第3話 記憶のみやこ(後編)

 買い物を終えたみやこといすずは、満を持して猫カフェへとやって来た。

「ここが、もふもふ天国なのね!」

 猫カフェに入るなり、みやこは目を輝かせてそんな事を呟く。さっきのお店の時とは、明らかに違う反応である。そこまでもふもふしたかったのか。どれくらいかと言うと、カフェなのに座席に着く事なく、ひたすら猫と戯れるくらいだ。

「お客様、猫ちゃんと戯れるのもよろしいですが、ご注文伺いますので、一度席に着いて下さい」

「このまま注文する!」

 店員にすら逆らう。実に迷惑な客だ。

「あ、でも、食べる時はちゃんと席に座るから」

 みやこはひたすら猫と戯れている。いすずも注意する気をなくしていて、みやこを止められる者など既に居なくなっていた。

 しばらくして、注文した料理が届いたのだが、それに気付かないみやこ。

「みやこー? 料理来たけど、あたしが食べていーい?」

 嫌味全開で声を掛けるいすず。

「えっ! 私の分は私が食べるに決まってるでしょ!」

 みやこはもふもふしていた手を止めると、いすずの座っている席へと移動する。

「きゃー、可愛い」

 みやこは声を上げる。

 運ばれてきた料理は、なんと猫の形をしていた。そのあまりの可愛さに、みやこはもう騒ぎっぱなしである。

「こ、これ、写真撮っていいですか?」

 すでにスマホで撮影しながら、みやこはそんな事を言っている。店員は苦笑いしながら「いいですよ」と答えていた。

 そこからのみやこの暴走具合は酷い物だった。とはいっても、猫を見てかわいーを連呼したり、怒らせないように猫をもふもふしたり、その程度である。

「ふあー、ごちそうさまでした」

 猫を十分楽しんだみやこは、これ以上ない笑顔を浮かべていた。どれくらい猫に飢えていたのか、それはもう想像に易いくらいだった。

 いすずは、みやこの暴走に呆れつつも、連れてきたかいがあったと満足そうにしていた。


 もふもふと猫を堪能したみやこたちは、会計を済ませて猫カフェを出る。忘れ物はしてないよ。

「いすず、今日はありがとう。おかげで楽しめたわ」

 みやこは上機嫌のまま、いすずに抱きつく。いすずは少し嫌そうな顔はしたものの、友だちを喜ばせる事ができて照れていた。

「そろそろ帰らなきゃね」

「うん、そうだね」

 目的のお店は家からは少し遠く、二人は鉄道の駅まで足早に歩いていく。

 その間、みやこは猫と心ゆくまで触れ合った事で、幸せそうな笑顔で歩いていた。

「もふもふを堪能できたし、明日から頑張るわー」

 急に叫ぶみやこに、いすずは思いっきり吹き出す。

「ちょっ、いきなり何言ってるのよ」

「猫ちゃんの癒しパワーで、私は元気百倍なのよ!」

 ああダメだ、これはツッコミが追いつかない。いすずは本気でそう思った。


 日曜日とはいえ夕方。駅のホームは思ったより混んでいた。とはいえどいつもの事なので、みやこといすずは気にする事なく、ホームの最前列で電車を待っている。

 そろそろホームに電車が入線する。


 その時だった。


「きゃっ!」

 みやこは突き飛ばされて体勢を崩す。

 隣に居たいすずは素早く反応して、みやこを助けようとするが、二人揃ってそのままホームから転落する。

 その次の瞬間、二人の体を入線してきた電車が弾き飛ばす。そして、二人はそのまま意識を失ってしまったのだった。

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