第8話
「出雲ダンジョン専門学校」、通称「出雲D専」に小学校の頃から入学させようと言う親御さんは流石に日本全国を探しても居なかったようで、小学校までは元探索者を親に持つ震災孤児の子供たちだけであった為、問題は殆ど起こらなかった。
同族意識のある子供たちはある種の運命共同体のように仲が良く、喧嘩らしい喧嘩は起こらず、ただ只管に義務教育と体力作りなどの訓練に明け暮れた。
軍隊もかくやと言う訓練と同じ釜の飯を食った仲間として結束したと言ってもいいだろう。
しかし、中等部からは外部からの編入者が加わって来る。
「ふん!お前らの親がしっかりとしないから犠牲者が増えたんだよ!!」
「な、何だと!!」
隣のクラスより怒号が響く。
「隣のクラスで何かあったみたいだな」
好奇心の塊の
しかし、このクラスの教師が教室に入って来た。
「HRを始めるぞ~皆席に着け~」と言う声と共に先程の怒号で隣のクラスに様子を見に行こうとしていた好奇心旺盛な生徒たちも慌てて席に戻り着席する。
教師は筋骨隆々で、着ているスーツの上からも分かるほどの筋肉マッチョの男性教諭であった。
本能的にこの教諭を怒らせてはいけないと悟ったかは知らないが、慌てて皆が先に着いたのは言うまでも無いだろう。
教師は壇上で生徒たちに背を向け先ず黒板に自分の名前であろう漢字の羅列を書く。
向き直り、生徒を見回してから自己紹介を始めた。
「
実にこの教師に似合う強そうな名前である。
教師はそのまま自身の紹介を続ける。
「これから1年間このクラスの担任を拝命した。私は・・・あ~言葉遣い丁寧にとか面倒だな~」
行き成り先程までの口調が面倒と言う教師。
ピシっと決めていたネクタイを解きYシャツのボタンを2個ほど外し楽にしてから続きを離し始めた。
「おっと、もう面倒なので普通に話すぞ。1年間は担任だが、教師として3年間お前らの面倒を見てやる。俺は探索者としては特務探索者と言われるランクに居た。訳あってな~ここで探索者のひよこども、お前らの面倒を見ることとなったから覚悟しろ!!」
凄い物言いだ。
しかし、彼は紹介の中で特務探索者と言った。
探索者は幾つかの資格と言うかランクと言うか、階級とも言える様なものがある。
一般的には探索者は一括りに語られるが、それぞれに特化してスペシャリストになるとその称号が付く。
護衛探索者、字の如く護衛に特化していると認定され護衛任務全般を担うことが多い。
この認定者は護衛のリーダー職的な扱いを受けるので、自分で護衛チームを持つ者は必須資格と言われている。
採取探索者、ダンジョン内の希少金属等を集める探索者の中でも採掘を指揮する。
工事現場などの現場監督的な立場で、この認定者以外が勝手にダンジョン内で採掘を開始すると盗掘扱いを受けるので注意。
他にも幾つかの資格があるが、中でも特務探索者は全ての探索者の頂点等と言われる資格で、この認定を受けるのは幾つかある認定資格の3つ以上を得た探索者が総理大臣の認可によって選ばれると言う。
名誉ある称号であるが、誰がこの資格保有者かと言うのは非公開である。
ある意味、幻の資格などとも呼ばれている程の資格となる。
「す、凄げえ!!」「マジかよ・・・」「特務って伝説上のものじゃなかったんだ・・・」「特務とか初めて見た」
クラスは特務と言う言葉で騒然とする。
「あ~五月蠅い!!」
その一言で今までのざわめきがピタリと止み、教室に静寂が訪れる。
何がと言えないが、本能が黙れと叫んだように生徒たちは感じたのかもしれない。
何気ない言葉のはずが生徒たちの心を縛った様な不思議な緊張が教室を包む。
豪徳寺はクラス全体を見渡した後、続きを話し出した。
「クラス委員を決めるぞ!立候補もしくは推薦しろ!!」
武のおふざけとも言える推薦で、確定した。
武よ覚えておけよ!!
その日は入学式と今後の説明等々が行われて放校となった。
俺と奈美は放課後、豪徳寺先生に呼ばれ職員室にて先生と話す。
「おう、貴重な放課後の時間を貰って悪いな」
「いえ」
「はははっは~そう警戒するなよ」
「あの」
「何だ?」
「いえ・・・」
「何故、お前たちを呼んだかか?」
「クラス委員だからでは?」
「ふはははは~そうだったな、クラス委員、クラス委員」
「え?違うんですか?」
「まぁ違わないが違う」
どっちなんだよ!!と言いたいが、クラス委員としての物とそれ以外のことがあるのであろうと勝手に判断。
「ほう・・・判断が良いな」
こちらの考えを読んだような物言い。
「伊佐野に月光だったな」
「「はい」」
「実はな、お前たちの亡くなった親御さんたちには世話になってな~」
聞けば俺と奈美の両親は元々同じPTメンバーだったと言う。
少し驚き、お互いを見てしまう。
会った時から馬が合うと感じたが、親の世代からの相性だったようだ。
そして、この時俺は何故か凄く運命を感じ胸が熱くなるような感覚に襲われた。
俺達の両親はある事を契機に探索者を辞めたが仲の良いPTであり優秀な探索者であったと言う。
「お前らの両親に世話になったから恩を返したかったが黄泉に旅だった・・・あ~黄泉とか言ったらダンジョンと勘違いするな」
「いえ、意味は解りますから」
「おう、そうか」
「はい」
「まぁなんだ、恩返ししたくても本人たち居ないから息子・娘に恩を返すこととした」
「え?それって・・・」
「おう、お前たちの為にここに来た」
「あの・・・」
「どうのこうの考えず、俺の全てをこの一年で先ず盗め!それが俺なりの恩返しだ!!」
豪徳寺先生はそう言うとニッと笑い「もう帰っていいぞ~」と言う。
学校の校舎を出てから奈美が思い出したように言う。
「あ!クラス委員の事話した?」
「あ!話してないな・・・」
まぁ特にクラス委員の話はなかったのかもしれない。
特務探索者が俺達の為にここに来たとすれば・・・凄く有難い。
親戚から俺の両親は凄い探索者とは聞いていたが、実はどんな功績があるかは聞いていない。
まぁ俺も小さかったしな。
その内調べてみるか・・・
そんな薙と奈美とは別の所で学校全体を巻き込む前兆が起こっていた。
「おい!!」
「ん?何だ?」
「HR前に言ったこと取り消せ!!」
「言ったこと?・・・ああ、お前らの親がしっかりとしないから犠牲者が増えたか?」
「そうだ!!」
「事実だしな~」
へらへらと笑いながら一人の生徒が挑発的に言葉を続ける。
「俺達の親があの場に居れば、モンスター何て蹴散らしたさ!!」
親の世代に何があったのか?
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