第20話 稽古3――武器を剣から短剣に変える

「レッスンワンはクリアしたってことかい?」

 父は爽やかな笑みを浮かべながら言った。イケオジすぎて推せる。

「はい、お父様にレッスンワンを設定して頂きましたので」

 どうせ死に戻りするから、というのもあるけど、多分お父様なら理解してくれる。

「覚えはないのだけれども、内容を聞いてもいいかな?」

「全力で斬りかかることができるか、それがレッスンワンでした」

 それを聞いて父はうんうんと頷いている。

「ロザリアは実戦的な力をつけたいのだったね。確かに、その条件であればレッスンワンは適切だ。私が設定するのであればそうするだろう。まあ、私がいつレッスンワンを課したかなんてことは、ロザリアが鍛えてほしいという気持ちに比べればひどく些細なことさ。では、レッスンツーと行こうか」

「レッスンツーはなんですか?」

「私と戦うことにしよう。まずは一撃でも与えることだね。本気で斬り掛かってきなさい。もちろん、私からも攻撃する。私の血の剣は当たっても形を崩すだけだから害はない」

「お父様の剣撃が安全であることはわかりました。ですが、私の剣がお父様を傷つけてしまうかもしれません。それは大丈夫ですか?」

「それも安心してほしい。来るとわかっているのなら血の鎧を纏える。今は見えていないけれども、全自動で当たる瞬間に防御してくれるというわけさ。まあ、それほど防御力は高くないけどね」

 父は私に対して血の剣を構える。私も父に対して剣先を向ける。

 剣を振り上げて父に斬りかかる瞬間、父の剣が私の身体を走った。振り上げている腕と首、それから切り返しで胴体。痛みはない。服に血の跡も残っていない。ただ、身体をなぞられた感覚だけがある。そのまま剣を振り下ろしたが、かすりもしない。

「今ので2回死んでる。随分緩慢な振り下ろしだ」

 そう言われて、ぐうの音も出ない。けれども、ニャリなら私は4回殺しているかもしれない。

 少しでも速く。そう思って剣を振るうが、ほとんど変わらない。想いは筋肉を支配できない。

 攻撃はかわされるか、受け止められた。私と父は赤子と大人くらいの差があった。

 もう息が上がっている。10分も経っていないのに。

「ロザリア、君はいつまでに強くなりたいんだ」

「明日までに」

 息を切らしながら答える。本当は今日中で、半日もない。

「そうであれば、ロザリアは剣が向いていないな。他の武器にした方がいい。根本的に筋力がなさすぎる。どうして剣を選んだ?」

「部屋にあったからです。それに、剣はリーチが長いから」

「そうだね。リーチが長い。それは大きな利点だ。ただ、まともに扱えればの話だ。どうして強くなりたいかは知らないけど、時間がないのなら、そうだな――短剣がいいだろうね」

 奇しくもニャリ・ロゴナスと同じ武器。あの猫女と同じ武器と考えると、ちょっと嫌な気持ちになる。だって、私は何度も短剣によって殺されているから。

「あの、お父様。仮想敵も短剣なのですが、それでも短剣の方がいいでしょうか」

「ロザリアと同程度の実力であれば、剣の方がいいだろうね」

「仮想敵の方が圧倒的に強いです……」

「そうなら、その仮想敵の設定がよろしくないな」

 それはそうだ。もっと自分にふさわしいレベルの敵を設定し、それに追いつく努力にすべきかもしれない。でも、それじゃ間に合わない。

「しかし、そのゴールポストをずらせないならしょうがない。力量に差がありすぎるなら、多少は動ける短剣の方がいいだろうね。少なくとも、剣を隙だらけで振り上げている時に致命傷を負うことは回避できる」

 隙をなくせるだけでもメリットはある。まあ、それでも短剣でニャリ・ロゴナスに勝てるビジョンは全く見えないけど。

「私は短剣を持っていますか?」

 随分素っ頓狂な質問をしているな、と思った。けれども、実際わからないのだからしょうがない。

「おいおい、二年前の誕生日にプレゼントしただろう」

 言葉だけ見ると罪悪感を抱かせるような言い方だが、爽やかに笑いながら言ったのでそこに嫌味は全く含まれていなかった。

「その様子だとすっかり忘れているな。父さん悲しいよ」

「ごめんなさい、お父様」

 誕プレ忘れる形になってるのはほんと申し訳ね~~!! でもロザリアなら忘れてそう。

「本当は使われずに眠っていた方が平和でいいんだ。気にしないでくれ。机の中か、あるいはどこかにしまってあるんじゃないかな」

「持ってきます」

 部屋に戻って掃除をしていたアイナに短剣の在り処を聞く。

「クローゼットでは見たことがありません。机の中か、そこにもなければブラッドレイン家の押入れでしょうか……」

 押入れに押し込まれていたらやだなぁと思いながら机を開けると、短剣は手前にあった。柄頭に宝石が埋め込まれている。それは血の色のような、赤いルビーだった。手前にあるということは、ロザリアがたまに見ていたのかもしれない。おざなりにされていなくて少し安心。

「特訓、頑張ってください!」

 部屋から出ていく時、私はアイナに応援された。ありがとね、と私は手を振って応える。

 アイナを死なせずにループを終わらせるから。私は心の中でアイナに向けて言った。

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