幕間 試験後の話し合い

「フラバー先生、どうでした?」

「強いですね。確かにオルフィズに入学しなくても強い魔道師はいるのですが……」


 学徒寮の場所を教えてレンが立ち去った後、フラバーとセレーネが話し合う。


「彼はこちらのデッキのカードの詳細だけでなく、ある程度の展開ルートも把握していましたね。不自然な程に」


 フラバーが魔道書から1枚のカードを取り出す。それは先の試験でも使用した"魔法石 灼熱のルビー"だ。


「このカード、セレーネさんは見覚えがあるでしょう?」

「あるも何も……2ロテッサで魔法カード化したものでは?」

「そうです。そして表に出すのは今日が初めてです。ですが、レンさんはこのカードを警戒していた節があります」


 ダメージエリアに、このカードが落ちた瞬間から。そうフラバーが続けると、セレーネは咄嗟にありえないと叫びそうになり、ふと思い出した。


「第3ターン、レンくんは確かフラバー先生の"魔法石の発見"に、"魔法石の攪乱"で暴君のパワーを下げて対応しましたね。彼の手札に"魔法石の波動"があったのに……」

「つまり、まだ見えていない筈の"魔石砕きの巨人"の能力すら把握して警戒していた……という事になってしまいます」


 ルビー、ラピスラズリ、ジェイド、そして巨人。この4枚はフラバーがロテッサの輝鉱街ハザークロットで手に入れたカード達だ。その能力の試運転に付き合ったセレーネは効果を把握していたが、他に知る者は……それこそ魔法の成果として直接報告したオルフィズの最高責任者であるウィルカインストしか居ない。

 にもかかわらず、入学試験を受けに来たレンが能力の全貌を把握していた。これは一体どういう事なのか。


「もう一つ。残滓のアンバーで彼のカードを復元した時、少し見てしまったのですよ」

「……よほど変な勢力のカードを使っていたんですか?」

「ロテッサのプレデターサイクルですよ」


 フラバーが新しいカードを手に入れた地、ロテッサ。正式名、未踏樹界ロテッサ。

 そこは人知の及ばぬ程深く続く樹海であり、原初の魔法生物達が闊歩する危険地帯。人々は浅い層で魔法生物の襲撃に対処しながら生活を行っている。ハザークロットもその一つ。

 そして、プレデターサイクルはその魔法生物の中でも頭一つ抜けて危険な存在だ。今の人類では太刀打ちが出来ない、一種の災害。

 本来、カードと言うのは人類が手中に収めた魔法である。もし魔法生物をカードにしたければ、その存在に打ち勝たなくてはならない。現に"魔石砕きの巨人"も、フラバーが現地で討伐してカードとしたものだ。


「あの災害を御せるなど、到底思えない。しかし、現にカードとして存在している」


 素性も分からぬ謎多き入学者。不安要素はあるが、実に結構。

 彼がどこの勢力へ所属するかは分からないが、しばらくこのオルフィズは荒れる事になるかもしれない。あぁ、それは実に――。


「「面白い」」


 フラバーとセレーネの声が重なる。楽しみ、実に楽しみだ。

 今のオルフィズは停滞している。毎年行われる勢力ランキングに、半年に一度行われる入学試験。そして定期的に行われる、他国の魔道師と魔法決闘で競い合う学外交流戦。新たな刺激で魔法の新たな発展を目指しているが、中々上手くいかない。

 前回の試験で新たに入学した学徒の中には、勢力ランキングに殴り込みにきた者も存在するが、現状のトップ勢力――「ウィルカインスト派」には及ばない。

 天才ウィルカインストを筆頭とするエリート集団。詠唱者の魔道書を発明した彼が頂にいる限り、数多の魔道師が二番手争いに注力してしまった。オルフィズの停滞の理由の一つだ。


「フラバー先生、次の学外交流戦はいつでしたっけ?」

「二ヶ月後ですね。……彼を推薦するおつもりですか?」

「えぇ、興味が出てきました。本気で決闘を申し込みたい程に」

「……セレーネさん。彼は強いとは言え新入生ですよ」


 好戦的な色を帯びてきたセレーネを鎮めるようにフラバーは言うが、セレーネは止まらない。強い事は分かった。ではその強さの底はどの程度か。

 決められた人数のメンバーしか出場できない学外交流戦へ捻じ込み、挙句の果てには自分で確かめてみようなど、それはレンにとって理不尽な仕打ちであるとフラバーが続けるが、最早彼の言葉はセレーネには届かない。

 溜息をついて、もうセレーネを止めようとは思わなかった。


「セレーネさん。本気であるならもう止めようとは思いません。しかし……」

「何です?」

「どの道、早々に噂になる事でしょう。何せトライアルデッキで入学基準を満たすなど、前代未聞ですからね」


 セレーネが止まらないと感じたフラバーは、逆にセレーネの背中を押す事にした。

 噂が噂を呼び、向上心がある魔道師ならばこぞって決闘を申し込みに行くだろう。荒れる。荒れる。大荒れだ。そしてそれはオルフィズの理念通りでもある。

 魔道師養成機関。停滞している現状では、質のいい魔道師は生まれない。闘争が必要だ。決闘による切磋琢磨が、そして新たな魔法カードの誕生が、この機関の存在意義なのだから。


 ――学外交流戦まで後二ヶ月。

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