第28話 宿敵にボロ負け。正攻法で行くのが間違ってるわこれ

 廊下を歩いていると、猫女、ニャリ・ロゴナスが現れる。そうか、もう父と母を殺してリビングから出てきたところなのだ。明確なターゲットを見つけていないせいか、透明化は使っていない。

「お」

 猫女は私を見つけると、耳がピンと立った。

「ターゲットにゃ」

 言い終える前に、猫女が短剣を投げつけてきた。速い。以前の私だったら、そのままこの短剣が頭に刺さって死んでいたことだろう。

 私は顔を反らして飛んできた短剣を避ける。

 避けていようといなかろうと、猫女は距離を詰めてくる。猫女の右手には新たな短剣が握り締められている。

 詠唱破棄で血の刃を2つ作り出す。薄い刃なら時間はそうかからない。とにかくスピード重視。牽制に投げつけると、軽々とスライディングで避けられた。

 まずい。私は一歩下がる。猫女はスライディングから体勢を戻しつつ、短剣で切り上げてくる。

 一瞬即発の距離。拳と拳で殴り合うとしたら最適な距離。短剣同士であるなら――近すぎる。だが、後ろに下がる余裕がない。

 私は短剣での突きを繰り出すが、軽く左手の甲で弾かれた。猫女も突きを放つ。鋭く、速い突き。

 身体をよじってかわしたが、かなり胸下あたりが切り裂かれてしまった。致命傷ではない――が痛い。

「とどめにゃ」

 再び、猫女が突き刺そうと一旦腕を引く。たとえまた身をよじってかわそうとしても短剣を逆手に持ち替えて刺されそうだ。

「させるか!」

 私は猫女の短剣についた血を動かして彼女の顔に飛ばす。

「にゃにゃ!!」

 猫女は大きく後ろに飛んだ後、目に入った血を出そうと瞼を擦った。

 仕切り直しだ。

「ブラッドランス!」

 血の槍を生成し放つ――間に、猫女は構わずに距離を詰めてくる。発射された血の槍は、顔の少し前に構えられた短剣によってわずかに逸れて猫女の顔の横を通過する。最小限の逸らし。戦闘慣れの証だ。私は血の槍を戻そうとするが、きっと間に合わない。

 猫女の姿が消えた。

 ――透明化だ!

 武器も消えているので、どこから来るのか全くわからない。

 一番効果的な場面で使われてしまった。

 私は胸と顔を両腕でガードする。これが精一杯だった。それが間違った選択ではなかったとは思う。首を刺される危険性はあるが、首を刺されても血の操作をすれば多少は持つはずだ。心臓をやられたり、目をやられたりした方がまずい。

 選択は間違っていなさそうだったけれども、相手が強すぎた。

 視界が、突然変わる。映るは天井。ぐらり、と世界が揺れる。脳震盪。あとから考えると、これは蹴られたのだ。顎を蹴り上げられて、一瞬で意識が飛ぶほどの蹴り。

「おはようございます、ロザリア様」

 いつ死んだかも覚えていなかった。起きて魔力を測ると37。死に戻り前に使った魔力が回復し切れていないのだろう。

 まずポーション飲んで自害してみるか。

 これは実験だ。死に戻り前にポーションを飲むことで、戻った時に魔力が回復しているか。37以上になっていれば、無限やり直しができるということだ。

 リビングに入ると棚にあるポーションをがぶ飲み。母が止めるのも構わず飲み、ダッシュで自室に戻ってアイナを締め出して鍵を掛ける。扉の外では母親の喚く声とアイナの心配そうな呼びかけ。

 さて、ここで自殺を試す。ちょっと怖いな~と思うのだけど、なんか色々麻痺してるのかいけそうだった。血の刃を生成し、喉に刺した。血が流れていくのを倒れた私は見る。少しずつ寒く、意識も遠のいていく。

 いきなり高級品であるポーションを飲み干したと思ったら自殺する娘を見つける母親が不憫でならない。まあ、時間ごと巻き戻っていれば見ないで済むのだけど。世界線分岐パターンだったら……嫌すぎる。

「おはようございます、ロザリア様」

 魔力は36.

 結果としてはポーションの回復は死に戻りでの魔力消費に影響しない。回復すれば無限やり直しができたのに……。

 それから私はニャリ・ロゴナスと10戦ほど戦った。

 10戦ほどやって、こりゃどうにも勝てんなという結論に落ち着く。攻撃パターンをある程度は理解した。基本は心臓を突いてくるとか、急所をガードしているとガードをぶち破るわけわからん強さの蹴りを放つとか。食らった左手複雑骨折しました。


 現在の魔力は10。ヤバい……。もう魔法は節約しなければならない。魔法を使うほど、死に戻った時の消費も大きい。使いさえしなければ消費は1で済むが、使うと2から3ほど消費する。

 これはルートが間違っている。私はそう結論づけた。まず、両親普通に殺されてるし。私は少なくとも両親は救わなければならない――そう思う。私だけ生き残っても嫌だ。

 まず、両親を救うためにリビングにいるのはどうだろうか。ありな気はするが、メイドの犠牲は避けられないかもしれない。ニャリと戦っている間に手下が来たら勝ち目が確実に0。でも、メイド達にも死んで欲しくはない。

 ちょっと手詰まりだ。詰みってほどではないけど。

 まず、あの猫女と正攻法でやり合うのが間違いかもしれない。なにか手を考える必要がある。

 とりあえず私は初心に帰って、魔導書を買いに行くところからやり直すことにした。

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