第2話 記憶のみやこ(前編)
「おーい、みやこー」
「なーに、いすず」
みやこは、名前を呼ばれて振り向く。
友だちと一緒に並んで歩く少女の名前は『みやこ』。黒髪セミロングの、どこにでもいる普通の女子高生だ。
どうも彼女は帰宅の最中のようだ。そこで友だちと合流して、それからどこかに遊びに行くらしい。
「隣街に新しいファッションのお店が出来たんだって。今度見に行かない?」
「いいわね。ちょうど新しい服が欲しかったのよ」
みやこはとても上機嫌のようだ。いすずも、そのみやこの笑顔を見てとてもご満悦のようである。
「それじゃ、いつもの場所で待ち合わせだね」
いすずは、みやこに確認する。みやこは「そうだね」と元気いっぱいに返事をした。
「それにしても何を見てるの?」
話の最中もやたらとスマホを眺めていたみやこに、いすずは問い掛けてみる。すると、みやこは自分のスマホの画面を、いすずに突きつけるように見せる。そこには、猫の癒し動画が流れていた。
「可愛いよね、この子」
それはもう何とも言えない笑顔でみやこが見てくる。
「そ、そうね」
苦笑いをするいすず。
実はみやこは、友人関係の中では結構な猫好きで知られている。猫に関する動画はかなりの頻度で見ているらしいし、猫を見るとふらふらと撫でに行こうとするので困った限りだった。猫が可愛いからと言っても、少々重症な気もするくらいだ。
「住んでるマンション、ペット禁止だから動画で紛らわせているんだけど、もふもふしたくてたまらないの」
みやこの表情と動作を見ていて、いすずは完全に呆れている。いや、どうしてここまでのめり込めるのか、まったくもって理解不能だからだ。
いや、実際猫は可愛いのだが、障子は破るし、壁や床は爪研ぎでボロボロ。手間が増えて面倒なだけな存在と見る人もそれなりに存在するのだ。
「ま、見てるのと実際に飼うのとじゃ全然印象違うわよね」
「なによ、実際に飼ってるような言い方じゃないのよ」
「まあね。お爺ちゃん
「あー、羨ましいな。私の所なんて誰も飼ってないのよー」
いすずの言葉に、本気で悔しがるみやこ。
「うー、もふもふに囲まれて暮らしたいよーっ!」
「はぁ……、だったら今度の日曜、新しいファッションのお店に行く時に一緒に猫カフェも行きましょう。帰りたくないって騒ぎそうだけど」
呆れたいすずは、妥協案を出す。
どうもその猫カフェは、ファッションのお店の近くにあるらしい。これに、みやこは食いついたのだった。
そして、迎えた日曜日。
「うふふ〜、今日は楽しみ〜」
みやこはとても上機嫌だ。
それもそうだろう。猫カフェでたくさんの猫と戯れられるとあれば、猫好きには天国のようなものだろうから。
「先に服を見てからにしましょう。猫の毛だらけで、お店に入る勇気はないでしょう?」
「うん、そうだね」
いすずの問い掛けに、みやこは笑っていた。
雑談しながら到着したファッションのお店は、とても華やかなお店だった。様々なブランドの服、下着はもちろんのこと、雑貨に小物、そしてコスメまで、なんでも揃うという百貨店状態だった。
これにはみやこもいすずも、目を丸くして驚いていた。そして、良い物はないかと気の済むまで見回っていた。
結局のところ、あまりお金も無かったし、この後に猫カフェ行く事も考えれば、服を上下ワンセット買うくらいにとどまった。でも、欲しかったデザインの服を買えたとあって、二人揃って満足そうな顔をしていた。
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