第32話 ユーリ・カラミティ
「なんだ、お前ぇ!」
クロードが叫ぶ。
私は立ち上がって、アイナに下がるように言う。私は、前に立つ男の背中を見る。華奢なためにそれほど広くはないが、力強く見えた。
「貴様らに恨みはないが、まだ戦うと言うなら相手しよう」
「やっちまえ!」
「壊れろ」
そう発して手を前に出しただけで、男達の魔導書が二つに割れて男達の手からこぼれた。
力量が違いすぎる。実際に対峙しているわけでもない私でもわかる。
「次は身体を狙う」
スケベな男の発言にも聞こえるが、意味は全く異なる。
「て、撤退だ! 覚えてやがれ、クソヤロー!!」
逃げ際、追われないようにちゃんと私の魔導書2冊を放り投げながら逃げていった。人のもの丁寧に扱え。
魔導書を回収し終えると、いつのまにか少年も逃げており、残ったのはアイナと私とこの黒尽くめの男だけだった。
「あなたは――」
「ここは危険だ。まずは場所を移すぞ」
私は彼に手を引かれて走る。私の知らない、彼のルートで5分ほど走っただけで路地を抜けてしまった。あれほど入り組んだ、迷路のような路地だったのに。
呼吸が落ち着いたところで私は切り出した。
「ちょっとそこのカフェででもお話しない? おごるから」
少し考えるような素振りをした後、
「わかった。ただ、それほど長居はできない」
「かまわないわ。入りましょ」:
三人で喫茶店に入る。どこにでもあるような個人経営の喫茶店。この世界にはチェーン店は――多分存在しないので、少なくともスタバのようなものはないので個人経営の喫茶店が主流だ。
席につくと、喫茶店の主人が注文を聞きに来た。
「私はコーヒーで。あなたは?」
「俺もコーヒー」
「アイナは?」
「私もいいんですか?」
少し驚いて言う。そうだ、まだこの周回ではアイナとは喫茶店に行ったことがなくて、以前のロザリアは店の前で立たせていたような女だったのだ。
「もちろん。飲みたいもの言って」
「じゃあ、ジュースで」
おずおずとアイナが言う。可愛いな、アイナは。
飲み物が来たところで、私は彼に聞いた。
「あの、どうして助けてくれたの」
「守れと命じられているからだ」
「誰に?」
「それは言えるかわからない」
「言えないならわかるけど、言えるかわからないってどういう意味なの」
「敵になる可能性もあるからだ」
「敵を助けてもいいんだ……?」
「敵になったら殺せばいい」
そんな冷酷な目で言われると怖い。
「殺すのは良くないと思います」
とアイナ。変なところで勇気がある子だ。
「そうだな。殺害でなく監禁に変えよう」
それはそれでどうなんだろう?
「ねえ、あなたの名前聞いてなかったわ。なんて言うの?」
「俺はユーリ・カラミティ」
「ユーリ・カラミティ!?」
思わず声を出していた。いや、知ってる! 普通に知ってる!
「知っているとなると――敵か?」
冷たそうな目が、さらに険しくなって「もう殺すしかなくなっちゃったよ」と訴えるような目になった。
「いや待って、殺せないで!」
私は懇願する。土下座して助かるなら土下座もしたいくらいだった。
「ロ、ロザリア様を殺すならその前に私を殺してください!」
「まだ殺さないし、その交渉はあまり意味があるとも思えないが」
アイナを殺したくないという人間には効果があるが、そうでないなら効果はゼロだ。いや、こんな小さくて可愛い子を殺したくないと思わない人間はいないだろ!
「なぜ、俺の名前を知っている?」
選択肢間違えたらたしかに死にそう。死んでもいいっちゃいい、と思うくらいには麻痺してるんだけど、まあ無駄に死亡回数を稼ぎたくはない。魔力の底も近い。
「えっと、ゲームで……」
「ゲーム?」
「ゲームに出てくるんです……敵キャラ?として……」
嘘を言ってもしょうがないと判断し、ぶっちゃける。
「ふふ、ふはははは! ひひひ、ひぃっひひひひぃ!!」
後半の笑い方怖っ。ユーリは笑い転げている。流石に床に転がってはないが。
「そ、それなら、はは。たしかに、ひひ、敵じゃ、なさそうだな」
まだ完全には笑いが収まっていない。
ユーリ・カラミティ。メインストーリーに出てくる男で、嫉妬から恋路を邪魔したり、悪いことを企てたりし、最終的には破壊神の依り代となる哀れな男。ゲーム内ではぼさぼさ前髪で目を隠す、いわゆる目隠しキャラで性格も悪く、たまに目が見えるグラフィックがあるのだけれども、目つきも悪くて印象最悪。
そんなユーリが、前髪を上げると――こんなにイケメンキャラになるのか。
印象が全く違う。性格も全く違う。目つきが悪いと言えば悪いけれど、冷たい目という感じでかなりあり! ゲームではとてもねちっこい性格で、「俺がお前を守る」とかそんなこと言えるキャラじゃない! 「お前なんて誰も守んねーよ勝手に野垂れ死ね」なら言いそうなのに。
「同じ転生者でも、敵の陣営の可能性があるからな」
今、同じ転生者って言った?
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