第2話 新学期始まる?

帰りの電車に揺られながら今日のことを振り返る


スマホのホーム画面を見ると時刻は19時半だった。カラオケでオールでもしようと思っていた人間が帰るには相当早すぎる時間帯だ。だがあの空間にいて楽しめないことは分かり切っていた


20未満の飲酒禁止、その法律が完璧に効力を発揮してないのはSNSを見ていれば分かる。成人を超えた19歳が夜に集まって食事と会話を楽しむ場所なんて飲み屋しかないことも。だが、なんの躊躇いもなくお酒を飲む彼らの姿に距離を感じてしまった。


俺だけが真っ当に法律を遵守していて悪いのは彼らのはずなのに、あの中にいると、自分だけがお酒を飲まないことによって「大人」という肩書から逃げ、いつまでも高校時代の名残を引きずっているように思わされる


放課後にサイゼのドリンクバー片手に日が暮れるまで勉強会をしたり、ただ取り留めもないようなことを駄弁っていた時間はとっくのとうに過ぎ去ってしまったのだ…


最寄り駅に到着して出口に向かい、春休みの間ほとんど使われることのなかった定期券を改札にタッチする。春休みは外に出なさいと、親の好意によってチャージされていた5000円はまだ220円しか使われていない


今を全力で楽しんでいる前田、花城そして篠崎、オタ活を辞めてでも大学院の試験・就活に向けて勉強を頑張っている岩波、医学部の進学が決まった石ノ森、そして過去を決別したあかね、そんな彼らの眩しい姿とは対照的に帰路の空模様は曇天だった


その後、もちろん彼らとは連絡することなく、家に引きこもってTwitterとアニメを交互にループしているだけの春休みはあっという間に過ぎて4月1日になった


大学2年はせめて単位だけはしっかり取ろうと思い、掲示板で楽単情報を調べたり、卒業までに履修する必要のある科目をしっかり頭の中に入れてそれを基に誰からも力を借りず、悩みに悩んで履修登録を完成させた。


そこまではいいのだが、今日の授業を確認しようと大学のホームページにログインしたら、


「月曜2限 青春 何これ…」


昨日までは空白だった時間割に青春という科目が勝手に追加されていた。しかも必修のマークがついている。ツッコみどころしかないが、そのあまりのピンポイントぶりに自分の1年間の大学生活を監視されていたかのようで鳥肌が立った。こんな科目は履修要綱のどこを見ても書いていなかったし、エイプリルフールだからといってうちのお堅い大学がこんないたずらをするとは思えない


教室の場所も教授の名前も書いてあるが肝心の授業内容だけがcoming soonと書かれていて明らかに怪しい。昨日の夜にいたずらで作ったようにしか思えない。ハッカーの生徒がいたずらをしたのだろうか


見なかったことにして無視しようとしたが、教室に行ってエイプリルフールでーすwとバカにされたところで今更自分のメンタルは傷つかないので行ってみることにした。最高の友達を失って自分の何かが吹っ切れたのかもしれない。今の俺は無敵だ!


最寄りの改札をくぐり湘南新宿ラインに乗って大学へ向かう。約2か月ぶりの人混み列車に大学の新学期が始まったことを実感させられた


「俺、春休み中に免許取得したんだけど、マジで凄くね?!」

「おめでと。俺は簿記2級受かったぜ」

「春休みのハワイのホームステイ楽しかったー! マイケル君と今でも連絡とっててGWにまた来ない?って言われてんだけど、流石に厳しいよなw」

「いやーあと一か月でまた18万稼ぐのは無理無理w」

「4月の初っ端から授業あるとか嘘であってくれよ…」

「それな。マジだるすぎ」


俺が1日中スマホを片手にベットで寝転がる生活を繰り返してる間に前を歩いてる大学生は資格を取得したり、海外にホームステイしてきたらしい。時間の使い方次第でこんなにも人間的に差が出ることに「ほえー」と驚くが、常に怠惰が先行する自分にとっては羨望の感情もなくただただ面倒くさそうと思うだけだった。最後の2人の会話については大いに納得した


さて、今から「青春」って授業が本当にあるかどうか確認するわけだが、事前に見た情報によると場所は3階の小教室らしい


10分前に教室に到着するが、室内の電気がついてるだけで誰もいなかった。まあここに集まるような奴らは言わば青春の負け組なんだし、遅刻や欠席は当たり前か~と気長に待つことにした


チャイムが鳴っても誰一人来なかった。やっぱり冷やかしだったのだと思って、カバンを持って教室から出ようとすると、突然…


「ッ?!」


背後にいる何者かに黒い布で視界をふさがれ、また声を上げようとするもガーゼのような何かで口を覆われ間もなく麻酔状態へと陥ってしまった


「対象…確保。これより彼を※@?〇にお送りします」


「了解。」


まだ意識が完全に消える前にトランシーバーのようなもので会話する声が聞こえたが、何でスマホ使わないねんとツッコむ前に俺の意識は深い深い底へと落ちていった

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