第19話


死ね、消えろ、ゴミ、カス、失せろ、早く死ね、地獄に落ちろ、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね、死ね。


そんな罵詈雑言を毎日浴びせられていたのが、


僕の親友の神崎達也だった。


控えめで、静かで、うるさくなくて。


いかにも陰キャって感じな達也くんは、


いつも寂しげな顔をしていた。


僕は欠かさずに毎日一緒にご飯を食べた。


二人きりの屋上で。


そよそよと吹く風に心地よさを感じながら。


二人で話をしていた。


「ねえ扇くん、俺、もう隠したくないんだよ」


「?何を?秘密?」


「うん。すごく大事な秘密。やっぱり、言おうかなって」


「でも、大事な秘密なんでしょ?隠しておけば?」


「うん…、でも、もう面倒だなって思うんだ」


「じゃあさ、タイミングがあったら言ってみたら?アイツらビビるかもよ?」


「そうだね、そうしよっかな」


二人で喋る。


たった20分だけど、その時間のすべてを会話に注ぐ。


「今日さ、実は放課後呼び出しがあって…」


「僕、今日は一緒に帰れるよ。待っておこうか?」


「…うん、待っておいて。でも、長いなって思ったら帰ってもいいから」


「分かった。でも一緒に帰りたいから待っておくよ」


そう言って、今日は解散した。


今日は一緒に帰れそう!


楽しみだな、久し振りだし。


***


結局、昨日は何時間待っても来なかった。


さすがに暗くなってきたので、家に帰った。


次の日、聞いたのは、


達也くんが人を殴ったらしいということだ。


僕は心配しながらも、昼休憩を待った。


今日は休みらしい。


屋上で待っていたが、誰も来なかった。


久し振りに一人で食べた。


放課後、家に行って、話を聞こうと思った。


すんなりと出てきた達也くんの目は、赤く腫れていた。


「大丈夫?心配だよ」


「大丈夫だよ。扇くんこそ、大丈夫?」


「…ねえ、人を殴ったって本当?」


恐る恐る尋ねてみた。


嘘だろう。


嘘であってほしい。


だが、そんな僕の思いとは反対に、彼はゆっくりと頷いた。



「___ばか!!!」



考えるよりも手が先に出てしまうというのは、


どうやら本当だったらしい。


達也くんは、驚いたように目を丸くして、


叩かれた自分の頬を触った。


なんでだろう。


なんで叩いてしまったんだろう。


達也くんを見ずに走って帰った。


全速力で、振り返らずに。


ああ、なんて嫌な親友だろう。


ごめんね。達也くん。


***


その日から、屋上でご飯を一緒に食べなくなった。


なんか気まずくって、申し訳なくて。


僕は、一週間後くらいに、達也くんを呼び出した。


ある教室に。


大きな黒板がある使っていない教室に。


***


入ってきた達也くんは、生気を失っていた。


青い瞳からはハイライトがなくなっていて、


頬にある乱雑な絆創膏も痛ましい。


ああ、僕のせいだ。


そう考えたら、胸が熱くなってきた。


目から液体が出てきそうだ。


駄目だ。泣いちゃダメだ。


泣きたいのは僕じゃなくて達也くんのほうだ。


僕は、熱くて震える声で、


「僕のせいだ。ごめんね」


と言った。


呟いた、の方が正しいかもしれない。


すると、達也くんは教室から出て行ってしまった。


ごめんね、達也くん。


ちゃんと謝れなくてごめんなさい。


こんな親友で、本当にごめん。


***


翌日、親から聞いた。


達也くんは、自殺したらしい。


屋上から、軽々ととんで、死んだらしい。


ああ、僕のせいだね。


あそこで、ちゃんと謝れていたら、


「僕のせいだ」なんて口に出さなかったら。


本当に、僕は。


最低で、最悪なやつだったね。

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