1.ルームメイト(上)

「ようこそ! 我がルームメイトよ!」

「ごめんね~、ちょっとお邪魔してるよ」


 学徒寮に割り当てられた部屋に入った途端、誰かいた。二人もいた。教えられた部屋の番号も一致している。という事はこの二人がルームメイトという事になるのか?

 いや、一人はお邪魔していると言っていたから、ルームメイトは一人だけか。二つあるベッドの内、一つに腰を掛けている短く金髪を切り揃えている長身の男。

 もう一人は椅子に座ってこちらを見上げる幼い男……いや、幼く見えるが耳が少し尖っているのが見える。この身体的な特徴は確か、小人ホビットだったか。


「えぇと」

「おっと自己紹介がまだだったか。オレはクレイン。あぁ、タメ口でもいい。オレもこの調子で喋らせてもらうからね」

「ボクはルカ。試験後にクレインと仲良くなってね、遊びに来てたのさ」


 金髪の方がクレインで、ホビットの方がルカ……うん、どちらも背景世界では聞いた事が――と考えたところで頭の中を一度振り払う。これは良くない兆候だろう。

 最早僕はこの世界の住人となってしまった。であるならば、知識だけでなく人にまで現代で見た設定に照らし合わせてしまえば、どこかで致命的に間違う気がする。まるで、ゲームの世界のような錯覚に陥ってしまうだろう。もう一度頭を回して言葉を絞り出す。


「僕はレンだ。よろしく」

「よろしく、我が友よ」

「よろしくね~」


 ルームメイトから友人へとランクアップした。随分とグイグイ来るな。


「そう言えば、ルカはここに来て長いのか?」

「まあね。ここでは古参だよ」


 そりゃすごい。オルフィズが出来たのはウィルカインストが詠唱者の魔道書を作り上げた後だと設定で明かされていた。背景世界の小説時点では確か30年ほど前だった筈だ。さすがに30年もここで研究を続けているという事は無い、と思いたいがそこそこの年数はいるのだろう。

 そう言えば、今の時間軸はどのくらいなんだろうか。小説よりも過去なのか、未来なのか。


「実に惜しい! もしオレと同じ新入生であれば共にエリートの道を歩めたと言うのに」

「クレインの方は、何か目標があるのか?」


 まぁ、考察は後回しでいいか。今はあまり難しい事を考えずに同期との会話を楽しむとするか。


「もちろん。このオルフィズの頂点、ウィルカインスト派のトップに君臨する事さ!」

「ボクも間近で見てたんだけどさ。ウィルカインスト直々にスカウトされてたんだよ」


 試験終了直後にスカウトか。主人公みたいな事してるな。……少し、羨ましい。そう考えてしまうのは、僕が現代の知識でカードを扱えるというアドバンテージを自覚して、気が大きくなっているからかも知れない。

 あるいは、クレインが物語の主人公のように人を惹き付ける星の下に生まれたのか。


「どういう経緯でそうなったんだ?」

「ルカの強さに興味を以って決闘していた時に通りかかったのさ。あれは我が事ながら幸運だったと言えるだろう」

「ボクも推薦したよ。ウィルカインスト本人も興味深そうだったしね」

「先輩たちともある程度話してきたよ。みんな気のいい人たちさ」


 コミュニケーション能力高いなぁ。そしてキャラも濃い。

 しかし、決闘してたらスカウト……ねぇ。ウィルカインストという人物については詠唱者の魔道書の作成者という事しか知らないが、そんな有名人が興味を示す程クレインは強いのか?

 雑談が一区切りついたところで、ふとクレインが僕に尋ねる。

 

「ところで、君も試験の相手はフラバー先生だっただろう?」

「あぁ、そうだったよ」


 クレインとルカが言うには試験官の教師は複数人いて、フラバー先生はその最高責任者だそうだ。


「強かっただろう? オルフィズの中でもトップクラスの実力者だったらしい」


 オルフィズでも上澄みだろうなとは薄々思っていたが、トップクラスときたか。"魔石砕きの巨人"なんてパワーカードも飛び出すくらいだったし。運が良かったから勝てたものの、普通ならボコボコにされてるところだ。

 と言うか勝てなくても入学出来たんだな。あの時はそんな事知らなかったし、入学試験の描写なんて小説でもフレーバーテキストでも出てこなかったからなぁ。

 こういうところがあるから、あまり現代での知識もあてには出来ないんだよな。意識的に自重していかないと。


「ま、オレは勝ったがね。何せエリートだから」

「随分と強いんだな」

「何せエルィーートだからね!」


 めちゃくちゃエリートを強調してくる。エリートという肩書にやたらとこだわるな。傍から見れば面白いやつなんだろうな。僕もそう感じる。

 ただ、何がこいつをそこまで駆り立てるのかが分からない点が少し気になる。

 一人高笑いをしていたが、ふと思い出したかのように切り出してくる。


「そう言えば、寮の談話室でとある話題で持ちきりでね」

「何かの噂話か?」

「そう。何でもフラバー先生相手にトライアルデッキで勝利した化け物がいるとか」


 僕の事だった。いや、試験終わったのさっきなんだけど!? 何でもう噂になってんだ?


「目の前の君の事だけどね、レン・アラミヤ」


 しかもバレてるし。クレインは薄く笑みを浮かべ、ルカの方は純粋な好奇心の色を瞳に浮かべている。

 こいつは一体どうやってトライアルデッキで勝ったのか、二人ともそう言わんばかりの表情だ。


「君がオレの部屋と一緒だったのは幸いだったよ。心置きなく魔法決闘に誘えるからね」

「……今からか?」

「もちろん。談話室に行こうか。みんな、君の実力を見たがっている」


 試験終了してから間もあけずに、僕はルームメイトと本日2回目の魔法決闘を行う事になった。欲を言うならもう少し休みたかったな。

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