第2話 思い出のベンチ

 非情に曖昧な記憶で申し訳ないのだが、ある自治体で興味深い取り組みがなされたことがある……らしい。


 たぶん、自治体だったと思う。

 間違えてたら、コメントで指摘してください。

 ………以下、うろ覚えの記憶で記述します。


 その町では、ある年齢に達すると高齢者にベンチを設置する権利が贈られるという。

 設置場所は、基本的にどこでも良い。

 自分が好きだった景色を眺められる場所、そういった意味合いの場所で良いという。ベンチの裏には、小さくその寄贈者の名前が刻まれる……らしい。


 自分の好きな景色を、自分のベンチで座って眺めることができる。

 そして……高齢者であるから、寂しいことではあるが、やがて……輪廻に還る時が来る。

 だが、その人が愛した景色の見える場所には、そこに置かれたベンチとともに……縁もゆかりもない誰かへのメッセージとなって、記憶が残るのである。


 この景色を、愛した人がいる────。


 そんな景色を、今度は別な誰かがベンチに座って眺めることができるという……なんともいきな仕組みだと思う。


 まぁ、重箱の隅をつつけばいろいろと問題点も出てくることだろう。

 話を聞いたのが、もう十五年以上前の話なので……今も、その制度が生き残っているかどうかも定かではない。そもそも、作り話だったのかもしれない。

 形あるものを残す、という行為そのものに疑問を持つ人もいるかも知れない。


 だが、ベンチなら誰でも利用できるだろう。

 問題があったら、撤去も容易だ。


 なにより、それを容認できる風土がそこに有るというだけで、その町を訪れてみたくもなるだろう。


 惜しむらくは……それがどこの町の事だったのか、とんと思い出せないということだ。

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