第二十八話 魔術オタクはやらかしてしまう
「はあ~~、凄いなんて言葉じゃ言い表せませんね、エステル様は。第七階梯なんて、信じられませんよ本当に」
「そんなものかな?身内なぶん、凄いことだっていう実感がないんだよね。そもそも昇格したこと自体を僕は教えて貰ってなくて、さっきの学院長の発表を聞いて初めて知ったくらいだし」
感に堪えない様子で言うロシェに対して、俺は微妙な表情でそう言い返す。
「で、でも本当に凄いことだよ。他の人は第四階梯が最高なんだから」
「近隣諸国にも第六階梯は不在と聞きますし、第七階梯はもしかすると世界で初めてかも知れませんわね。本当に憧れますわ」
「……」
イサクも、そして何故かこの場に混じっているエリシェ嬢も、さっきから随分興奮した様子で俺に話しかけてくる。普段通りなのは、俺の腕にしがみついてエリシェ嬢を警戒しているルリアだけだ。
つい先程の話だが、タルムーグ魔法学院の講堂に全学生が集められ、学院長による重大発表が行われた。内容は、俺の婆ちゃんであるエステル・アドニ・アルカライが第七階梯の魔法使いになったというもの。
俺は正直、そんなことを
直後、俺とルリアはクラスメート達から次々に、祝辞と称賛を雨あられと浴びせられた。やがてそれにラグ寮長のような上級生も混じり、皆で祖母と我が家を褒め称える始末だ。俺には(多分ルリアも)全然ピンとこなかったが、周囲が盛り上がっているのに水を差すわけにはいかない。彼等には差し当たり笑顔で「ありがとうございます」と答えておいたが、俺的には「なんだかな」という感じだった。
だって、偉いのは婆ちゃんであって俺やルリアではないのだ。当人に対してならともかく、俺に「おめでとう」だの「歴史に残る快挙」だの言われても、正直「そうですか」と答えてしまいそうなほど場違い感がある。
一応、婆ちゃんの第七到達はアルカライ家そのものの声望を高めるものであり、その意味で家の一員である俺やルリアも称賛されている、というのは理解できている。だが実感が伴わないのは、個人主義が発達していた前世の感覚を引きずっているからだろう。
そうやって声を掛けられてはお礼を言うことを繰り返し、ようやく周囲から人がはけてきたので、俺達も講堂を後にすることにした。それで現在、寮に戻る道の途中で立ち止まって身内のお喋りに興じているというわけである。
「そう言えば学院長を初めて見たけど、入学式で赤いローブを着て、式を取り仕切っていた人だったね。あの、髭がすごく長いおじいさん。今日は黒いローブだったけど」
「め、滅多に学生の前に出てこないらしいよ。上級生の人が『久しぶりに見た』って言ってたもの」
「そんな人が重大発表といって知らせるんだから、やっぱりお祖母様の第七階梯到達って大した事なんだろうね」
「サキは感覚が麻痺してるんですよ。周りに凄い人ばかり居る弊害ですね」
「そうは言ってもなあ……ん、あれは?」
話の途中で俺は、こちらに向かって歩み寄ってくる一団に気付いた。凸凹コンビの取り巻きを従えた青ローブ姿、言わずと知れたユリ侯子ご一行である。彼は俺達の前までやって来ると、オールバックにした髪に手をやって気取ったポーズを取りながら語った。
「第七階梯とは実に大したものだ。流石は”魔女(ザ・ウィッチ)”といったところか。だが、いつまでもアルカライに話題を独占させるわけにはいかん。いずれ私も、国中が驚愕するような成果をものにしてみせようではないか。貴殿らも楽しみにしておくと良い」
そして言うだけ言ってこちらの返答も待たず、ユリ侯子はローブを翻して去っていった。残された俺達に漂う、この白けた空気よ。もはや脳内でツッコミを入れることすら億劫になってしまった。
「……彼のあの自信は、一体どこから来るんだろうね」
「入試の際の成績から考えても、サキやルリアには遠く及ばないと思いますが」
「高位貴族の子女として生まれつくと、周囲に甘やかされ根拠のない万能感に囚われてしまうことがあるのですわ。彼はまだ、自分と向き合ったことがないのでしょうね」
どこか遠い目をしながら、そんなことを呟くエリシェ嬢。そ、それはもしや、前世では十四歳くらいで罹患する者多数の、あの病気のことなのか!?そしてその口振り、もしや彼女も患ったことがあるのだろうか?
「……他人事と思ってはいけませんね。私も思い上がることのないよう、もって戒めとしたいと思います」
「それがよろしいですわ。ではサキさん、私達はここで失礼いたします。さ、ルリアちゃん。一緒に帰りましょうね?」
そう言ってエリシェ嬢は喜色を隠しもせず、俺の腕にしがみつくルリアを引き剥がした。手を引かれながら紅竜館の方へ連行されるルリア。こちらを見るその瞳はまるで荷台に乗せられた子牛のようで、俺の頭の中で何故か物悲しいメロディが流れるのだった。
女子寮に入れない俺達はそれに手を振りながら、連れ去られるルリアを生暖かい目で見送った。
次の日から、学院での授業が本格的に始まった。魔法の実習が大きなウエイトを占めるのは勿論だが、意外だったのは普通の勉強にもかなりのコマ数が割り当てられていることだった。大体半分くらいだろうか。そう言えば昔、母さんから「知識を伝えるのも魔法使いの大事な役目」と聞いたことがあった気がする。
通常の授業の科目は、塾でも学んでいた歴史や地理など。これらをより深く教わることになる。そして今まで教わったことのない全く新しい学問が、生物学だ。これは人類以外の人間種(アザド教授に昔聞いたオークなど)や魔獣といった、人類の脅威となる生き物についてその生態を学ぶもの。
この世界には、前世とは比べ物にならない程危険な生き物が多数生息している。王都周辺ではまず見かけることはないが、辺境と呼ばれる地域へ行くと現実的な脅威となって立ち現れるらしい。魔法使いはこれらに対抗することも求められるので、こういった知識も必要になってくるのだそうな。ホントに荒事向けの職業だな魔法使い。
ちなみに人類以外の
そして魔獣。ドラゴンに代表される、前世では幻獣とか怪物などと呼ばれていたような生き物もこの世界には存在している。有名なのはキマイラとかマンティコアとかで、こいつらは基本山奥とか大森林とかに生息しているので、人類とかち合うことは滅多にない。しかし
なお、滅多に遭遇しないと言ったが海は別だ。王国南方に広がる海には凶悪な海棲魔獣が多数生息しており、事実上遠洋航海は不可能と言われている。鯨すら上回る巨体を誇るシーサーペントやクラーケンに襲われると、大型帆船でもあっさりと沈没してしまうのだそうな。相手が海の中じゃ魔法使いも騎士も役に立たないんで、沖に出るのは自殺行為と見做されている。
しっかし、危険が多すぎないかこの世界。そりゃ魔法使いの呪文が戦闘向けが多くなるのも当然だわ。
そしてもう一つ、ここに来てはっきり気づいたことがある。今生と前世の共通点、つまりはオークやキマイラ、果ては女神イシスといった名詞が共通している点だ。これについては、何となく推測していたことが確信に近くなったと言っていい。
要は、『俺』はそれ程特別な存在じゃないということだ。
ごく僅かかも知れないが、俺の先人がいた事でこちらの幻想種の名前なんかが前世の世界に持ち込まれた可能性は高いと思う。そういう魔獣などはこちらでは実在しているので、この世界の記憶持ちが向こうで「こんな生き物がいる」みたいな感じで広め、それが各種神話や伝承に影響を与えて同じ名称が使われるようになったのではないか。
儀式魔術が前世のそれとほとんど変わらなかったのも、これで説明できる。こっちの魔術師が向こうで広めたか、あるいは前世の魔術師がこちらに持ち込んだか。どっちが卵でどっちが鶏かは分からんが、そういうことがあったに違いない。時間軸からするとこちらから前世の世界へ持ち込まれた可能性が高いと思うが、こちらと向こうで同じ時間が流れているとは限らんので何とも言えん。
いずれにしても、こういう事を考えるだけでも結構楽しい。そんなわけで生物学の授業は、俺のお気に入りの授業の一つになったのである。
さて普通の勉強も楽しいが、学院での授業のメインはあくまで魔法の実習だ。学院内には学年ごとに分かれた大演習室が一つずつ、そして小さめの魔法実験室がいくつか存在している。大演習室は前世で言うと小さめの体育館くらいの大きさがあり、その中で学生達は散開して思い思いの魔法を練習するのだ。学院もこの授業には当然力を入れていて、二人から三人の教授が練習を監督している。
魔法実験室は、入試のときに俺達が試験官の前で呪文を詠唱した部屋だ。周囲に与える影響が大きい呪文を練習する際や、周囲に秘密で呪文を試してみたい時に利用される。教授に申請しないと使用できない施設だが、利用率はそれほど高くないそうだ。教授達が個人的に魔法を試す時も、この実験室を使っているらしい。
そしてその呪文だが、ウチの塾では父さん母さんから直接教えて貰っていた。しかし学院では、低い階梯の呪文については習得方法が教本としてまとめられており、学生は自由にそれを閲覧することが出来る。内容は呪文の名称、
今俺達が学んでいる第一階梯の呪文は、全部で十二種類。これをすべて習得できれば、晴れて第二階梯へと昇格できるということになる。実際には、学院に在学している内に第二階梯に登れる学生は滅多におらず、現在それに一番近いのは三年生のラグ寮長で、十個習得だとか。
そうして俺達一年生が何度か魔法実習の授業を受けた頃、学院は異様な雰囲気に包まれることになった。
「いやしかし、この<
俺の言葉に、魔法の授業を担当しているレハバム・ハザ教授が嬉しそうに返答する。
「お、<伝言>の有用性に気付くなんて、サキ君は大したものだね。魔法を学んで日が浅い学生は、強力な攻撃呪文にばかり注目するものなんだけどね」
ハザ教授は三十代半ば、赤毛でもじゃもじゃ髪の痩せぎすな男性だ。第三階梯の魔法使いで、俺とは結構話が合うせいかよく魔法の練習を見て貰っている。今も最近習得した<伝言>の呪文について、意見を交わし合っていたところだ。
「単語数三十程度の短い呟きでも、遠く離れた相手に瞬時に届けられるというのはとんでもないことですよ。何故みんなこの呪文をもっと活用しないのか……」
「送り手も受け手も、<伝言>を習得した魔法使いでないといけないというのが難点だねえ。今のところ、この呪文を最も上手く使っているのは君のお父上じゃないかなあ」
ハザ教授のご指摘の通りである。前世では通信の発達こそがあらゆる文化のスピードを加速したのだが、この世界にはチート級に便利な呪文である<伝言>があるというのに、中世並みの文化レベルに留まっている。その大きな理由の一つが、「魔法使い同士でないと機能しない」という点だ。
この世界の魔法使いは身分が高く、その戦闘能力によって一般の人からは畏れられている。つまり、とっても気位が高いのだ。その彼等が、通信員やメッセンジャーのような仕事をやりたがるだろうか?否。断じて否である。絶対「俺にはもっと相応しい仕事がある」とか言い出して、そのオファーを蹴るに違いない。少なくとも我が国では、王族や貴族がお抱えの魔法使いを使って通信ネットワークを作ろうなどという目論見は、これまでほとんど成功していなかった。
この事態を打ち破ったのが、我がアルカライ家である。婆ちゃんと父さんはそれまで魔法使いたちがそのプライドによってやりたがらなかった様々な仕事を、重要な任務であると派閥の構成員たちに理解させ、従事させることが出来た。すべては先代当主と現当主の、抜きん出た実力と圧倒的なカリスマのなせる業である。
婆ちゃんは魔法使いたちに一般の兵士と同様に集団行動をさせ、「魔法使いの兵団」を作り出した。そして父さんは魔法使いを諜報活動に従事させ、「魔法使いの情報網」を作り上げた。前者は軍事に革命をもたらし、後者は謀略に革命をもたらしたと言っていい。そしてその軍事行動と諜報活動で大活躍しているのが、この<伝言>の呪文なのである。
「実際、この呪文は王国の端から端まで遅滞なく届くからね。徒歩や騎乗で何ヶ月もかかる距離でも一瞬だよ。これ以上の距離は実験できていないので真偽は不明だけど、事実上<伝言>の到達距離に限界は無い、というのが現在の定説かなあ。やろうと思えば、王国中の情報を集めることも出来そうだよね」
もじゃもじゃの頭を手で掻きながら、実に楽しそうに呪文の詳細について語るハザ教授。こういうところも、俺と話が合う点だ。彼はかなりのオタク的気質の持ち主で、様々な呪文の細かい仕様や上限下限といった特性を調べ上げることに喜びを感じている。細部を知らずして呪文を使いこなしていると言えるのか、というその姿勢は、魔法と魔術の違いはあれど同じくオタクである俺と非常に似通っているのだ。
「教授。サキとばかり喋っていないで、僕達の練習も見て下さい」
「ああ、ごめんごめん。君達はみな優秀だからね、僕が見ていなくても大丈夫かな、なんて」
「それなら一番優秀なサキは、放っておいてもいいんじゃないですか?僕やイサクさん、エリシェさんは早く三つ目の呪文を覚えたいんです」
「分かった、分かったからそう怒らないで。じゃあ、早速ロシェくんから唱えてみて」
俺とハザ教授の雑談にイラッときたのか、ロシェが横から口を挟んで教授を連れ去っていく。残された俺は仕方なく、隣りにいるルリアとともに彼等が魔法を練習するのを何となしに眺めていた。俺達の視線の先ではロシェ・イサク・エリシェ嬢の三人が現在取り組んでいる呪文を唱え、それを見てハザ教授が頭を掻きながら色々とアドバイスを行っている。
エリシェ嬢はいつの間にか俺達にすっかり馴染み、現在では魔法実習の授業の際はこの五人で固まって行動するようになっている。ルリアに構い過ぎたり、隙あらば俺にも構おうとしてくるのが問題と言えば問題だが、そんなエリシェ嬢も授業は真面目に受ける。いつしか彼女とロシェ、イサクの三人は、揃って教授に詠唱を見てもらうようになっていた。
俺とルリアは仲間外れだ。何故なら、つい先日八つ目の呪文を習得したから。入学前に四つ、入学してから一週間で四つの、計八つである。内訳は、<
うん。酷い騒ぎになった。何せ教授会が招集されて、学院長まで報告が行ったからな。教授達が入れ代わり立ち代わりやって来て聞き取り調査をするんだが、俺とルリアが新しく覚えた全ての呪文を初回で発動に成功したと知って、全員黙ってしまう始末だ。
最終的にアザド主任教授から呼び出され、「二人ともしばらくは新しい呪文に手を出さず、今覚えている呪文の練習に専念してくれんか?」とお願いされる羽目になった。どうやら俺達のせいで、自信を喪失する上級生や教授が続出しているらしい。
俺的には、だったら呪文の教本を自由に読ませるなんてことをするなよと言いたくなったのだが、必要以上に波風を立てるのは本意でないので黙って受け入れた。しかし呪文の練習と言っても、その膨大な魔力で延々呪文を唱え続けられるルリアならともかく、俺は魔力が少ないので数回唱えたら休まないといけない。それで暇を持て余し、ハザ教授とお喋りに興じていたというわけ。
雑談の相手もいなくなったことだし、本格的にやる事がなくなってしまった。俺はルリアとともに、大演習室のあちこちに散って呪文の練習をしている同級生たちを眺めてみる。
学生が呪文を練習する方法は、ウチの塾でのやり方と大差ない。覚えたい呪文を唱えるところを教授に見てもらい、何がいけないのか意見をもらう。あるいは、その呪文を教授が唱えるところを見せてもらう。そして今の俺達のように、他の学生が呪文を唱えるのを観察するといったものだ。何か理論立てて、呪文を習得するためのメソッドのようなものがあるわけじゃない。
俺やルリアも最初の内は、同級生たちから呪文を覚えるためのコツのようなものを聞かれまくったもんだ。残念ながら、俺に言えることは「教授の教える通りに唱えたら、出来た」ということだけだった。ルリアに至っては、同級生たちの質問の意図が理解できない様子だ。クラスメートの皆には悪いが、俺達には「何故呪文を覚えられないのか」が分からないのだ。お役に立てず申し訳ない限りである。
教授達に尋ねても、「練習あるのみだよ」という答えが返ってくるばかり。多分この辺に、学院の授業の問題点がある気がするのだが……。
そんな事を考えながら、俺は適当に近くで練習している同級生に目を向ける。あれは……ユリ侯子とその取り巻きか。侯子が演習室の壁際に並べてある標的へ向かって、<魔法の矢>の呪文を唱えるようだ。
「……<魔法の矢>!」
ユリ侯子が呪文名を唱えると、伸ばした指先から白い光条が飛び出して標的を撃つ。取り巻きの凸凹コンビが「お見事!」「流石です!」などと侯子を持ち上げ、彼も満更でも無さそうに髪をかき上げて気取ってみたりしていたが、俺は内心で「ダメダメだな」と思っていた。
まず、空中に描かれる<印>を形成する光の線が弱々しい。そして呪文動作に入ってから、発動までに時間がかかり過ぎている。結果、ユリ侯子の<魔法の矢>は初心者にありがちな「やっとこさで唱えている呪文」の典型となっているのだ。多分ルリアなら、彼が一発唱える間に二発目を発動しているぞ。
しかし、ユリ侯子の呪文に見るべきところが皆無かと言えば、そうじゃない。彼が空中に<印>を描く動作は、それはそれは流麗で見事なものなのだ。多分一年生のどの学生より、その所作は堂に入っていると思われる。ヤツがこういう見栄えに関する部分だけ得意である、という事なのかも知れないが……。そこまで考えて、俺の脳裏に一つの閃きが舞い降りた。
<印>を描く動作と、描かれた<印>の出来は無関係。なら、指で<印>をなぞるという行為は無意味じゃねえか?
俺はこの思いつきを検証すべく、手をかざして周囲から魔力を集め始めた。さっきまでの呪文の練習で俺の魔力はほぼカラだが、今集めた分だけでも<明かり>の呪文くらいは唱えられるだろう。そうして<印>を描く動作を省いて、イメージだけで目前にオレンジ色の三角形を幻視して<明かり>と唱える。
そうしたら至極あっさりと、何の問題もなく<明かり>の光球が手の中に生み出された。普段唱える動作付きの呪文と、全く変わらない。いや、指で<印>を描く動作を省略した分、発動は速くなっていると思われる。
動作無しの<明かり>で生み出した光球をふよふよ動かして眺めていたら、ルリアが俺の手元を覗き込んで「サキ、今何したの?」と聞いてきた。ああそうだ、ルリアも多分同じことが出来るんじゃないだろうか。俺はルリアに動作抜きの呪文発動について説明した。
「指で<印>を描かずに、出来上がった<印>の形だけ強く思い浮かべて呪文を唱えるんだよ」
「……やってみる」
ルリアは両手をだらんと下ろすと、そのまま宙の一点を見つめて「<明かり>」と唱えた。すると俺の時と同様、ぽこんと光の玉が生まれて辺りを照らす。ルリアは面白かったのか、そのままの姿勢で「<明かり>。<明かり>。<明かり>……」と連続して唱え、周囲にぽこぽこと光球を生み出した。
「さっすがルリア。上手上手」
俺が褒めると、ルリアはいつものように無表情ながらも胸を張って、「むふー」と得意げに息を漏らす。俺はパチパチと手を叩きながら、ふと視線を感じて振り返った。
ロシェ、イサク、エリシェ嬢、そしてハザ教授の四人が、完全に表情が抜け落ちた顔つきで俺達を見ている。
四人揃った虚ろな視線に射抜かれて、俺の心に昔何処かで聞いたフレーズが去来する。これはもしかして、あれ、かな?あれ、だな?
俺、また何かやっちゃいました?
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