第6話 力の示す道

 変わらない祈りを捧げ、今日のお祈りが終わろうとしていた。

 ところが、何とも言えない違和感がチアベルを襲い始めていた。

(なに、この感覚。今まで一度も感じた事ないわ)

 突然、チアベルは自分の中から、何かふつふつとした力を感じたのだ。これは、自分が神託の巫女として目覚めた時、前世の自分の記憶を取り戻した時と同じ感覚だった。

(くっ、なんなのこれ?)

 チアベルは混乱した。一度苦しんだこの反応が、なぜまた起きているのか。しかし、考えたところでまったく分からない。

 前世の考え方だけなら、苦しくなったところで投げ出していただろう。でも、今のチアベルは巫女なのだ。自分が背負うものは自分だけではなくなっていたのだ。必死に自分の力をコントロールしようともがく。

(……これは、誰か別の力が流れ込んでいる?)

 もがいた結果、チアベルは力の違いを感じられるようになっていった。

(ここから西の方……。かなり離れている。でも、よかった、自分だけじゃなかったのね)

 自分と同じような存在が他にも居ると分かって、チアベルはとても安堵した。なぜなら、力の波長に懐かしさを感じたからだ。

(この感覚、まさか……ね)

 流れ込む力に最初は苦しんだものの、懐かしさを感じたチアベルは、無事にお祈りを済ませる事ができたのだった。


「チアベル様、お疲れ様です」

 チアベルはメイドに出迎えられる。

「カル、国王様にお会いできるかしら」

 チアベルの言葉に、カルと呼ばれたメイドはとても驚いて取り乱す。

「こ、国王様に……でございますか? 少々お待ち下さいませ」

 カルはそう言って、慌ただしく祈祷室の隣の部屋から出ていった。その様子を見送りながら、チアベルは壁にもたれかかる。力が流れ込んできた影響で、少し疲労してしまっているようだった。


 しばらくして、カルから謁見の許可が下りたとの報告があり、チアベルは国王と会う事となった。

「陛下、わざわざ時間をお取りいただき、光栄の極みでございます」

 チアベルは跪いて首を垂れる。

「チアベルよ、そこまでかしこまる必要はない。して、今日はどのような報告かな?」

「はい。祈祷中に不思議な力を感じましたので、その報告にとお伺い致しました」

「不思議な力とな?」

 チアベルの言葉に、国王は身を乗り出す。

「はい。私が覚醒した時と同じような感覚を覚えました。おそらく、新たな神託の巫女かと思われます」

 国王と同席していた宰相や神官たちが騒めく。二人目の神託の巫女が現れたのだ、騒ぐのは無理もない話だった。

「場所はここからかなり西でございます。もし出向かれるのであれば、私も同行させて頂きたく思います」

 チアベルの目は真剣だった。

 ところが、国王の方はこれを渋った。世界の希望たる『神託の巫女』を軽々しく外へ出していいものだろうか。そう、貴重な存在であるチアベルの身を案じたのだ。

「力の出どころは、私なら正確に把握する事ができます。国王様は臣下に徒労をさせるおつもりですか?」

 チアベルはいつになく強く出る。

「わ、分かった。ただし、しっかりと護衛はつけさせてもらうぞ」

 その気迫に国王は簡単に負けてしまったようだ。

 この言葉を聞いたチアベルは、いつになく満面の笑みを浮かべて勝ち誇って見せた。


 こうしてチアベルは、力の発生を感じた西へと旅立つ事になったのだった。

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