第27話 私、魔法を使いこなす

「魔法の練習していらっしゃいましたね。捗りましたか?」

 窓からアイナが見ていたようだ。

「初めてにしては上出来って感じ」

 私はそう言ってアイナに微笑みかける。

「初めて……?」

「今日の中の初めてって意味ね」

 焦って言い訳をすると、アイナは何の疑問なく信じたようだった。

「ねえ、ところで魔力回復ポーションってある?」

「屋敷の中にはあるかもしれません。私には魔力がないのでそこらへんは疎いですが」

 ゲームにはあった魔力回復ポーション。この世界にもあるようで、アイナの言い分からすると比較的身近な存在なのかもしれない。

「ちょっとお母様かお父様に聞いてくる。昼食は食堂に運ぶように言って」

 私はそうアイナに命じた。ブラッドレイン家では夕食以外は自由に済ます傾向にあるが、今回は両親と食べることにした。

「ロザリア、あなた魔法の練習していましたね。あなたは才能あるのに練習を嫌う傾向にあるから、感心しました」

 母が言う。母も見ていたらしい。どうやら、ロザリアが魔法の練習をするのは余程珍しいらしい。

「ミア、この子はそう言うと恥ずかしがって逆に練習しなくなるかもしれない。何も言わずに遠くから見守っているだけにした方がよかったんじゃないか」

「それはそうかもしれないわね」

 両親が笑う。

「あの、魔力回復ポーションってうちにありますか?」

「あるけれど、どうしてだい」

「魔力を使いすぎてしまったので、飲めればと」

「ロザリア、そういう時は寝るものよ。あれは高級品なんだから」

 ゲーム内では大した金額ではなかったが、現実では違う。魔導書と似た例だろう。まあ、そんなにグビグビ回復薬を飲めたら魔法が使い放題だ。

「ミアの言う通りだ。緊急時用さ」

「すみません、私ったら忘れちゃってて。頭を打ったせいですね」

 ここ笑うとこなのに笑いが起きない。さっきまでの談笑はどうした? 二人とも、可哀想なものを見る目をしている。

「何かあった時のために、場所だけ教えて頂きたいのですが。もちろん、今日は飲みませんよ」

「ミア、たしかリビングに1本はあったかな」

「ええ。あとは物置にもあったような」

「そっちは賞味期限が心配だな」

「まあ、腐るものじゃないですから。回復しなくなるのと、ちょっとお腹を壊すくらいなので」

 お腹は壊すんだ……。

 私は昼食を早めに切り上げ、リビングに行ってポーションを探す。ポーションは棚の中にそれとわかるように置かれていた。それを部屋に持って行って飲む。

 魔力は10回復し、34に戻っていた。絶対値なのかパーセンテージで回復なのかはまた調べる必要がありそうだ。そして、母にバレて10分説教される。

 私は15時20分を玄関の前で待つ。三人の侵入者を容易に殺し、大男との対決。

 大男への対策を考えていた。詠唱を用いてブラッドレインを作れば倒せるだろうけれども、詠唱中に八つ裂きにされる未来しか見えない。それ以外の方法。あとは実際に効くか試すだけ。

「ブラックジャックと短剣? それじゃ俺を倒すのは無理だ」

「もう聞いたわ。何度もね」

「何度も言った記憶――」

「穿て、ブラッドランス!」

 血の槍を生成し、投げつける。男は斧の刃を盾のようにして防ぐ。これは想定の範囲内。

 距離を少し詰めてブラックジャックで打つ。全然効いてない。一歩下がって男の振り下ろされた斧を避ける。連撃。それも避ける。何度も戦っている相手なので、避けるくらいは簡単だ。避けつつ距離を詰めるのは、今でもやっぱ怖いけど。

 大振り。ここだ。私は距離を詰めて、胸に短剣を突き立てた。胸筋で短剣が止まる。その次に何が来るか私は知っている。私の頭を掴もうと大男の左腕が伸びる。私は短剣から手を離し、バックステップ。男の掴みを避けた。

「こんなん痛くも痒くもねえよ」

 短剣を掴んで抜いて、後ろに投げ捨てる。

「おいおい、もう終わりか。打つ手ねえじゃねえか」

「もう手は打ったわ」

「だから、もう打開策なんて残ってねえだろ!」

「たとえそうだとしても、殺されなきゃいいでしょ」

 私は逃げに徹する。

「逃げるな!」

 大男は苛立ちながら言う。逃げなきゃ死ぬし。

 私は全力で逃げて、男を疲れさせる。 

 1分ほど逃げ回ったところで、

「あ?」

 男は胸を押さえながら床に倒れる。男はのたうち回って苦しんでいる。私は男がもう立ち上がれないことを私は知っている。そして男は血を吐き出す。

「ど、毒か?」

「違うから安心して死んで」

 男は応える余裕もなく、苦しみ続けている。私も心臓を刺されて死んだことが何度もあるが、心臓が止まるというのはかなり苦しい死に方だ。まあ、刺されて止められた方が苦しいと思うけど。

 毒を短剣に塗ろうと考えたこともあったが、毒の作り方も入手法も知らなかった。

 短剣に塗っていたのは私の数滴の血。その血を操作し、傷口から男の体内に侵入させた。血管に入って、心臓付近で硬化させる。するとどうなるか。心筋梗塞を引き起こす。。魔力耐性のほとんどなさそうなこの大男だから効いた方法。

 ようやく、私はニャリ・ロゴナスと対峙することができる。

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