっ!そうか、まぁせいぜい頑張れや!」


旧教団の生徒は彼らを一睨みした後その場を立ち去り、帰省して行った。


「た、助かった・・・」

「そうか、良かったな。じゃあな~」

「あ・・・」

「ん?何?」

「いや・・・」

「何かあるなら言えよ」

「お、おう・・・良ければ訓練を」

「おう!良いぞ!!」

「ほ、本当か?」


それぞれが元不良たちを取り込むような形で、派閥を更に形成していった。

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大和ダンジョン国史(仮) 生虎 @221t2

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