もふもふ転生記

未羊

第1話 ハーフキャットのミャーコ

 ここはとある大陸の、それは平和でのどかな村。

 村の住民のほとんどは獣人という、ちょっぴり変わったところはあるが、それでも多少のケンカが起きるくらい平和な村だ。


「おはようございます」

 元気に挨拶するのは、この村に住むハーフキャットの少女、ミャーコだ。

 ハーフキャット自体はそう珍しくもないのだが、彼女の場合はその毛色がとても珍しい。

 赤みがかった銀色の毛並みに、深緑の瞳。そして、その毛並みは淡く光るような艶がある。なんとも見る者を虜にしそうなほどの美しさである。まるで、この世界に伝わる伝説の銀猫が人の体を得たような、見事なまでの姿である。

 だが、年はまだ十歳ほどのあどけなさの残る少女だ。小柄な体に大きなまん丸とした目。フリルがたくさんついたブラウスにバルーン型の吊りスカート。思わず過保護にしたくなる可愛さも兼ね備えていた。

「ミャーコは、きれいだし可愛いよね」

 そう呟くのは幼馴染みのハーフドッグのスフレだ。家は近所、生まれた日は同じ。まるで双子のように育ってきた、一番の仲良しの女の子だ。褐色の毛並みでたれ耳な彼女もまた、守ってあげたくなるような健気さがある。

「おっす、今日も探検するか」

「村の周りだけでも結構興味深いからね。ボクは賛成だよ」

 ミャーコたちに声をかけてきたのは、これまた幼馴染みの男の子たちだ。

「ボルテ、今日は無茶はしないでね。なぜか私が怒られるんだから」

 探検するかと言っていた男の子に、ミャーコは明らかに不機嫌そうに言う。

「そうだね。ボルテ君はいつもみんなを振り回してくれるからね」

「そう言うリッジこそ、夢中になって迷子になるのをやめてくれ」

 ボルテが言い返すと、みんな揃って笑う。

「あはは。でも、今日は天気がいいから、近くにお散歩くらいなら賛成かな」

 ミャーコが笑顔でそう言うと、ボルテはここ一番の笑顔を見せる。

「よし決まりだな。近くの大池まで行こうぜ」

「賛成ー」


 ボルテが先頭になって、ミャーコたちは村の近くの大池にやって来た。

 この大池はかなり大きく、湖と言ってもいいくらいの広さと深さがある。魚も種類が豊富のようで、岸のあちこちに釣り人の姿が見られる。

「よーし、リッジ。なんか面白いもんないか探そうぜ」

「分かったよ。ミャーコとスフレはどうする?」

 今にも駆け出しそうなボルテを前に、リッジは一応女子二人に確認を取ってみる。

「私はそこの岩場で日向ぼっこしてるよ」

「私は、木の実とか探そうかな」

 ミャーコとスフレでは、対照的な返答が出た。

「そっか。それじゃ後で合流しようぜ」

「あまり遠くまで行って迷子にならないでよ。探すのも私、怒られるのも私なんだから」

「へいへい」

 ミャーコは呆れた表情を見せるが、三人には好きに行動させる事にした。


 探索しに行った三人とは別に、ミャーコは岩場に座って大池を眺めている。時々、釣り人に混じって魚を獲ってみたり、話をしたり、実にのんびりと過ごしていた。

 やがて時間が経ち、探索に出ていた三人が戻ってくる。ミャーコは疲れているようで、岩場で座ったまま寝ていた。

「気持ちよさそうに寝てるね」

 スフレがくすっと笑いながら感想を漏らす。

「ちょっと驚かせてやろうか」

「やめてよ、ボルテくん。後で怒られるよ」

 いたずらする気満々のボルテを、スフレは止めようとする。

「大丈夫、大丈夫」

 そう言って、ボルテはミャーコの背後に近づく。そして、ボルテは「わっ!」っとミャーコの背中を押す。

「みゃっ!」

 驚いたミャーコは、激しく暴れて体勢を崩す。

「危ないっ!」

 スフレがミャーコを捕まえようとするが、ミャーコはそのまま大池へと転落してしまう。

(うみゃー、また死んじゃう!)

 大池に転落したミャーコは、ふとそんな事を思う。

(えっ、?)

 はたと自分に浮かんだ言葉に疑問を持つミャーコだったが、そのまま意識を失って沈んでいってしまった。

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