第4話

中国電力供給株式会社が所有する島根原発は西日ノ本大地震の際にモンスターに襲われ一部破損の影響で心炉融解しメルトダウンを起こした。

ロージア(ロージア連邦)のチュルオブイリ原発の事故と比べればセシウム137(ウラン燃料が核分裂をした時に生じる放射性物質)による汚染地域は6%程で、大領地の国と比較していいものなのかは定かではないが最小限の被害などと言われた。

この原発施設での事故はモンスターだけが原因ではなく、人的要因も多く含まれ、「人災」と言う専門家もいる程に緊急時マニュアルが杜撰な物で、経営陣や政府の指示も曖昧な物で現場を更に混乱させ、必要以上に被害を拡大させたと言われている。

現場の責任者が「事件は会議室で起こっているんじゃない!ここで起こっているんだぞ!!」と会社・政府の首脳陣を一喝して現場に一任させたことで、少しはましになったと後々の報告書で報告され話題となった。

それはさておき、何と驚いたことに出雲市も避難地域に含まれて居たにも拘らず、件の学校が設けられたのは何か含むところでもあったのか知るのは一部の人間だけであろう。

政府関係筋の情報ではダンジョンの近い事と、ギリギリ非難区域ではないと言うことで選ばれたと言うが、この地域の住民は非難したのであるから苦しい言い訳にも聞こえなくはない。

しかし、確かに仕事場ダンジョンに近いのは間違いない。

行き場のない特別学校の生徒たちの多くはエスカレーター式に「出雲ダンジョン専門学校」、通称「出雲D専」に入学する事となった。

勿論、世の中にはそれ以外の者も居て好んでこの学校を選んだ者も居たが、少数であった。


「この出雲ダンジョン専門学校は探索者を育成する学校です」


入学式の壇上に一国の総理が来賓として来て、来賓挨拶をするのは異例のことであろうが、亜部あぶ真造しんぞう総理はやって来て、現在、来賓挨拶を行っているのだから力の入れようが伺えると言う物だ。


「なぁ、薙」

「何だ?奈美」

「探索者って社会の底辺だよな?」

「認めたくないものだが、現在はそうだな・・・」


薙少年は同じく特別学校に入学していた震災孤児の少女と仲良くなり探索者になった後はPTを組むこととしていた。

彼女の名は月光げっこう奈美なみ

10人が見れば10人が美少女と言うであろう少女である。

長い黒髪を靡かせて歩く姿に見惚れる男子は数多く、告白する者も後を絶たない。

しかし、外見とは裏腹に言葉使いが男っぽく、男子よりも女子に人気の男女おとこおんなである。

元からそうだったのか震災後の生活でそうなって行ったかは本人に聞くよりないが、答えるか如何かは彼女次第だ。

薙も見た目が良い方で、並ぶと絵になると言うことで割と女子人気はある。

そんな二人は入学式をボーと眺めながら小声で駄弁っている。


「そこいらのクズ政治家よりまし?薙はどう思う?」

「どうだろうな~今の政治家なんて真面な人間のやる職業じゃないっしょ」

「あ~それ職業差別だ~」

「いや、事実だ」

「あ~なりたい職業ランキングとかで政治家は10位以内にも入ってないらしいしね~」

「いや、それ言ったら探索者とかぶっちぎりでなりたくない職業1位だろうよ・・・」

「薙~それって、職業差別だ!」

「いや、事実だし・・・」

「それ目指す私たちって・・・」

「まぁな~でも俺はなりたいんだ!」


そんな話をしている間に入学式は滞り無く進行した。

探索者免許は18歳から取得できる。

この学校はダンジョン内での研修などもある為、特例として仮免許が交付され、15歳から入ダン(ダンジョンに入る)することが出来る。

10歳で入学した薙・奈美たちを含めた15歳以下の者たちは規定年齢15歳に達するまでは義務教育を受けつつそのカリキュラムの中にダンジョンの知識を学んだり戦闘などの探索者に必要な技術を学ぶこととなっている。

15歳以上の者は1年間の専門訓練の後、仮免許が交付され入ダンが赦される。

「出雲D専」卒業後は高校卒業資格同等として取り扱われ、高卒扱いとなる。

同級生の2人は現在、小学4年生である。

入学式で話していた内容から考えると通常であればと言ったところであろうが、社会の荒波を渡って来た彼らは大人びていると捉える方が合っているであろう。

入学式が終わると次の日からは日常が戻って来るが、変わったことと言えば、今まで通っていた小学校のカリキュラムに探索者関連の物が混じる位のものであるが、薙・奈美たちのクラスは全員が探索者志望の者のクラスとなるので今まで過ごした校舎より移動して「出雲D専」の小学部へと移動することとなっていた。

現在、日ノ本で底辺と呼ばれる職業を選択するような者たちなので一癖も二癖もある様な者たちの集まりであった。

いや、そうならざる終えない程に社会が彼らを差別した。


「総理、如何でしたか?」

「そうだな・・・あの子たちは本来は差別・迫害されるような立場の者ではないが、社会は差別し迫害した」

「総理、お言葉が・・・」

「事実だ。本来はモンスターから市民を守りボランティアで殉死した様な方たちの子供なんだぞ」

「そ、う、ですね・・・」

「マスコミの餌食で割を食った子供たちだ。本来は彼らの亡くなった親御さんたちはもっと褒め讃えても良いと思うが・・・」

「世間が赦しませんね・・・一度貼られたレッテルはなかなか・・・」

「そうだな、探索者は本来もっと評価されるべきだと思うがな・・・」

「今までの「D探法」のままでは難しいから改正ですね」


本年度、4月1日より「新D探法」となる。

アブノミクス第一の矢と呼ばれる法改正で、探索者のダンジョン内で手に入れた物については税率40%での買い取りとなった。

今まで税率60%の買い取り価格であったことを考えると大幅の減税となる。

亜部総理とお付きの秘書官は話を続ける。


「税率の高さと命のやり取りを天秤にかけて探索者は敬遠されている」

「そうですね」

「本当はもっと下げるべきだと思うのだが・・・」

「身内も野党も許さないでしょうね」

「そうだな。阿蘇あそさんたちと協力してやっとこれだからな・・・」

「大幅な改正でしたしね、それこそここまでよく下げられたと私は思いますよ」

「あの宗教に協力を仰ぐことで何とかなったが・・・」

「公平党のバックボーンを抑える意味でも協力するよりなかったんですかね?」

「解らんな・・・出来るならあのような者たちと手を結ぶのは嫌いだが・・・背に腹には代えられなかったな」

「まさに毒を以て毒を制すですね・・・」

「ははははは~君!上手いこと言うな~」


そんな話を車中で話しながら車は新幹線の最寄り駅へと向うのであった。

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