0.プロローグ -最初の一歩(中)-
いきなり知っているようで知らない世界へ飛ばされて、あれよあれよと言う間に入学試験を受ける事となってしまった。今、この瞬間がこの世界で僕が生きていけるかの分岐点だ。
相手はテレスライト教室のフラバー先生。フラバー先生本人の情報は不明。所属している勢力のテレスライト教室カードを使うのか。それとも試験用デッキは別の勢力カードで構築されているのか。
だが、そんな相手と僕は数え切れない程に決闘してきたんだ。いつも通りにやればいい。
「基本的に先攻は受験者からになるのですが、どうしますか?」
「後攻でお願いします」
先に準備を整えて相手の行動に対応するのがこのゲームの定石だが、デッキパワーが著しく低いこのデッキでは分が悪い。相手の使うカードを見て戦い方を考えた方が勝率が高いだろう。
「それではセットアップフェイズ。お互いに手札が5枚になるようにドローです」
お互いの魔道書が浮かび上がり、僕とフラバー先生の手に魔道書から供給された5枚のカードが現れる。その後、魔道書に自分と相手の情報が記載される。手札もそうだが、特にデッキ枚数を数字で確認出来るのは便利でいいね。
【自分:手札5・デッキ55 - 相手:手札5・デッキ55】
ゲームの流れはセットアップフェイズ、キャストフェイズ、アタックフェイズの
3つのフェイズを繰り返していく。今のセットアップフェイズはこの時に発生する効果処理と、お互いに手札が5枚になるまでドローを行う動作が入る。
ターンプレイヤーが本格的に行動を行うのは、カードの使用が解禁される次のキャストフェイズからだ。
「まずは手札からレベル0ユニット、"魔法石 抱擁のエジリン"をキャスト」
フラバー先生が魔道書に向かってカードを翳す。翳したカードが姿を消し、先生の目の前に先程唱えたエジリンが、実物となって現れる。
テレスライト教室を象徴するユニットカード、魔法石。その中でも初動展開札として最も有名なカードが"魔法石 抱擁のエジリン"だ。
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Lv.0 魔法石 抱擁のエジリン
ユニット -オルフィズ・テレスライト教室・魔法石
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①[条件]このユニットが自分の場に登場した時
[効果]自分のデッキから[魔法石]ユニットを1枚選び、手札へ加えてもよい。
②[条件]このユニット以外の[魔法石]ユニットが自分の場に登場した時
[効果]自分のデッキから[魔法石]ユニットを1枚選び、手札へ加えてもよい。
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0/0
◎-------------------------------------------------------◎
このカードを起点に魔法石を展開、そして魔法石が自分の場にある時に効力を発揮するトリックカードで少しずつ攻めていく長期戦デッキ。ただ、このまま妨害無しで展開を見るだけなのは少し怖いな。
「エジリンに対応し、トリックカード"魔法石の発見"をキャスト!」
「いいでしょう。対応はありません」
「では、効果処理。手札から[魔法石]ユニットの"魔法石 探求のトパーズ"を破棄し、手札かデッキから[魔法石]ユニットを場に出します。僕は手札から"スージュネルの巨像"を場に出します」
僕の場に結晶で造られた、槍を持つ歩兵を模した巨大な像が出現する。
"魔法石の発見"は手札コストと引き換えに、[魔法石]ユニットであれば何でも場に出せる便利なカードだ。テレスライト教室の初動展開札その2、と言ったところか。
これで一旦妨害の構えは出来た。が、それは向こうもお見通しだろう。ユニットのキャストに対応して[魔法石]ユニットを場に出した時点で、妨害用のトリックを握っていると思っている筈だ。
そして、ここで"魔法石の発見"のもう一つの効果が発動する。
「"魔法石の発見"の魔石化が発動。効力を失い、破棄されるこのカードを裏側で自分の場に出します」
この魔石化はテレスライト教室の固有能力コード。カードが破棄される時、代わりに自分の場に裏側にして置く効果だ。裏側カードは自分の場に存在はするが、カード情報は何もない。ユニットでも、トリックでもない置物だ。しかしこの存在こそ、テレスライト教室のリソースだ。
例えば先程僕が出した"スージュネルの巨像"も裏側のカードを参照するユニットの一つだ。その効果は自分の場にある裏側のカードの枚数だけ戦闘能力を底上げするもの。全体的に火力が控えめなテレスライト教室の中で引導火力にもなり得るカードだ。
「"魔法石の発見"の効果処理が終わりましたので、エジリンを場に出します。そしてエジリンが場に登場した事により、デッキから[魔法石]ユニットを1枚手札へ加えますよ。」
魔道書からデッキ内のカードが全てフラバー先生の目の前に展開される。当然、こちらの目にはただ光っているだけの札にしか見えない。本当に便利だな、魔法って。
「手札に加えるのは"魔法石 探求のトパーズ"。そして、トパーズの効果でそのまま場に出ますよ」
エジリンと同じように実物となったのはトパーズ。着々とテレスライト教室のお手本のような展開を進めていく。
「トパーズの効果。このユニットが場に登場し、トパーズ以外の[魔法石]ユニットが存在している場合、デッキから[テレスライト教室]トリックを1枚手札へ加えます。これで加えるのは"魔法石の共鳴"です」
「更にエジリンのもう一つの効果。他の[魔法石]ユニットが登場した時、デッキから[魔法石]ユニットを1枚手札へ加えます。加えるのは"魔法石 抱擁のエジリン"です。そして、先程手札に加えた"魔法石の共鳴"をキャスト」
"魔法石の共鳴"か。デッキからレベル1以上の[テレスライト教室]ユニットを唱えるカード。そして場にはエジリンとトパーズの2体。出てくるのはおそらく、妨害持ちのレベル2ユニットだろう。念のため、妨害しておくか。
「共鳴に対応し、"魔法石の波動"をキャスト! 相手が唱えたカード1枚を打ち消します」
「波動に対応。こちらも同じく、魔法石の波動"をキャストです」
◎-------------------------------------------------------◎
魔法石の波動
トリック -テレスライト教室・カウンター
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①魔石化(このカードが破棄エリアに移動する時、代わりに裏側で自分の場に出す)
②[条件]自分の場に[魔法石]ユニットが存在している場合
[効果]相手が唱えたトリックカード1枚の効果を打ち消す。
◎-------------------------------------------------------◎
発動条件として自分の場に[魔法石]ユニットを要求する妨害カード。展開を止めたかったが、これ以上の妨害は手札にはない。
「魔石化の効果で波動を裏側で場に置きます」
「同じく。そして"魔法石の共鳴"の効果処理です。自分の場のエジリンとトパーズを触媒として、デッキから"魔石浚いの波濤"をキャスト!」
そして顕れるのは宝石に纏わりつく巨大なイカ。いや、イカではなくクラーケンという種族ではあるのだが。だが、これが触媒を用いて場に出たという事は……。
◎-------------------------------------------------------◎
Lv.2 魔石浚いの波濤
ユニット -オルフィズ・テレスライト教室・クラーケン
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①魔石触媒(このカードを唱える触媒として、場に存在する裏側のカードを用いてもよい)
②[条件]表側のユニットを触媒としてこのカードを唱えた時
[効果]このカードの触媒として用いたユニットを裏側で自分の場に出す。
③[条件]相手がカードを唱えた時
[効果]自分の場の裏側のカード1枚を破棄してもよい。
その後、相手が唱えたカード1枚の効果を打ち消す。
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2500/3
◎-------------------------------------------------------◎
触媒としたユニットを裏側で出される。テレスライト教室のもう一つの固有能力コード、魔石触媒のリソースを確保される。
「波濤の効果。表側ユニットを触媒としたので、エジリンとトパーズを裏側で出します」
波動、共鳴、エジリン、トパーズ。これで裏側のカードが4枚になった。
「更に手札の"魔石喰いの暴君"の効果、魔石触媒を発動させますよ。このユニットを唱える触媒として、裏側になっているトパーズと共鳴を使用します。さぁ、出でよ"魔石喰いの暴君"よ!」
裏側のカードが2枚となり、獰猛なドラゴンが姿を現す。現代でもよく見る布陣だったなぁ。
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Lv.2 魔石喰いの暴君
ユニット -オルフィズ・テレスライト教室・ドラゴン
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①魔石触媒(このカードを唱える触媒として、場に存在する裏側のカードを用いてもよい)
②[条件]自分の場に存在するカードのみで魔石触媒を行い、このカードを唱えた時
[効果]このユニットは不滅(このユニットは破棄されない)を持つ。
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3000/5
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……本当に試験用デッキ、だよな? 受験生のデッキって結構デッキパワーあるんだな。
「先攻はアタック宣言が行えず、ダメージも与えられないのでターン終了です。次のセットアップフェイズへ移行します」
セットアップフェイズが開始され、お互いに手札が5枚になるまでドローを行う。先生の盤面は暴君、波濤、裏側カードが2枚か。
【自分:手札5・デッキ52 - 相手:手札5・デッキ49】
「キャストフェイズ。手札の"リーベスの巨像"の魔石触媒を発動。触媒にするのは先生の場にある裏側のカード」
暴君でも使用した魔石触媒の能力。ただ単に触媒にするだけであれば、相手の裏側カードでも問題ない。暴君は不滅効果を付けるために自分のカードを喰わせたが、このカードは暴君のような効果は持っていない。
「では、それに対応して"魔石浚いの波濤"の効果。触媒になりそうな裏側カードを破棄し、"リーベスの巨像"を打ち消します」
さすがに対応してくるか。まぁ、分かりやすいマストカウンターだ。何故ならこのカード、相当やっているからな。
◎-------------------------------------------------------◎
Lv.1 リーベスの巨像
ユニット -オルフィズ・テレスライト教室・魔法石
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①魔石触媒(このカードを唱える触媒として、場に存在する裏側のカードを用いてもよい)
②魔石化(このカードが破棄エリアに移動する時、代わりに裏側で自分の場に出す)
③[条件]このユニットが自分の場に登場した時
[効果]自分はデッキから[テレスライト教室]カードを2枚選び、手札に加えても良い。
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2100/1
◎-------------------------------------------------------◎
場に出れば[テレスライト教室]カードを2枚サーチ。ユニットでもトリックでも問題ない。そんなカードをみすみす通すわけもない。これで見えている妨害を使わせた。本命は次のカードだ。
「"リーベスの巨像"を魔石化して、次にトリックカード"名画のオークション"をキャスト」
「……? うん?」
フラバー先生が怪訝そうな顔でこちらを見る。それはそうだろう。あちらはデッキの過半数がテレスライト教室のカードで組まれていると想定している筈だ。その上で、このカードを採用する理由に見当が付かないのだろう。
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名画のオークション
トリック -絢爛美術展
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①[条件]自分の手札を全て破棄する
[効果]自分のデッキから、レベルの合計が破棄した手札の枚数と等しくなるようにレベル1以上の[絵画]ユニットを選び、自分の場に出す。
◎-------------------------------------------------------◎
テレスライト教室のカードに[絵画]ユニットは存在しない。なら何を呼び出すのか。決まっている。[テレスライト教室]であり、[魔法石]でもあり、[絵画]でもあるユニットだ。
僕の残りの手札は3枚。その全てを破棄し、デッキからレベル1以上の[絵画]ユニットをレベルの合計が3になるように場に出せる。
「破棄する手札は"リーベスの巨像"、"魔法石の発見"、"魔法石の共鳴"!」
「全て魔石化を持つカードですね」
前のターンに使った"魔法石の発見"と"魔法石の波動"、先程打ち消されて魔石化した"リーベスの巨像"と合わせて、自分の場にある裏側のカードは6枚。フラバー先生はこの時点である程度察しただろう。僕の場にいる"スージュネルの巨像"の火力を底上げする目的の空撃ち、と言ったあたりだろうか。
その程度では、もちろん終わらない!
「破棄した手札は3枚! よって、デッキからレベル合計が3になるように[絵画]ユニットを場に出します」
「……デッキに、[絵画]ユニットを入れているのですか?」
「もちろん。それがこのカード達です! 僕はデッキからレベル1ユニット"魔法オーロラの妖精"を3体場に出します」
瞬間、フラバー先生の顔が歪んだ。そうきたか、と言わんばかりの表情だ。このカード、厳密に言えば[絵画]ユニットではない。それどころか[魔法石]や[テレスライト教室]ユニットでもない。
同時に[絵画]ユニットでもあり、[魔法石]ユニットでもあり、[テレスライト教室]ユニットでもある。
「[ファントムヴェール]ユニット!? 確かにそれならば……いやしかし、そのような不安定なカードをよくデッキに組み込みましたね?」
「これと、後1種類デッキに組み込んでます。こうでもしないと勝ちを狙いにいけないと思いましたので」
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Lv.1 魔法オーロラの妖精
ユニット -オルフィズ・ファントムヴェール・幻影
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①夢幻(このカードは全てのユニット特徴を持つ。このユニットはカード効果の対象になった時、破棄される)
②鏡映(このユニットは場に存在する他のユニット1体のコピーとして登場する)
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0/0
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秘密結社ファントムヴェール。背景世界におけるその実態は、不定形型魔法生物の保護組織だ。その特徴を良く表しているのがこの妖精。
ファントムヴェールの固有能力コードである夢幻と鏡映を同時に持つカード。その効果から分かる通り、ファントムヴェールは不定形故に何にでも化ける事が出来る。特に重宝するのが夢幻の効果。全てのユニット特徴を持つという事は、あらゆるサーチカードに対応していると同義。カード効果の対象となった時点で破棄されるというデメリットは存在するが、対象に取られるという判定は公開情報エリアでしか発生しない。
それに加え、公開情報エリアである破棄エリアにあるこのカードを対象に蘇生カードを使用しても問題が無い。何故なら「破棄する」という行動は、破棄エリア以外のエリアから破棄エリアに移動する事を意味している。つまり、破棄エリアの妖精を対象に取った時点ではまだ破棄エリアに存在している為、夢幻による破棄は無効。蘇生カードの効果はその後に発生する。
つまりこのデメリット、実質場でしか効力を発揮しないのだ。だからサーチカードで手札へ加える対象となっても、判定が発生しないから破棄されない。
そしてこの妖精に限っては夢幻のデメリットすらも踏み倒せる。鏡映の効果で他のユニットのコピーとして場に出るので、夢幻の能力持ちをコピーしなければメリットだけを享受出来るかなりおいしいユニットだ。
現代においても愛用していた、僕のお気に入りの1枚。
「3体の"魔法オーロラの妖精"の鏡映効果により、全て"スージュネルの巨像"のコピーとして場に出ます」
「うん、素晴らしい戦術です。とは言え、これは少しまずいかも知れませんねぇ」
前のターンに出していた"スージュネルの巨像"の姿を妖精が真似て、一気に変化する。結晶の巨像が4体、そして裏側のカードが5枚。
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Lv.1 スージュネルの巨像
ユニット -オルフィズ・テレスライト教室・魔法石
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①魔石触媒(このカードを唱える触媒として、場に存在する裏側のカードを用いてもよい)
②魔石化(このカードが破棄エリアに移動する時、代わりに裏側で自分の場に出す)
③[効果]このユニットのパワーは自分の場に存在する裏側のカードの数×500として扱う。
④[効果]このユニットの与ダメージは自分の場に存在する裏側のカードの数として扱う。
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0/0
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パワー3000の与ダメージ6。これで一気に先生へ大ダメージといこうか。
「キャストフェイズを終了し、アタック宣言! 1体目の妖精が化けた巨象で、"魔石浚いの波濤"を攻撃!」
「波濤のパワーは2500……。バトルに敗北し、与ダメージから1を引いた5点のダメージを受けます」
巨像の槍が"魔石浚いの波濤"へ突き刺さり、霧散する。そしてダメージ処理として先生のデッキの一番上からカードが5枚、ダメージエリアに送られる。
【相手:デッキ49(-5)→44】
ダメージエリアに送られたカードは、ゲームから除外されたものとして扱う。そして、先にデッキ枚数が0になったプレイヤーが敗北するというルールだ。
序盤で大ダメージを受けてエースカードがダメージとして落ちる、なんて光景は日常茶飯事だ。だが、それを嫌って豊富なサーチやドローソースを使い過ぎると、今度はデッキ枚数が少なくなり、守りが薄くなる。コンボでデッキを回し過ぎて不意のダメージで敗北……他のTCGから移ってきたプレイヤーであれば一度は経験する事だ。
現代でのあるあるを振り返りながらダメージエリアに落ちているカードを見ると、ふと目に映ったカードがあった。うん? "魔法石 生命のジェイド"……。
「……2体目の妖精が化けた巨像で、"魔石喰いの暴君"を攻撃!」
「暴君のパワーは3000なので相討ちですね。ダメージは発生せず、こちらは不滅を持っているので破棄されません」
「妖精が化けた巨像に魔石化の能力があるので、自分の場に裏側で置きます」
これで自分の場に裏側のカードが7枚になった。残り二体の巨像のパワーが3500、与ダメージも7に上昇。これで暴君のパワーを上回った!
「3体目の妖精が化けた巨像で、暴君を攻撃!」
「バトルで負けてダメージも発生しますが、暴君は破棄されませんよ」
ユニットとのバトル結果によるダメージなので、与ダメージから1を引いて6点のダメージだ。
【相手:デッキ44(-6)→38】
ダメージエリアに落ちるカードを見る。"魔法石 灼熱のルビー"、"魔法石 荘厳のラピスラズリ"も見える。
おい、本当にそれ試験用デッキか!? それらのカード、現代で去年発売したパックに収録されていたテレスライト教室の強化パーツじゃねえか!
まずい。これ、いや……勝てるか? 僕のデッキ枚数は……妖精3体をデッキから出したから49枚。次のセットアップフェイズで手札が5枚になるようにドローするから44枚。普段なら致死圏内からは外れている枚数だ。
だが、この状況は……"スージュネルの巨像"をメインのダメージソースとして選択した今の状況だと、次の先生のターンで負ける可能性がかなり高い。
こうなれば出来る事は一つだけ!
「本物の"スージュネルの巨像"で、暴君を攻撃!」
ルビー、ラピスラズリ、ジェイドの3枚が全てダメージエリアに落ちる事をただ祈る事だ。現時点でルビーが2、ラピスラズリは1、ジェイドが2。
頼む! 全落ちは無理でも、せめて機能不全を起こす枚数落ちてくれ!
【相手:デッキ38(-6)→32】
落ちたカードを確認すると、ルビーは落ちていない。ラピスラズリは1枚落ちた。ジェイドは……2枚落ち! 良し! 良し! 良おおぉぉし! これはまだワンチャン命を繋いだぞ。……まぁ、依然として負ける可能性の方が高いんだけど。
「僕はこれでアタックフェイズを終了し、セットアップフェイズへ移行させます」
このまま成す術なく負けるかどうかは、このドローするカード次第……かな。
◆
大講堂で行われている魔法決闘を見て、セレーネは小さく呟く。
「すごいわね……。試験用デッキとは言え、フラバー先生の実力はオルフィズの中でもトップクラスなのに」
傍から見れば互角の勝負だ。ましてやレンの操るデッキはトライアルデッキを少し弄った程度のもの。並の魔道師であれば手も足も出ないというのに。
「フラバー先生の試験デッキは主に
当然ながら、純粋なデッキパワーではどう足掻いてもレンの方が分が悪い。
だが、それでもこれほどの勝負を繰り広げている。もしこれがレンの本当のデッキであれば、本気のフラバーでも勝てないのでは。そう思わせる程の実力に、セレーネは笑みをこぼす。
「……楽しそうね、彼。優勢とは言え、苦しい状況には変わりないでしょうに」
厳しい局面で歯を食いしばり、それでも尚口角が吊り上がっている様はまさに狂気だろう。負けるかも知れない。けれど、勝ち筋はある。このギリギリ具合が堪らなく楽しい。……そんな、決闘狂いとも言うべき雰囲気を、何故受験生が出せるのか。何が彼を、レンをそうさせているのか。セレーネには何も分からなかった。
面白い。だからこそセレーヌはこの決闘を見続けている。
決着まで、あと少し。
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