第7話
猫宮扇。
それは紛れもなく僕の名前であり、
僕自身である。
僕は、生まれた時から、ずっと、
猫宮扇として生きてきた。
でも、小学一年生から僕は、
僕じゃなくなった。
『お前、いいにゃ』
「…っえ」
小学一年生の時。
帰路のど真ん中にいた、真っ白な猫をみた。
僕の髪に似てるなーと思って、近付いた。
それが間違いだった。
その猫は、完璧に僕の容姿と同じだった。
目の色、毛の色、肌の色、
すべてが、同じだったのだ。
その猫は、僕が近付いた途端に飛びかかって来て、
取り憑かれた。
人間には持てない力、〔妖力〕を得た僕の体は、
適応するのに六年かかった。
授業中も、休憩中も、歩いている時も、
ずっと寝てた。
ずっと眠かった。
ずっと苦しかった。
得体のしれないその力が、
僕の中で
苦しくて、熱くて、暑くて。
でも、寒くて。おぞましくって。
中学一年生は、やっと体が慣れてきて。
やっと体が動くようになって。
ちゃんと勉強ができて。
ちゃんと運動ができて。
ちゃんとご飯が食べれて。
嬉しかった。
そして、悲しかった。
人間じゃなくなったのが、悲しかった。
僕が、怖かった。
***
ある日、月見さんと近くの席になった。
月見さんも、僕と同じで、妖気を感じた。
だから、「同じだ」って思った。
猫が、ざわついた。
こいつを殺せ、こいつを潰せ、って。
途端に、また眠くなった。
強い妖気に、あてられた。
月見、猫狐さんの妖気だった。
***
夢を見た。
長い夢を。
猫が僕を襲う夢を。
苦しかった。
体の中が、痛かった。
夢の中でも眠かった。
夢の中でも、寝た。
熱くって、もどかしくって。
もがいた。
もがいた。もがいた。もがいた。
もがいたもがいたもがいたもがいたもがいたもがいたもがいたもがいたもがいたもがいたもがいたもがいたもがいたもがいたもがいた。
……苦しくって、涙があふれた。
***
まあ、かなり前の話なんだけど。
僕の友達、神崎達也は、言っていた。
”扇、昨日より髪白くない?”って。
確かに、そうだった。
僕の髪は、日を増すごとに白くなっていた。
やがて、純白の髪になるって気付いた。
だから、ちょっとだけ染めた。
薄灰色に。
髪が白いのが分からないように。
そしたら、猫が怒った。
俺と同じ色なのに、勿体ない…と。
そしたら、体が勝手に動いて、
頭をつっこんだ。
水が止まらず溢れ出ている蛇口に。
冷たかった。
寒かった。
髪の毛は、白に戻った。
***
僕は、意識が途切れ途切れになった。
記憶もあやふやだし、
前後なんてめちゃくちゃだ。
でも、正直どうでもいい。
この痛みを、なんとかしなくちゃ。
一日中、布団に籠もって寝た。
何度も何度も何度も。
飽きるまで寝た。
飽きるほど寝た。
十何度目の時、月見さんからメッセージが来た。
「大丈夫?」の一言。
僕は、急いで外に出た。
朝起きたときはこんな頭痛なんてなかったから、
学校の制服は着たままだったから大丈夫だった。
道を走って、走って、歩いて。
僕は、やっと見つけた。
紫味の強い青の髪に、
キラキラと輝く黄金の瞳。
猫のように鋭い瞳孔は、すべてを見透かしているようだ。
ああ、思い出した。
一度僕は、この人に_____
***
途切れ途切れの意識を寝て治す。
それがいつもの僕のやっていること。
寝込み屋扇のやること。
忘れてしまった過去が、
取り戻せる訳では決してないけど。
それでも、か細い伏線を切り貼りして繋げることはできる。
早く治して、戻さなきゃ。
記憶を戻して、謝らなきゃ。
謝らなきゃ、月見さんに「ごめんね」って。
いや、違うな。
誤ったのは、謝らなきゃいけないのは___月見さんの方だ。
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