第33話 死に戻りという加護

「なんで転生者ってわかったの?」

「いや、ゲームなんて言葉が出るのは転生者以外いないだろ……」

 冷静に突っ込まれる。たしかに。

「話したい気持ちはすごくあるのだけど、この子がいるからこの話題控えてもらっていい?」

 キョトンとしいるアイナの方を見て言った。本物のロザリアはほぼ死んでいて(いや、私の心が折れたら出てくるのだろうけど)、私が成り代わっているということを知られたくはない。

「すまない、そうだよな。気が回らなくてすまん」

「いえ、いいの。つまり、あなたも日本にいた?」

「日本にいた」

「なるほどね、わかった」

 もうほんとは詳しく聞きたいんだけど、アイナがいるからそれはできない。死に戻りすれば覚えてないと言えばそうなのだけど、私には予感があった。この周回で終わるのだと。

「それで、あなたはそういう存在を守るように指示されているということ?」

「そうだな」

 ユーリが頷く。元のユーリは「そうだが、なにか? そんなこともわからないのか?」と一言多く付け足すような感じの悪いキャラだったのに、そんな面影はない。中身は別人なのだから当たり前だけど。

「正確に言えば、因果の糸に捕らわれていない人間を助けるようにと指示されている」

「ユーリは因果の糸が見えるの?」

「ああ。おそらく、加護の影響でな」

 因果の糸。キキリも因果の糸が見ることができる。見える人間は極少数なはずだ。

 因果の糸があるから、物事は収束する。因果の糸があるから、私が何度やり直しても家族が殺される。何度でも同じ時間にニャリ・ロゴナスがやってくる。試行ごとにランダムな結果にならないのはこの因果の糸のせい――あるいは、おかげ。

 多分そんな糸が世界中に張り巡らされている。この世界の摂理と言えるかもしれない。

「因果の糸が見えないから、似た者同士と気づいたわけね」

「そういうことだ。話が早い」

「あの、私が口出ししてもいいのかわからないのですが」

 とアイナが前置き。

「大丈夫、気になることがあれば聞いて」

 転生者とはなんですか、と聞かれたらヤバいけど。

「本当に私達が敵陣営ではないと確信したのですか? ゲーム?遊びとも違いますよね、なのでちょっとわかりかねましたが、敵だったらそんな間抜けなことを言わないだろうというニュアンスなのは感じ取れました。ですが、それが確証たるのか、ということです。すみません、ロザリア様。私達の命がかかっているので、これは確かめておかねばと」

「いや、待ってアイナ。敵じゃなさそう、という現状の方がよくない?」

「短期的にはそうかもしれません。ですが、もしある程度の情報をやりとりし、何日か経った後で実は敵だったということになれば――本当にユーリさんは私達を殺さなければならない可能性もあります。今なら、まだなんとかなります」

 言われてみればたしかにそうかもしれない。

 それに、私としても本当に味方なのか今知っておく必要があるように思えた。たとえ、この周回がなんとかなったとしても、あとでユーリが敵であることで詰む――そんな事態が起きる可能性もある。

 ユーリは聞きながらうんうんと頷いている。

「それはもっともな意見だ。考えてみると、そんなアホなこと言わんだろうと思って判断してしまっていたが、確証に至るにはどうにもまだ足りないな。そして、味方だと思っていてあとから敵だとわかった場合、取り返しがつかない可能性もある。俺の情報が筒抜けだとか、そういう意味でな。というわけで、だ。ええと、ロザリア?」

「そういえば名乗ってなかったわね。私はロザリア・ブラッドレイン。そしてこっちがアイナ」

 アイナがユーリに向かって会釈をした。

「ロザリア、質問してもいいか?」

 カップをテーブルに置いて、ユーリは改まって言った。

「どうぞ」

 私も背筋を正す。この質問で敵か味方か決まるのだろうから。

「俺の加護の一つは因果の糸が見えることだ。俺と同じ存在であれば、君も何かしらの加護を得ているはず。それを教えてくれ」

「加護、と言われても……。これが加護だ、と言われたものはないと思う」

「君は目覚めて何日目だ?」

 この言い方であればアイナもごまかせる。うまい言い方だ、と私は思った。

「カレンダー的には二日目……?」

「二日目って目覚めたばかりか。それは難儀だろう」

 ユーリが同情してくれている。最初は何もわからないまま異世界に来たのだから大変だった。

 でも、大変なのは最初よりも今だ。この死に戻りを繰り返す今が一番きつい。よくメンタルやられないもんだよ、私。誰か褒めてほしい。

「あの、でも、体感日数的にはすごく長くて……」

「どういう意味だ?」

 死に戻りをしていると言うべき悩む。信じてもらえるだろうか? いや、言おう! ユーリだって因果の糸が見えるんだ。死に戻りくらい大した事ないはず!

「死に戻りをして同じ日を繰り返してるの。もう、二ヶ月くらいかな」

「はあ!?」

 やはり驚かれてしまった。

 ユーリは口に手を当てて考える。十秒ほどして彼は口を開いた。

「それは――加護だろう」

「これが、加護?」

 こんなのが加護だと思いたくなかった。加護とは護りを加えるという字からわかるように、神から守ってもらうとかそういう意味だからだ。

 普通授けるならチートスキルじゃない!? 死に戻りは――泥臭い。悪役令嬢がもらいがちな、ある地点から人生丸ごとやり直しタイプならチートになるから別だけど、短期間死に戻りは本当に地獄だ。

「こんなの加護なのは、嫌……」

 本音が漏れてしまっていた。

「苦労してそうだな」

 ユーリは苦笑いを浮かべながら言った。

「加護は賢者によって施されるんだ。その、目覚めの時とかに」

 目覚めの時、とユーリは濁した。

 転生モノでよくある、転生前にスキルをもらうやつみたいなものか。

「因果の糸が見えるみたいな比較的弱めな加護ならどの賢者でもいけるんだが、死に戻りとなるとまあ時間の賢者しかないな」

「他の賢者って何があるんだっけ?」

 六人いた気がするのだけど、忘れてしまった。

「因果・混沌・破壊・生命・時間・秩序の六賢者だ」

 あの、女神みたいなのは時間の賢者だったのか。『死に続けて』と私に呪いの言葉を残した女。

「それで、ユーリはどの賢者から加護をもらっているのかわかっているの?」

「わかってる。話す機会があったからな。俺は破壊の賢者から加護をもらっている」

 破壊。あ、これダメだ終わった。どう考えても敵っぽい。

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