第22話 38周目 父から一本を取る

 深呼吸。私は玄関の扉から少し離れたところに立っている。メイド達には隠れるように言った。せめて手下の男達くらいは倒せるようになければならない。

 15時20分。扉が蹴破られ、男が二人入ってくる。二人? もっといたはずだ。遠くから、窓が割られる音。

 なるほど、侵入は分散しているわけか。取り逃がした場合を考えると、分散していた方がいい。

「赤髪、お前ブラッド――」

 先手必勝。武器を抜く前に殺す。

「っぶねぇ」

 私は近寄って突きを放ったが、避けられてしまった。もう少し近くにいればやれたのに。

 二人が武器を抜く。後から入ってきたのはアイナを殺した男。最初の男はよく知らない。獲物は二人とも剣。

「ブラッドレイン家の人間はすべて殺すことになっている。悪いな」

 二人同時に斬り掛かってくる。ヤバいヤバい、避けて反撃とかそういう次元じゃない。少しミスったらあの世行き。いや、死に戻りするだけだけど。 

 避けきれず、斬撃が私の身体を切り裂く。そうなると動きが鈍くなり、続け様に攻撃が来て――死亡。

「おはようございます、ロザリア様」

 おはようアイナ。それから私は同じように父に稽古をつけてもらい、15時20分。今度は玄関のもう少し近くで待つ。

 扉を蹴破って男が入ってくる。不意打ちで、心臓目掛けて刺す。男はまさか奇襲をかけられると思ってはいないので簡単に成功する。問題は二人目。最初、アイナを殺した男。私は短剣を抜いて距離を取る。

「情報が漏れてる――にしてはターゲットがわざわざ出迎えてくれるというのも変な話だな」

 男は剣を構える。こちらが剣であればなんとか刺し違えることができた相手。

 一人だけなら距離を保てば避けられる。ただ、反撃できるかというとそれは別だった。

 このまま避け続けても埒が明かない。私は一か八かで突っ込んだ――ところ、返し刃。私の身体を剣が切り裂く。そのままとどめの一撃が私の頭蓋に向けられる。死。


「おはようございます、ロザリア様」

 今日の魔力は61。 今は38周目のはずだ。どうやら30回以上死んでいる。突っ込むと返し刃でやられて、隙を見てチクチク削ると腕を飛ばされたり、どこかで避けきれずに死。それが30回以上繰り返されたのだった。

 でも、それは無駄死にではない。

 私は父と稽古を設定する。これももう30回以上やっている。でも、まだどの死に戻りでも一本取れていない。

「今日こそお父様に一撃を入れます」

「今日こそ、というか、稽古つけるのはほとんど初めてなのだけれど……まあいいだろう」

「今回、こちらを使わせて頂きます」

 そう言って私はポケットから靴下を取り出した。そしてそれを左手で振り回す。右手には短剣。

 これが私の戦いのスタイル。ようやく戦闘スタイルを確立できたのだった。

「それは――ブラックジャックか」

 靴下に石を詰めて作った即席のブラックジャック。これは私には慣れた武器だった。既に何度も試していて、自由自在とまではいかないが精度も悪くない。

「お顔には当てないように気をつけますが……」

 イケオジの顔を台無しにはできない。

「血の鎧でギリギリ防げるか防げないか、というところかな。よし、やってみよう。私に一撃を入れてみたまえ」

 まずは突き。蛇のように――突く。私は幾多の戦いにおいて学んだ。直線で突くよりも読みづらく、払われにくい。

 時折、直線の突きも混ぜる。

 突きの応酬。父の突きも私はかわせるようになった。

 目だ。目で攻撃を追えるようになった。これは実践経験のおかげだろう。身体はギリギリだけどついてきてくれる。

 父が左腕で身体を守りながら突っ込んでくる。以前の私だったら対処できなかっただろう。刺そうにも腕が邪魔で致命傷にはならず、逆に距離を詰められてやられる。似たようなことはもう何度も経験した。

 私は後ろに下がりながら、振り回しているブラックジャックで頭目掛けてカウンター。流石にこれに対処するために、父は止まって頭をかがめた。

「随分実戦慣れているね。どこの誰かは知らないが、指導上手だな」

 鍛えてくださったのはお父様です。

 お父様の突きをスレスレでかわし、こちらが突きを放つ。入った――と思ったら父が二本指で短剣を受け止めていた。化け物か。

 ここで左手のブラックジャック。脇腹に当てるつもりで振るう。父は右腕を下げることでガードする。腕では一本を取ったとは言えない。私は腕に当たったブラックジャックを離し、そのまま掌底を父の顎に。私のこの流れるような所作に、父は着いて来れなかった。掌底は顎で寸止め。

「参った。一本だ」

 父は降参のポーズをした。私はやったやった、と飛び跳ねる。

 初めての一本だった。似たような流れはこれまでもあったけれども父の方が速く、避けられたり、逆に反撃されたりしてきた。ここまで動けたのは、これまでの経験だ。何度も繰り返し、魂に記憶した動き。経験は無駄ではなかった。

「ロザリア、君はまだ強くなりたいのかい?」

「はい」

 きっと、これでもまだまだ足りない。それほどニャリ・ロゴナスは強い。

「レッスンスリーを設定しよう。魔法と体術を使って、私から一本取ることだ」

 ……魔法使えない。詰んだ。

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