第5話 神託の巫女

 ミャーコの暮らす村から遠く離れた王都。数多くの種族が平和に暮らす王国の中心で、多くの人が行きかい活気にあふれている。

 そんな王都の中心には、大きな城がそびえ立っている。

「チアベル様、お食事をお持ちしました」

「ありがとうございます」

 メイドが食事を持ってくる。チアベルと呼ばれた少女は、振り向いて笑顔でお礼を言う。

 金色のストレートロングの髪に金眼を持つ、年は10歳くらいの少女だ。実に丁寧な物腰の少女は、シンプルな飾りつけのワンピースに身を包んでいる。ワンピースとは言っても、その見た目はローブとも言える不思議なものだ。

「窮屈な生活ね」

 チアベルは、食事を取りながら外を見る。

「あの日からもう4年も経つのね。魔物に襲われた時に変な力に目覚めてからというもの、お城に迎えられて軟禁生活。この世界もこんなに不自由なものだとは思わなかったわ」

 ため息をつくチアベル。ところが、言葉遣いがなんとも10歳くらいとは思えない感じだ。

 食事を終えたチアベルは、メイドを呼んで食器を片付けさせる。

「呼べば来るし、何でもしてくれる。ぜいたくな生活なんだろうけど、なんとも満たされないかな」

 食器を下げに来たメイドが出ていくと、チアベルはまた一つため息をついた。


 しばらくして、またメイドが現れた。

「チアベル様、午後のお祈りの時間でございます。ご支度を致しましょう」

「分かりました」

 チアベルは了承すると、メイドについて部屋を出ていく。

 朝と昼の2回、すべての人のために祈る時間。30分程度とはいえども、巫女としての大事な役割である。

 しかしながら、この役目は誰が考えたものかまったく分からず、昔から『神託の巫女』と呼ばれる存在に課せられた役割なのだという。

 なんでもこの世界には、魔法とか超能力とかがありふれてはいない。というよりも存在していない。使えるのは、チアベルのような『巫女』や『使徒』と呼ばれる特別な存在だけであり、その存在は一部を除いて隠されている。

 だが、チアベルの存在は広められており、『神託の巫女』として崇め讃える流れができてしまっていた。そのために、チアベルはその身を守るためとして軟禁状態に置かれているのだ。

(高貴な身の生活っぽいだけど、とても息苦しいわね……)

 チアベルは不満に思いながらも、自分のやるべき事として午後のお祈りを行う。それはただひたすら世界の安寧を願い、自分の持つ祝福の力を世界に撒き散らすだけのものだ。それだけのものだが、自分の力で世界を平和にできるのならと、チアベルは毎日続ける事ができているのだった。

『郷に入らば郷に従え』といった感じだろうか。お祈りは自分の役目と、チアベルは完全に割り切っていた。

(いっその事、チアベルとしての人格だけなら、こんなに悩まなかっただろうに……ね)

 祈祷室に向かうチアベルは、周りに悟られないようにため息をついた。

「それではチアベル様、よろしくお願いいたします」

 祈祷室に着いたところで、付き添いの神官からそう声を掛けられる。

「はい」

 簡単に返事をするチアベル。

 祈祷室に入ったチアベルは、いつものように跪いて静かに祈りを捧げ始める。

 祈祷している間は本当に静かなものだ。外界から遮断された部屋に窓はなく、外の音は話し声だろうが鳥のさえずりだろうが、全く聞こえてこなかった。これで部屋が真っ白なら気が狂いそうだが、宗教的な紋様が壁や天井に描かれ、同じような絨毯も敷かれていた。

 チアベルは、一人この部屋の中で祈りを捧げ始める。

 これは、いつもと変わらない、いつもと同じ祈りになるはずだった。

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