第3話 終幕

 遺跡ダンジョンの管理は誰にもされていない。というよりは、できない。

 危険だというのは当たり前の話だが、この遺跡ダンジョンは『吠える』らしい。


 その音を聞くと、聞いたものは命を落とす。最初に聞いた時は本当かと怪しんだが、実際に死者が出ているから仕方ない。

 そして遺跡ダンジョン自体、形がない。というのも、光のように輝いた大きな魔法陣に触れると遺跡ダンジョン内部に飛ばされる、という仕組みらしく、遺跡ダンジョン自体の姿かたちが明確にされていない。


 噂じゃ古代には何か地上で災厄が起きたから、そのための避難場所だったんじゃないか、実は古代人のへそくりなんじゃないか、なんて言われているが、真偽は不明だ。


 遺跡ダンジョンの中じゃ、人とは会うことはない。どこに飛ばされたかも分からない上に、誰かに助けを求めることもできない。

 ただ、誰かと一緒に入ること。そして先に入った者と同じ場所へ行くことはできる。

 ……その人間の、血液を持っていれば。




「……よしっ」


 倒した魔物が塵になって消えていく。遺跡ダンジョンの中で死んだものは還っていくのではないかと言われているが、これもまた真偽は不明。結局のところ、どれだけ研究しても遺跡ダンジョンは謎だらけだった。


 そんな謎だらけで危険な場所ではあるが、一人になりたい時はありがたい。常に綱渡ではあるが、それでもここなら邪魔は入らない。


「そろそろアッシュも帰ったかな……」


 ここに来てからはしばらく時間が経っているはずだ。アッシュも俺に愛想を尽かしたことだろう。

 幼馴染への義理からくる恋愛感情、もしくは男を知らないだけか。


 人付き合いは得意な方じゃない幼馴染だが、国から誘いが来たとなれば周りは放っておかない。

 田舎村から出てきた一般人の俺と、才ある美女じゃ釣り合いも取れない。


「俺も帰るか……眠てぇな」


 さっきからひどく眠い。いろんなことが立て込んでたから無理もないか。人騒がせな幼馴染だったが、言いすぎたかと今更に後悔が襲ってくる。

 あれぐらい言ってやるのが、本当の優しさかもしれない。アッシュも分かってくれる、きっとそうだ……。


「……ッ!?」


 何かの気配がした。おかしい、俺は誰かと入ったりもしていないし、誰かに"血"を渡してもいない。

 ……いや、渡していた。でもわざわざ、俺なんかのために来るか?

 ─────国が、俺のために動くのか?


「コプッ」


 思考の末に、俺は口から血を吐いていた。冒険者じゃない人間が見れば、悲鳴を上げるような量の血だった。

 俺の胸を貫く何か。まるでナイフのような鋭さをしていたそれは、間違いなく俺の心臓を狙っていた。


 ぼやけた視界に映る、赤黒くて脈を打つモノが転がっていた。見たこともないのに、間違いなく俺の心臓だと理解してしまった。


 そうして俺の人生は、あっけなく幕を閉じた。

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