第15話 セーブポイントからの再開

「おはようございます、ロザリア様」

 その声で私は目覚める。

 あれ? 私死んだはずだけど。私ーーというか、アイナも死んでいるはずだ。

 しかしここはどう見ても死後の世界とは思えない。天蓋のベッドから見えるはロザリアの部屋。

 アイナが魔力石を持ってきて、ベッドに腰掛けてる私に差し出した。

「これは魔力石ーーね」

「はい」

 このやりとり、前にもあった。前と言うには近すぎる。だって昨日?のことなんだから。

 魔力石を受け取って握る。魔力が石の表面に文字として表示される。98。

「問題ないですね。では朝食のために顔を洗ってーー」

「ちょっと待って!」

 私はアイナの言葉を遮る。

「今日は何日?」

「4月7日です」

 それを聞いて考え込む。 殺された昨日?も4月7日だったはずだ。ちょっとうろ覚えだけど。

「今日の予定は魔導書を買いに行くこと?」

「はい、そのようになっています。思い出されたのですね!」

 わかった。完全に理解した。

 これ、リゼロやオール・ユー・ニード・イズ・キルに代表される『死に戻り』だ。死ぬとセーブポイントに戻るタイムリープを指す。転生前に聞いた、あの女神のような声での『死に続けて』。これを指していたのか!

 試さなければならないことができた。

「アイナ、聞いてほしいのだけど。頭がおかしくなったわけではないの。いいね?」

「…? はい」

「私、死に戻りをして既に今日のことを体験しているの」

 死に戻りの他者への告知。作品によってそれは制限されていることがある。メリットにならないので自発的に言わないパターンか、言うと何らかの害が及んで制限されるパターンか。どちらかを知る必要がある。大抵の作品では、「死に戻りをして全部何もかも私はわかっているんだよ、信じて」ができると簡単すぎるのでそれができるようにはなっていないのだ。

 アイナは首を傾げる。

「そうなんですね」

 会話終了。

 君子、危うきに近寄らずなのか深く触れようとはしてくれない。

「信じて! 今日何が起こるかわかっているの」

 若干引いてる。主人がいきなり頭おかしくなったらそりゃそうか。

「ええと、ではこれから何が起きるのですか?」

 渋々、アイナが突っ込んでくれた。

「15時か16時頃、ブラッドレイン家の人間がみんな殺されるの。もちろん、私も。殺し屋と、あとはチンピラみたいな男達がこの館に侵入してくる」

 もうアイナの顔でわかる。半信半疑。半は言いすぎたかも。60〜70%疑寄りで間違いない。

 単純に、死に戻りを信じさせることが難しい。何時何分に何が起きて、何時何分には〜〜というのも披露すればいいのだけど、そんなの覚えてない! 終わった!!

「メイドを含めてみんな殺されるのですか?」

「‥…何人かのメイドは助かった。アイナも、なんとか逃げられたみたい」

 ただの願望。けれども、それを聞いてアイナの強張っていた顔が少し緩んだ。

 ロザリア様、とアイナが改まって言った。

「それが事実になろうとも、ならなくとも、私にはあまり関係がありません。関係がない、というと冷たい言い方になってしまったかもしれないのですが、いついかなる時も私はロザリア様に付き従うからです。ロザリア様が何かをしてほしいと言えば、私のできる範囲であればそれを行います。ただ、私にできる範囲というのがそれほど大きくありません。魔法が使えるわけでも、力が強いわけでもありません。だから、ロザリア様、もし惨劇を止めたいのでしたら私でなく御当主様と奥様に伝えるべきかと思います」

 たしかに、アイナの言う通りだ。すぐに両親のもとへ行こうとしたところで、

「まずは顔を洗って朝食にしましょう」

 アイナが微笑みながらそう言ったので、朝食を摂ることにした。前回と同じように、一つパンケーキをアイナにあげると喜ぶか試したところ、やはり喜んだ。

「お父様、お母様、失礼します」

 リビングを開けて入ると、母がソファーに座って読み物をしているところだった。父はいない。

「カイなら書斎にいるんじゃないかしら」

 カイ・ブラッドレイン。この屋敷の当主にして、私の父。

「お母様、お話があります」

 私は母の向かいのソファーに座った。母は本を閉じてこちらを見る。

「私はこれから起きることがわかります。あと何時間かすると、この屋敷に不埒な人間が押し入り、ブラッドレイン家の者を全員殺します。あまり時間は残っていません。手を打たねばなりません」

「それをどうやって知ったの?」

「未来が見えまして…」

 母は眉をひそめ、疑わしげな視線を私に向ける。

 娘にそんな視線を向けるな。信じてやれ。

「アイナ、どうなの?」

 母は私でなく、アイナに問うた。

「ロザリア様は…本気です」

 それを聞いて母はため息をついた。

「頭が打ってアレになっちゃったのかしらね。昨日の食事でもひどかったもの。……ロザリア、メイド達に多少の警戒に当たらせることはできるわ。でも、警備隊がそんな不確かな情報で来てくれるわけがない。ねえ、ロザリア、私達はなぜ狙われるの? アコギな商売をしているわけでもないし、領民の税金もひどいものじゃない。私とカイも、恨まれるようなことはしていないわ。そんな人間じゃないことはロザリア、あなたが一番知っているでしょう」

 なぜ狙われるのか。それは全く見当もつかない。ゲーム内でのロザリアは恨まれてはいそうだが、この段階ではまだ主人公をいじめてないはずだ。

「ですが、今から逃げればーー」

「一族を皆殺しにしたいと思う奴ら来るのであれば、それは時間稼ぎに過ぎないわ」

 たしかに、それはそうだ。私は言葉に窮する。

「戦うにしたって、そんな奴らが来たらどの道戦うしかない。だから、その未来が本当だとしてもあまりできることはないわね」

 お母様、正論。私は正論によってボコボコにされてしまった。

「まあ、カイにも伝えに行くといいわ。今は書斎に籠もっていると思うから」

 私は立ち上がり、母に一礼をした。部屋から出ようとしたところで母が言った。

「あ、どんな敵が来るの?」

「透明化の魔法を使う暗殺者です」

「やっぱりどうにもならなそうね」

 母は苦虫を潰したような顔をしながらため息をついた。

 私達は書斎に移動する。そしてノックを2回。

「お父様、入ってもよろしいですか」

「どうぞ」

 中は書斎と言うくらいなので本が沢山並んでいる。魔導書、小説、何らかの学問の専門書が所狭しに敷き詰められている。父は大きな机に座って書き物をしていた。

「お時間大丈夫でしょうか」

「構わないよ」

「単刀直入に言います。何時間か後にこの屋敷に襲撃がかかり、ブラッドレイン家の人間は全員殺されます。敵は透明化の魔法を使う暗殺者です。父は心臓を一突きされて死にます。この情報をどのように知ったかというと、既に体験したからです。私も殺されたところで、その日の朝、つまり今に戻ってきました」

「ミアには伝えたか?」

 ミア・ブラッドレイン。私の母。

「はい、既にお伝え済みです」

「では、ロザリアは部屋に戻って一時間ほど待っててくれないか。ちょっと私とミアで話をしたい。その後でロザリアとアッシュも交えて家族で作戦会議をしようじゃないか」

 なんて話が早いんだ! 流石お父様! イケオジ!

 私達は自室に戻った。

 

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