1.ルームメイト(下)
【自分:手札5・デッキ50 - 相手:手札5・デッキ42】
考える。とは言え、打つ手はもう決まっている。正確に言えば、これしか手が無い。戦術を選べるほど、このデッキは器用じゃない。
「手札から"リックスドールの巨像"を魔石触媒でキャスト!」
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Lv.1 リックスドールの巨像
ユニット -オルフィズ・テレスライト教室・魔法石
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①魔石触媒(このカードを唱える触媒として、場に存在する裏側のカードを用いてもよい)
②魔石化(このカードが破棄エリアに移動する時、代わりに裏側で自分の場に出す)
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3000/1
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レベル2ユニット並のパワーとかなり低い与ダメージ。早い話が触媒要員だ。
前のターンで唱えた"魔法石の発見"と、コストに使った"リックスドールの巨像"で魔石化したカードが場に2枚あるから、魔石触媒。テレスライト教室のカードは次から次へとユニットを場に展開し易いのが長所だ。強いユニットは"魔石砕きの巨人"と新魔法石のセットしかいないが。
「自分の場の"リーベスの巨像"を触媒にして、"霧鏡の大鴉"をキャスト!」
強力なユニットに対するメタカード。フラバー先生の"魔石砕きの巨人"もこのカードを入れてなかったら負けていただろうな。
「続けて"リックスドールの巨像"を触媒にして、"魔法オーロラの妖精"をキャスト!」
そして、場に存在するユニットのコピーとして場に出る"魔法オーロラの妖精"。
クレインの場に存在するアマル・レスタのコピーとして場に出る事も出来るが、現状だと意味がない。
アマル・レスタのパワーと与ダメージは[トキシックレイド・グレートキャスト]トリックによって場を離れた[有毒生物]ユニットの数によって決定する。コピーとして場に出たとしてもグレートキャストで場に出ていないので、パワーも与ダメージも0のまま。戦闘にも参加出来ないので②の効果も能動的に使えない。
となればコピー先は大鴉一択だ。
「"魔法オーロラの妖精"の鏡映効果により、大鴉のコピーとして場に出る」
そしてバトルだ。2体の大鴉による自爆特攻で相手のデッキを消し飛ばす!
「まずは大鴉のコピーとなった妖精で、アマルレスタを攻撃!」
「通すしかないね」
【相手:デッキ42(-21)→21】
アマル・レスタとコピー大鴉のバトルは当然、こっちの負けだ。しかし、大鴉の能力でバトルで発生する与ダメージの対象が逆になる。バトルに負ければダメージを通せる。バトル敗北による破棄は逃れられないけど。
「最後だ! 大鴉でアマル・レスタを攻撃!」
これが通れば僕の勝ちだが、そううまくはいかない筈だ。クレインの顔にはまだ余裕が張り付いている。対抗手段がある、という事だ。
「オレはバトル前に"設置式魔道地雷 カーバメート・マイン"をキャスト! 決戦詠唱により、このカードはアタックフェイズでしか唱えられない!」
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設置式魔道地雷 カーバメート・マイン
トリック -トキシックレイド
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①自分の場にLユニットが存在する時、このカードは決戦詠唱(このカードはアタックフェイズでしか唱えられない)を持つように唱えても良い。
②[効果]自分の場に存在するユニット1体と相手の場に存在するユニット1体をそれぞれ選び、破棄する。
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「対象にするのは、アマル・レスタと大鴉!」
「……"霧鏡の大鴉"は、夢幻効果によりカードの対象になった瞬間に破棄される」
これでバトルが成立しなくなった。アマル・レスタも破棄されるが、除去耐性があるからなぁ。
「アマル・レスタの効果! このユニットが破棄される時、[トキシックレイド・グレートキャスト]トリックにより唱えられた扱いで自分の場に出せる!」
うまく躱された。そしてアマル・レスタのパワーと与ダメージも再計算される。
「この時、オレのダメージがそのままアマル・レスタのパワーと与ダメージの計算に使われる。オレのダメージは29! よって、パワー14500と与ダメージ58になる!」
どうしようかな、この状況。さっきの攻撃で勝ちに持っていけなかった時点で勝率はかなり下がっている。とは言え、最後まで足掻いてやるか。
「手札から"魔法石の現出"をキャスト! この時、手札から[魔法石]ユニットを追加で破棄する事で決戦詠唱を持つ。僕は手札から"魔法石 鮮烈のオパール"を破棄!」
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魔法石の現出
トリック -テレスライト教室
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①魔石化(このカードが破棄エリアに移動する時、代わりに裏側で自分の場に出す)
②このカードを唱える時、追加で自分の手札の[魔法石]ユニットを1枚破棄すると決戦詠唱を持つ。
③[効果]自分の破棄エリアからこのターン破棄された[魔法石]ユニットを1体選び、自分の場に出す。アタックフェイズで唱えた時、自分はこれ以上アタック宣言を行えない。
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「さっき破棄された"霧鏡の大鴉"を自分の場に出して、アタックフェイズを終了する」
追撃出来たら強かったんだが、さすがにそれは強すぎるか。これも元々はテレスライト教室のトリックカードを唱えやすくさせる為のサポートだしなぁ。前のめりな運用には向かない。
【自分:手札5・デッキ45 - 相手:手札5・デッキ20】
セットアップフェイズとなり、次はクレインのターン。大鴉がいる限り、アマル・レスタでは攻撃が出来ない。となれば全力で大鴉の除去に動いてくるだろう。
大鴉は夢幻で除去され易いユニットだ。どうにか相手の除去を躱して場に維持出来なければ本当に負ける。クレインはどう出てくるか……。
「ふぅ、流石にさっきは肝が冷えたよ。危うく負けるところだった」
「最初から対抗策はあっただろう?」
「あぁ。そして"霧鏡の大鴉"を場に残される事も考えていなかったとも」
さっきのカーバメート・マインで消し飛ばして、このターンにアマル・レスタで殴って決着……と言うのがクレインの理想だっただろう。
「こっちとしても、そう簡単に負けられないのさ」
「いいね。やはり、オレの見込みは正しかった。他の新入生とは比べ物にならない」
僕たち以外だとフラバー先生に負けてるから、だろうけど……正直フラバー先生のデッキがヤバかったからではと思わないでもない。あの巨人、プレイング云々でカバー出来る範囲を超えてるぞ。僕も祈りに祈りを重ねた運ゲーで勝ちを拾ったようなものだし。
「まずは手始めに"設置式魔道地雷 カーバメート・マイン"をキャスト!」
「"魔法石の波動"で対応。夢幻を持つ"霧鏡の大鴉"が場にいるので問題なく唱えられる」
即決で除去札を切った。しかも手始めにときたもんだ。マジかよ、除去手段そこまで手札にきてるのかよ。
自分と相手のユニットを1体ずつ破棄するカーバメート・マインを波動で打ち消し、どうにか大鴉を維持する方法を考える。
「次の策だ! "蟲体誘引物質 フェロモン・ベイト:リリーサー"をキャスト! 破棄エリアから"実験用の蠍"、"実験用のムカデ"、"実験用の毒蜘蛛"を場に出す。蟲毒の処理は行わない!」
再び巨大な実験用カプセルが出現し、その中へ実験用の有毒生物が詰められていく。
お互いに致死ライン。余分な展開で隙を見せたくない、か。
「そして、"督戦用蟲体忌避煙幕 イカジリン=ディート・スモーク"をキャスト!」
「げっ!?」
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督戦用蟲体忌避煙幕 イカジリン=ディート・スモーク
トリック -トキシックレイド
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①[条件]自分の場に[有毒生物]ユニットが存在する時
[効果][有毒生物]ユニットを全て破棄し、場を離れたユニットの数の倍に等しいダメージを相手に与える。
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本来は場に増やした[有毒生物]ユニットを弾丸にして相手のデッキを削るバーンカードでしかないが、この効果[有毒生物]ユニットを破棄するのは全体の場。
つまり、夢幻を持つ大鴉も破棄の対象に含まれてしまっている。一応躱す手段はあるが……その後のクレインの行動次第か。
「"魔法石の共鳴"で対応! デッキから"スージュネルの巨像"を唱える! 触媒は"霧鏡の大鴉"だ」
「そうきたか。だけど、スモークのバーンダメージは受けてもらう!」
【自分:デッキ44(-6)→38】
カプセル内に充満した煙を嫌ったか、カプセルが内側から破壊されてこっちに向かって逃げてくる。有毒生物たちの突撃を受けてデッキの枚数が減る。地味に痛い。
「ではバトルといこうか! アマル・レスタで"スージュネルの巨像"を攻撃だ!」
パワー14500の前では魔石化したカードによってパワーを増やす"スージュネルの巨像"でもほぼサンドバッグだ。これを通せば僕の負けだ。このまま通せば、の話だが。
「この瞬間! "魔法石の継承"をキャスト!」
「まだ手を残していたか!」
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魔法石の継承
トリック -テレスライト教室
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①魔石化(このカードが破棄エリアに移動する時、代わりに裏側で自分の場に出す)
②決戦詠唱(このカードはアタックフェイズでしか唱えられない)
③[効果]自分の場に存在する[魔法石]ユニット1体と自分の破棄エリアに存在する[魔法石]ユニット1体を選択する。その後、前者を破棄して後者を自分の場に出す。
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「継承の効果により、自分の場の"スージュネルの巨像"を破棄し、破棄エリアの"霧鏡の大鴉"を場に出す!」
これでアマル・レスタはバトルを行えない。
「……オレは! 手札から"追憶の力"をキャスト!」
「はああぁぁ!?」
思わず声を上げる。そのカードを使われる事は全く想定していない。背景世界の小説でも、実際に決闘で使われたカードはその人物の故郷や、縁深い勢力のものだけだった。
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追憶の力
トリック -追憶人
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①決戦詠唱(このカードはアタックフェイズでしか唱えられない)
②[効果]以下の効果から一つを選ぶ。
●バトルしている自分のLユニットのパワーを、このバトルのみ倍にする。
●相手のユニット1体を選び破棄し、そのユニットの与ダメージの値分のダメージを自分が負う。
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"追憶の力"は定住の地を持たないフリーランス勢力の一つ、追憶人のカードだ。
追憶人は、英雄たちの残した魂から読み取った武具を具現化して戦う一族で、霊廟都市カバネに属する英霊衆から分かれた勢力だったか。セントリオンの出身のクレインと頭の中で関係性が結びつかない。
「その反応。本当に底が知れないね。追憶人も知っているとは思わなかったよ」
「クレイン……?」
苦々しく呟くクレイン。どうにもこのカード……と言うよりも追憶人自体に僅かな拒否反応を示している。おそらくは、彼の過去に関係する事なのだろう。
その態度は、まさに使わされたと言っているようなものだった。
「"追憶の力"で選ぶ効果は、相手ユニット1体の破棄だ! 対象は"霧鏡の大鴉"!」
「対象になった時点で、"霧鏡の大鴉"は夢幻効果で破棄される……!」
これで、本当に場ががら空きになってしまった。手札に対抗手段はもう無い。
「アマル・レスタで直接攻撃!」
「……何もない。通しだ」
【自分:デッキ38(-58)→0】
この世界に来て、初めての敗北。
悔しい。あぁ、悔しいな。小説の描写だが、決闘に負けた者がそのまま殺される事もあった。それに比べればまだ僕は次がある。
……僕は、本当に全力だっただろうか?
ギャラリーに対してリアクションを取るクレインを見ながら、僕は思考を繰り返す。敗北の理由をデッキに擦り付けてはいなかったか。プレイングは本当に最適だったか。
冷汗が止まらない。一度負けて、目が覚めたと言っていい。これは紛れもない現実で、現代ではない価値観で構成された世界だ。オルフィズから外に出れば……いや、もしかするとオルフィズ内でも容易く命を落とすだろう。
「強くなる、か」
現代では大会に出る事がカードゲームを遊ぶモチベーションの源だった。あの時も緊張感を持ってプレイしていたが、実際に魔道書を使っての決闘とは比べ物にならない。この世界にきて、入学試験に合格した時は現代の戦い方がどこまで通用するかと心躍っていたが。
少しずつ、意識を変えていく必要がある。現代のアドバンテージは決して絶対のものではない。この決闘は、その結果が現れただけに過ぎない。幸いなのは致命的な場面での失敗ではないという事だ。
先ずは、オルフィズを実際に自分の目で見て回ることから始めようか。
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