第4話 思い出してきた

「いやあっ! 死にたくない!」

 ミャーコは、大池のほとりで大声を出して意識を取り戻す。

「はぁ、はぁ……。夢?」

 ミャーコは顔を手で押さえている。

 今見ていた景色を夢だと思いたい。だが、感触などがどう考えても生々しく、生まれる前の自分の記憶ではないかと考えてしまう。

「だいぶうなされてたけど、大丈夫?」

 スフレは心配そうに、ミャーコの顔を覗き込む。ミャーコは「大丈夫だよ」と、明るい顔を見せてみる。その顔を見て、スフレは安心したような様子を見せていた。

「それにしても、すごい光だったよな」

 唐突に変な事を言うボルテ。しかし、周りのみんなもそれに頷いてみせている事から、どうやら眩く光った事は事実のようである。

「うん、ものすごく光ったかと思ったら、ミャーコが浮き上がって来たんだよ」

 リッジもまたとんでもない事を言う始末。

「念のため、ミャーコはドクトル爺さんに診せた方がいいだろう」

「そうですね」

 近くの釣り人の提案に、スフレやリッジは同意する。そして、ミャーコはボルトにおんぶされて、ドクトル爺さんの家まで連れていかれる事になった。

「大丈夫なのに……」

 ミャーコはぼそっと呟くが、この流れにはあらがえなかったようだった。


 ミャーコはドクトル爺さんの所まで連れてこられた。

「ほぉ、池に落ちたと思ったら、光り輝いて浮いてきたとな。わしは医者であって、不思議現象の学者じゃないぞ」

 ドクトル爺さんは、不機嫌な態度を見せる。とはいえ、診てくれと言われれば断らないので、基本的にはいい人なのだ。

 ミャーコは、ドクトル爺さんの診察を受ける。

「……ふむ、異常はない。怪我もしとらんようじゃし、何の問題もないぞい」

 ドクトル爺さんは、淡々と診察結果を述べる。

「本当に大丈夫なんですか?」

 スフレが確認する。

「大丈夫じゃ」

 ドクトル爺さんの返答は変わらなかった。

 いつまでも食い下がろうとするみんなを、ミャーコは必死に説得して、慌ただしくドクトル爺さんの家を出ていく。

「すみません、お邪魔しました」

 ミャーコは最後に、ぺこりとお辞儀をしてから出て行った。


 ミャーコたちが出て行った後、ドクトル爺さんは一人頭を抱えていた。

「はぁ、古い伝承だと思っておったが、まさかうちの村に起こるとはのう……」

 ドクトル爺さんは、ミャーコの診察結果を書いた紙を眺める。

「明らかなマナの異常じゃ。近いうちに村長と一緒に、ミャーコと話をせねばなるまいな」

 ドクトル爺さんは、深いため息をつくのだった。


 家に戻ったミャーコは、両親に今日あった事を伝えていた。怒られると警戒していたミャーコだったが、母親は抱きしめてくるし、父親も無事で良かったと泣いていた。

 予想外な反応を見せられたが、ミャーコは両親に謝っておいた。

 ご飯の後、自分の部屋に戻ったミャーコは、今日の事を振り返っていた。気を失っていた間に見ていたのは、間違いなく過去の自分に起きた事だと、なんとなくだが確信を持ち始めていた。

「あれが自分の前世だとするなら……」

 ちらりと鏡を見るミャーコ。

 みやこと呼ばれていた自分。名前は似てる。顔立ちなども似ている。あれが自分だとするなら、電車にはねられて死んだ事になる。

「突き飛ばされて危ない目に遭った時、『また死ぬ』と思ったのは、そういう事なのね」

 過去の自分だとは思い始めていても、まだミャーコとみやこが同一人物という状態には至っていなかった。

 だが、ミャーコの運命は間違いなくこの時から思わぬ方向へと動き始めていたのだった。

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